湯船の中でお腹のぜい肉をむにーとつまみながら
(近頃、腹肉がいちだんとね……。ま、仕方ないかトシだもんね)。
でも体重は変わってないと自分に言い聞かせるケンジ。
「うわ~~~、矢吹さん。いちだんとうすくなったっすね~~!」
ケンジのヘアカットをしていたタブチくんに言われて落ち込むケンジ。
「タ、タブチくん、はっきり言うなあ……」。
「いやー、だってコレやばいっすよ。しかも額からハゲてくんじゃなくて
矢吹さん、頭頂部からきてんだもん!いやー、やばいっしょ!」
タブチくん、やめてあげて……。
心が折れて帰ってきたケンジ。
「シ、シロさーん。俺、俺、最近ね……っ」。
風呂上がりの髪くろぐろ、ふさふさ、おなかスッキリ!のシロさんに
「神様……っ!俺は今日はじめてパートナーに殺意を抱きました!」
「あのなあ、ケンジ。髪のほうはともかく、体については、
俺は20年近くジムに通って、週1か多いときは週2、必ず
1キロ以上泳いで体型維持をしてきたの!文句はちゃんと定期的に
運動を続けるようにしてから言ってくれ!」
正しすぎてぐうの音も出ないケンジ。もともと痩せ体質なうえ
シロさんのヘルシーな食事のおかげで今まで運動しなくても
何とかやってこられたらしいです。
それがわかってるなら自分が入っているジムに入会しろとシロさん。
泳げないケンジに、平日の昼間だったらリタイアした人が
たくさんいるから一緒に水中ウォーキングしたらどうかと。
「イヤ~~ン。なんかそれもせつない~~~~」。
「イヤ、別に俺はいいのよ?俺はお前が肥えてヒゲクマになっても
それはそれで愛せるよ?」
「キーーー、くやちい。かつて俺が言ったセリフをまんま返された~!」
で、ケンジはジムに入会。シロさんの言う通り、プールで
歩いている人がいっぱいいたし、休みの日はランニングも
してみようかとやる気が出てる様子。
でも夕飯の支度をしているシロさんのふさふさな髪を見ながら
何かを思っているケンジ。体型は戻りそうだけど髪はね……。
次の日の夜の献立は、豚肉のみそ焼き、なが芋の梅肉あえ
白菜とホタテのクリームスープ、甘くない小松菜の白和え。
はー、家に帰ったらこんな料理がテーブルにのっていたら幸せだ。
後はケンジが帰ってきてから豚肉を焼こうと思っていたときに
「ただいま~」の声。「おう、お帰り!」と振り向いた
シロさんの目に入ってきたのは、なんと!短髪、金髪のケンジ!
「これ、どーかな~~~」。
「……へー……。うん!金髪も悪くない!」
「そ……そお?」
「いーよ、いーよ。さっぱりしたじゃないか」。
いつものようにおいしい料理を食べているうちに
短髪にしたショックから立ち直るケンジ。
「え?ショックだったわけ?」
「そりゃあねえ。こんなに短くしたのなんて、丸坊主だった
中学生以来だしさ~~~」。
そういえば、父ちゃんと最後に会ったときのケンジは坊主だったね。
「そうなんだ。俺はホントにいいと思うけどね、その髪型」。
「わ~~~ん。ありがと、シロさん!彼氏にこのほうがカッコいいって
言ってもらえたんだから、もういいって思うことにする~~~!」
「イヤー、だってお前の頭頂部、だいぶきてたもんな!
完全にいっちゃう前に短くしたほうが絶対見苦しくないって!」
ずん!とコケながら、再び、殺意がわくケンジなのでした。
でも、シロさんにとって、どストライクの髪型みたいよ、それ。