2008年大河『篤姫』の成功要因を考察する…その1 | 2019、映像メディアは死んだ ~ テレビドラマ・映画・Web動画をめぐって

2019、映像メディアは死んだ ~ テレビドラマ・映画・Web動画をめぐって

2018年末頃より、大河ドラマのみならず、民放ドラマや映画、Webドラマなど、必要とあらばあらゆる対象を評論の俎上にあげます。

「名作」と呼ばれる過去の作品の再評価も、積極的に試みたいと思います。

2018年末頃より本格始動予定(管理人都合により変更の可能性有)。

 

 2000年代の「おんな」大河、最初にして現在のところ最後の成功作である『篤姫』。脚本家としては最悪レベルの評判を持つかの田淵久美子が、初めて大河ドラマにおいてクローズアップされた作品、そして歴代の大河ドラマを通じて、幕末大河最大のヒット作となった作品…『篤姫』には制作・放送から9年経過した現在でも、多種多様なる評価がついてまわる。

 

 2000年代に制作された大河ドラマの中でも、やはり宮崎あおいの演じた篤姫の卓越した演技力、美しさ…これらは目を見張るモノがあったし、他ならぬ宮崎あおいの存在そのものが重要成功要因であったことは現在においても疑いようが無い。

 

 

 田淵久美子と森下佳子、この2人には奇妙な共通点があって、特に1)良質なる原作の力を借りて初めてヒット作を生み出せること。2)オリジナル脚本になると、これといった歴史観が無い為、荒唐無稽なる方向へと暴走する、といった悪癖があることなど、非常に良く似ている。しかしこの『篤姫』においては、しっかりとこの田淵の悪癖は封じられており、やはりそこは定説通り、裏で制御を利かせていた兄、田淵高志の存在を意識せずにはいられない。

 原作の宮尾登美子による『天璋院篤姫』を田淵久美子が選択した動機というのが、何とNHK側からの脚本のベースとして提示されたいくつかの原作から、「表紙のデザインがイイ!」という理由で田淵氏が手に取ったこと、だという。大河としての『篤姫』誕生には、この様な偶然も実は作用している。

 

 宮崎あおいの脇を固める俳優陣の力にも、『篤姫』は大変に恵まれていた。ここまで凄い揃え方は、そうそう実現しないだろう、という位の布陣である…ざっと名を挙げると、長塚京三、樋口可南子、松坂慶子、高橋英樹、堺雅人、草刈正雄、北大路欣也、江守徹、平幹二朗、真野響子、星由里子…まるで大河ドラマ・オールスターズの様な、そうそうたるメンバーである。

 

 放送開始より、幅広い女性層の人気を勝ち取って視聴率を上昇させ、後半クライマックスである第48話「無血開城」にて最高視聴率の29.2%を記録、平均視聴率は24.5%、最低視聴率は第1回「天命の子」の20.3%・・・という、恐ろしく理想的な盛り上がり方であった。

 


 そして私は、更に『篤姫』が数多くの共感を呼んだ理由を深く深く考えようとする。

 

 結局物語に、何を以って思い入れを持たれるかは、主人公の生き方に共感出来るか出来ないか、ここにかかっている。そんなの当たり前だろ!と誰しもが思うのだろうが、いま現在、これが実現出来ている物語が現代劇含めて、いったいどれだけあるというのか。

 

 近年の大河ドラマに絞ってみても、『江』(きしくも脚本が田淵久美子。大コケしたが…)における上野樹里は全く脈絡も必然性も無く歴史の節目となるイベントに絡み、その割には男達が血みどろになって守る城の中でヌクヌクと菓子を頬張り「戦(いくさ)は嫌でございます」、などとヌケヌケと言ってのけた。また、『花燃ゆ』の楫取美和こと井上真央の、兄(吉田松陰)の松下村塾で幕末男子を育てました、兄が死にました、自分と結婚した門下生も死にました、松下村塾を守って来たけど放棄しました、亡き姉の遺言で義兄(亡姉の夫)と結婚し、群馬県令夫人となりました、だけど県令を辞職した夫に従い東京に来ました・・・という、こんな特徴に乏しい生き方に共感を見出すのに難があった。

 

 では…今川の斬首の下知から危機一髪で逃れた、幼き頃からの許婚と10年振りに再会し、許婚は他の女と結婚したものの、同じゆかりの土地に暮らせる様になった…だがそれも束の間、領主たる許婚はあえなく謀殺され、許婚への想いと遺志を守るため、自らが領主となった…そして許婚のたったひとりの遺児が成長し、立派な跡取りとなるまでは、命を賭して井伊と虎松を守り通す覚悟を持った女の生き様を描いた『おんな城主 直虎』はどうであろう。

 

 まだ現代女性の共感を呼ぶ余地が、先行する失敗作よりはあるのかも知れない。なぜならば現代日本には、様々なる理由でシングルマザーを強いられた女性も居れば、亡き夫に代わり、店舗や会社を切り盛りする女性も、決して少なくないであろうから。

 

 ただし、ここが重要なポイントの分かれ目になるのだが、果たして姿までが男性となることで、どれだけの女性が共感を寄せられる、というのだろう?いま時男装した女性で、一般的に浸透している女性など井脇ノブ子と神取忍位しか居ないと思うのだが。。

 

 言うまでもなく史実における井伊直虎が、わざわざ尼姿から尼削ぎを晒して男形になったなどという記録は無いし、女地頭である事を公にしなかった訳でも決してない。

 

 つまり直虎が、物語においてわざわざ男形になったのは、森下佳子氏が『ベルサイユのばら』をモチーフに直虎のストーリーを構築したかった事以外に、さしたる理由は見当たらないのである。

 

 『ベルばら』において直虎同様の男装を施した麗人・オスカルは、アンドレとの関係性があって初めて共感を深める事が可能であった。井伊直親や小野但馬守政次との関係はともかく、龍雲丸とのゆきずりに近い関係では、とても『ベルばら』へのオマージュなど表現出来ないだろうに…。

 

 また、『直虎』においては直親にせよ龍雲丸にせよ、アンドレ程オスカルに匹敵するキャラクターとして描かれていない。また小野但馬守政次は、そもそものキャラクターのベクトル自体が、アンドレとは異なっている。

 

 結果として『直虎』は、戦国史の合戦におけるダイナミズムや策略におけるサスペンスの描かれ方を望む男性層は言うに及ばず、女性視聴者からの共感を引き出すことにも失敗した。

 

 NHKは『篤姫』の甘い夢よもう一度、の単純志向で、9年の間に5本もの「おんな」を冠した大河を乱発した。「おんな」を冠しさえすれば視聴者がついて来てくれる訳では無く、寧ろその様な浅薄思考が見透かされて余計に反発を買う・・・この構図に気が付くまでに、NHKは何年を要しているのであろうか…?

 

 NHKはこの膨大な年月と費用をかけた誤りを償う意味でも、最低10年は「おんな」を冠した大河ドラマを封印すべきだろう。 (つづく)

 

 

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「おんな城主 直虎」BD&DVD完全版第壱集8月18日発売

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