「私の『ヘビロテ』アルバム」シリーズ。気軽に好きなアルバムを好きなように語るつもりだったが、皆様にそれらのアルバムたちの素晴らしさを伝えたいがあまり、なんのかんのと書くのにエネルギーと時間を費やしてしまうのだが、書き手の熱量に反比例して、アクセス数が減るので(´；ω；`)ｳｩｩ、3回目にして既に息切れ気味(^_^;)　まあぼちぼちやってきましょう。

本シリーズでは、私が今まで高頻度で聴き続けてきたアルバムたちのうち、まず「癒し」類型のアルバムを紹介している。

今回は前回のロス・インカスとウルバンバに続き、「ロス・ユラス Los Yuras」の3枚のアルバムを中心にご紹介する。

0．要約

（１）ロス・ユラスは、ボリビアのコンフントで、1970年以前に結成され、70年代半ばごろまでに歌手でパーカッション担当のルイス・アリアス Luis Ariasを中心としたグループとして再結成され、そこから次々と名盤を輩出したが、おそらく21世紀にはいる前に消滅した。

本稿では、ロス・ユラスのかなり輝かしい前史に触れつつ、主に再創設後のロス・ユラス（以後、特に断りの無い限り、再結成後のグループを指す）にスポットを当てる。

（２）再結成後のユラスは、1976年から1997年の約20年の間に、通算5枚のアルバムを遺した。ことごとく名盤・佳作である。

（３）アルバム1枚目【ヘビロテ認定】（1976年M&S records盤）と、2枚目【ヘビロテ認定】（1979年M&S records盤）は連作（「これが私たちの国、ボリビア」シリーズ）であり、テイストも似通っている。

くわえて、その後、合併して一枚のCDに統合されたので、今となっては一緒くたにされてしまっているが、両アルバムの歴史的意義は大きく異なる。1枚目は、他国の先行グループのレパートリーの引用と吸収・消化、スタイルの確立がメインテーマであり、そんな難事業をたった本譜一枚で軽々とやってのけて、大成功している。

2枚目は、前作で消化した内容をオリジナリティへ昇華させ、ボリビアのその後のコンフント演奏のうちの、ある系統、すなわち「ノリに頼らず、静かにしっとり聴かせる系。聴き手を踊らせない系」の源流としての記念碑的作品になっている。

（４）3枚目（1980年Campo盤）こそが、彼らの5枚の中でも最高傑作【スルメ認定】である。選曲が素晴らしく、演奏的にも本譜がロス・ユラスの頂点と言ってしまっていい。ただ版元がマイナーなせいでCD化されず、未だに試聴可能なチャネルが限られるため、本譜を知る人が少なくなっていることが強く惜しまれる。

（５）4枚目（1982年Heriba盤）は、名曲「Mama India」の名演・名歌唱が光るが、同時期に本曲収録アルバムをリリースしたグルーポ・コカとの間で、本家争いが生じ（？）、当時現地で物議を醸したようだ。

（６）5枚目【ヘビロテ認定】（1997年欧州盤）は、ルイス・アリアスの変わらぬ美声で往年の名曲の数々が聴けるのを幸とする。マイク一本、一発録り、という、かなりアゲインストなレコーディング環境の中で、何度でも聴き返せる長尺のアルバムを遺したことを讃えたい。

（７）その後、リーダーのルイス・アリアスの急逝（ボリビア国内での交通事故死と伝え聞く）により、ロス・ユラスは自然消滅した。

ネット配信の時代の到来以前に消えたため、半ば忘れ去られたグループになりつつあるが、残したアルバムの質の高さ・固有性、そして後の名グループへのつながりもふまえると、再評価に値する名グループである。

今からでも多くの人に彼らが遺したアルバムを聴いていただきたい。

――以上で、本稿で皆さんにお伝えすべきことは、いったん書ききった。

あとは、音源や写真や考証もどきに蘊蓄グダグダを交えて、気楽に語っていきたい。

１．グループの概要

ロス・ユラスは、1960年代（Discogsのデータによれば、1963年とあるが、創立メンバーのクラルケン・オロスコが1952年生まれであり、後に「オーラ！アミーゴス」誌上にて「（ロス・ユラスの結成は）学校を卒業する頃」と語っていることに鑑みると、創立は63年よりも少し遅い時期かもしれない。クラルケンが言っている「学校」がどんな学校か、またボリビアの学制がどうなっているか分からないので、何とも言えないが。。）に結成されたグループで、当初は、当時まだ10代だった（後にグルーポ・アイマラを結成し、かつワラの中核メンバーの1人となる）クラルケン・オロスコ Clarken Oroscoと、ルイス・アリアスらがメンバーだった。

グループ名の「ユラ Yura」は、たしかアイマラ語で「白」の意味だったとおぼろげに記憶している（間違いかもしれない）。

「オーラ！アミーゴス」第7号（1989年夏号）で、クラルケンが木下尊惇氏のインタビューに答えて語ったところによれば、「ルーチョ（引用者注：「ルーチョ」は「ルイス」の愛称）・アリアスやバレンティーノ達とロス・ユラスを結成したのは、学校を卒業する頃だ。僕等は腕試しが好きだったのかな。第7回のラウロ（レコード会社）音楽祭に行って1位をもらった。このコンクールでは3年後にまた1位を獲ったけれどね。シングル盤をいくつかとLPを一枚録音して解散してしまった。僕も親父の（引用者注：サビーノ・オロスコが経営していたチャランゴ工房の）手伝いが忙しくなったからね」とのことである。

この時代のユラスの音に関し、私は上記のLP盤を聴いたことがあるが（かなりの希少盤であり、私は現物を持っていない）、たとえて言えば、ロス・チャスカス Los Chaskasのような10代アイドルグループ的な歌物のグルーポだった。

上記の「第7回ラウロ音楽祭」で1位を獲った時の演奏と思われるものが、YouTubeに上がっているので、貼っておく。

いかにも、若いなあ、10代ってイイなあ～という感じの演奏だ。

クラルケンの話に従えば、この後、少なくとも3年は存続したが、一度解散したということになる。

しかし、おそらくその後に、旧メンバーの一人だった、ルイス・アリアスが、リーダーとして同名のグループを再結成し、1976年に、M＆S Recordsから、新生ロス・ユラスの第1作「Ukamau Orake Bolivia （こちらもアイマラ語で「これが私の国、ボリビアだ」の意）」を1976年にリリースする。

これが、私の「ヘビロテ」アルバムの1つである。1つというか、私が最も聴き倒しているアルバムの1つと言ってよい。

私のことを知っている方からすると、もしかすると意外かもしれないが、ルパ吉のわたくしが、ルパイ以外で多分最も繰り返して、飽きずに聴いているアルバムだ。
特に、毎日の会社勤めが終わった後に聴くには、（本譜の主な元ネタであるInti Illimaniの"Canto de Pueblos Andinos"シリーズもそうだが）最高のアルバムの一つだと思う。
いつ聴いても心に沁みる～。

音は、以下のYouTube動画を聴かれたい。

※フルアルバムが消されたので、「Los Yuras-topic」チャンネルから、ひとまずA面1曲目を貼っておきます。

続きは、下の曲目順を参照しながら、同チャンネルから追っかけてみてください。

または、Amazon Music に上がっている1枚目＆2枚目統合but曲順めちゃくちゃなCD盤を、できれば曲順を直してお聴きください）。

なお、ディスコ情報はこちらを参照のこと。

メンバーは、

Adrían Aruquipa Pérez: vientos
Samuel Willy Calderón Valle: cuerdas
Luis Alberto Arias: percusión, voz
Víctor Hugo Flores: vientos
Ernesto Feliciano Fernández: cuerdas

ジャケ裏の写真を見る限り、ルイス・アリアスが年長（30代くらい？）で、他のメンバーは10代後半～20代前半くらいに見える。おそらくルイス・アリアスが、歌と打楽器担当のみならず、全体を取り仕切っていると推察される。

その他のメンバーで、アドリアン・アルキーパは、笛も弦も唄もいけて、リーダーもできるマルチプレイヤー・オーガナイザー。Thunnupa、Raza de Bronce、Raices de America などを立ち上げた。それぞれ面白い特色のあるグループだったが、基本的にはアルバム1枚出しては、ハイ、次、を繰り返し（最後のRaices de Americaだけは2枚出せた）、結局ブレイクしないまま、歴史の中へ消えていった。

彼が参加したアルバムで、今でも比較的広く聴かれているのは、本譜だけではなかろうか。

サムエル・ウィリー・カルデロンは、良く分からない。

ビクトル・フローレスはフェルナンド・ヒメネス以前の爆音、アタック強め系のサンポーニャ奏者。ロス・ユラス以外でも、アドリアン・アルキーパと行動を共にしてRaza de Bronce、Raices de Americaに参加。その後不明。

エルネスト・フェリシアーノは、繊細な音を奏でるチャランゴ奏者。別記事で紹介した埋もれた名盤「Sempiterno」にも参加。詳細はそちらで説明したので、ここでは割愛する。

■■20240830追記■■

次回記事にて詳しく語ったように、Los Yurasの参加メンバークレジットはどのアルバムも非常に心許ない。

それでも、この1枚目と3枚目はジャケ裏に参加メンバーが明記されているので、大丈夫だろうと思っていたが、最近Facebookで友達になった、元Paja BravaのAugstin Silvaさんによれば、本譜のOjos Azures, Papel de Plata, Fiesta Puneña等の収録に彼自身参加しているとのこと。しかしどこにもクレジット記載が無い。

また、アルバムにはなっていないそうだが、Los YurasとPaja Bravaが合同で演奏することもあった、という。

言うまでもないことだが、ディスク等や文献だけでは追えない事実というものが膨大に眠っているということだ。

曲目は、

A1 ALTURAS　Huayño　H.Salinas

A2 CH'ISI　Aire de Huayño　J.Torres

A3 VICUÑITAS　Tonada　A.A.D.D.

A4 FIESTA PUNEÑA　Bailecito　E.Falú

A5 PAPEL DE PLATA　Huayño　A.A.D.D.

A6 CRUZ LOMA　Huayño　A.A.D.D.

B1 NEVANDO ESTA　Fox Trot Incaíco　Adrián Patiño

B2 SALAR DE UYUNI　Canción-Huayño　J.Dalera-T.Lazo

B3 SIWAY AZUCENA　Tonada　A.A.D.D.

B4 MANANTIAL　Cueca　E.Feliciano

B5 OJOS AZULES　Huayño TradicionalA.A.D.D.

B6 AUQUI AUQUI　Huayño TradicionalA.A.D.D.

A面、B面各6曲の全12曲で、うち6曲が伝承曲、5曲が著名作曲家及び先行他グループの曲、1曲のみオリジナルという構成。

手堅い、と言えばこれだけ手堅い選曲というのも、珍しいだろう。

絶対ウケる、外さない曲だけを入れている。それでいて、「コンドルは飛んで行く」や「花祭り」は入らない。

なぜなら、アルバムのタイトルが、あくまで「これが私の国、ボリビア」だからだ。

ただし、ボリビアの曲（あるいはそう見做せる曲）であっても、演奏自体は、他国出身で既に欧州等で活躍している先行グループのアルバムを貪欲に（臆面もなく）参考にして、取り入れている。

本譜の元ネタを挙げていくのは、さして難しくない。

まずは、アルゼンチンのボリビア系の家に生まれて、ボリビアが生んだ近代チャランゴ奏法の父・偉大なるマウロ・ヌニェスの教えを受けた、ハイメ・トーレスとその仲間たち Jaime Torres y su conjunto の「地の人 Llajta Runa」（1972年頃録音）から、A2 CH'ISI、B2 SALAR DE UYUNI、B6 AUQUI AUQUIの3曲を下敷きにしている。

さらに、チリのヌエバ・カンシオンのグループで、アジェンデ政権崩壊によりイタリアへ活動拠点を移したインティ・イリマニ Inti Illimani の「アンデスの村々の歌 Canto de Pueblos Andinos」シリーズ(1973-1976年)から、A1 ALTURAS、A5 PAPEL DE PLATA、B5 OJOS AZULESの3曲をベースにしている。

これだけで全12曲中6曲。半分だ。

さらに、A6 CRUZ LOMA、B1 NEVANDO ESTA、B3 SIWAY AZUCENAの3曲は、それぞれ、Los Ruphay、Los Masis、Luzmila Carpioという国内有名演奏家の先行収録事例がある。探せばまだあるだろう。

よって、このアルバムは、決してゼロベースからの創造物では決してない。数々の先行者たちの作品に多くを負っている。

むしろ、前回記事にしたUkamau同様、ボリビアのアンデス音楽は、その勃興期において、いかに海外（および国内）で先行して活躍している演奏家から影響を受けて、その後追い（悪く言えば、模倣・パクリ）から始めたのかが、本譜からも良く分かる。

しかし、それは単なるコピーに留まらなかった。

本譜でも、原曲・原演奏を上手に下敷きとして活用しながら、原曲・原演奏に無かったアレンジを（ユラスの場合は、丁寧かつ慎重に）加えることで、自分たちのアルバム「これが私たちの国、ボリビア」の構成要素に見事に加工してみせた。

そここそが、本譜の聴きどころであり、真骨頂である、とさえ言える。

さらに、驚くべきことに、ロス・ユラスは、続く第2作において、早くもメンバー他のオリジナル曲主体でのアルバムを制作し、音的には本譜と地続きでありながら、まったく新しい地平を切り開くという離れ業を、あっさりとやってのけた。

そのことをセカンドアルバムを聴きながら、確かめていきたいが、既に紙幅とエネルギーを予想外に費やした。

今回は結局ヘビロテアルバムを1作品しか紹介できなかったが、いったんここで筆を擱き、続きは次回としたい。■

～私「ヘビロテ」アルバム（１）癒し系～　
Urubamba vol.1　←前回紹介

Los Incas "Un instant d'etrernite"　←前回紹介

Los Incas "Alegria"　←前回紹介

Los Incas "En Concerto"　←前回紹介

Los Incas "El Ultimo”　←前回紹介

Los Yuras "Ukamau orake Bolivia" 　←今回紹介

Los Yuras "vol.2"　←次回紹介

Los Yuras "Music from the Aymara and Quechua Andean Cultures"　←次回紹介

Rumillajta "Lo Mejor"

Rumillajta "Pachacuti"

Chacaltaya ”El Zenit Supremo del Todo Es La Nada”

Chacaltaya ”Por Siempre de Los Andes”

Chacaltaya ”Meditation en Los Andes”

Kanata

Inkuyo "Temple of the Sun"

Inkuyo "Land of the Incas"

Inkuyo "Art from Sacred Landscapes"

※1　並び順は、話を展開させやすい関連順。

※2　私はこれから取り上げるアルバムの演奏家たちについて、必ずしも詳しくはありません。

本記事の目的・性格もあり、以下は特に（「埋もれた名盤」シリーズのような）考証は行わずに、記憶ベースで書いております。

よって詰めが甘いところや、勘違いをしているところがおそらく含まれておりますこと、予めご了承くださいm(__)m）
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私の「ヘビロテ」アルバム（１）癒し系（②Yuras その1）