上野の東京文化会館でエリアフ・インバル指揮都響でチャイコフスキーの幻想曲「フランチェスカ・ダ・リミニ」とショスタコーヴィッチの交響曲第11番「1905年」。「フランチェスカ」から絶好調だったが、後半の「1905年」が心胆寒からしめる超弩級の名演。まあ交響曲第12番「1917年」と並んでただの描写音楽で保身を狙ったプロパガンダ臭がすると言われ評価の低い曲だが、こうした名演を聞くと、演奏効果が恐ろしく高く、また終楽章など終結部のバスクラリネットの「そんな簡単なもんじゃないよ」という反体制の冷笑を思わせる吹奏など、交響曲第5番の終楽章なんかよりよほど複雑だ。

そして「血の日曜日」を描いた第2楽章。まさに肺腑をエグるようなド迫力だ。手抜きを絶対に許さない指揮者だから可能な表現だ。聞いているほうが奏者に同情してしまう。スネアドラム、ティンパニーは腱鞘炎、シンバルは急性難聴確実ではないかな。弦楽器も凄い弓圧でゴリゴリ弾いている場面が多かった。

「血の日曜日」は宮殿前でデモをする民衆に政府が出動要請した皇帝派の軍隊が発砲した事件。少なくとも千人の死者が出たと言われる。ロシア革命の発端である。聞いていて、昨日遂に死者の出た今の香港の悲惨をかなりの人が思い浮かべたのではないだろうか。

インバルは1936年2月16日生まれの83歳。83歳の爺さんの指揮ではない。今は台北市立交響楽団のシェフだ。そんなマイナーなポストでなくともやれるのだろうが、まあ気ままにやっているのだろう。日本では客演は都響だけのようだ。

今晩は、ティーレマン指揮ウィーン・フィルの「ブルックナー交響曲第8番」の演奏会がサントリーホールであった。電話で問い合わせたら、「S席3万7000円のみ残券僅少です」とのこと。良席確実に取れるなら払ってもいいと思ったが、さすがに不安でこちらに来た。昨日エリザベス女王杯の馬券は獲ったが、さすがに3万7000円は考える。芸術を値段で判断してはいけないが、こちらはS席(1階13列25番)7500円。インバル指揮都響を選んで大正解だったと思う。