「われわれはxx側のこのような卑劣な行動を強く非難し、厳重に抗議した。虚偽の非難と自己誇大の茶番をただちに中止し、中国とxxの関係を損なう誤った道をさらに進まないよう強く求める(xxは国名)」などと、相も変らぬ上から目線で昨日、まくし立てたのは在ロンドン中国大使館の報道官で、「xx(国名)」に当て嵌まるのは「英国」である。英国・情報局保安部(所謂MI5)が、中国の工作員が英議会の議員に対して情報収集や影響力行使を試みていると新たに警告したことを受けたものだ(ロイターによる)。

 別にこれは英国が日本に援護射撃してくれたものではないだろうが、それにしてもこうしたやり取りを見るにつけ、中国は面倒臭い国だと思わずにはいられない。中国が繰り出す嫌がらせに対して、日本では早くも野党やリベラル・メディアの一部に腰砕けが見られるが、世間一般には、高市人気と中国不人気のお蔭だろうか、余り効果が出ていないように見え、冷静に、むしろ(またか、ええ加減にせえと)呆れて受け止められているようにも思われる。

 中国の対外発表は、どうしてこれほど大仰で勿体付けた言い方しか出来ないのか、むしろ滑稽にすら映るのは、それが中国の儒教文化に特有の異質なスタイルであるとともに、何より英国政府や日本政府に向けたメッセージに見えながら、実は別の聴衆を意識したメッセージだったりするせいではないかと思われる。

 例えば、高市発言に対する在大阪中国総領事の口汚い投稿は、明らかに中国共産党幹部に向けたメッセージと考えるべきだろう。習近平同志のために戦狼外交を頑張っています!という自己アピールである。また、中央の外交部による日本渡航自粛や教育部による日本留学への注意喚起、さらに日本産水産物の輸入停止は、中国人民に向けたメッセージと考えるべきだろう。中国でも高市発言はトレンドだったらしいから、中国政府は非礼な日本の首相に対して決して弱腰ではない、政府横断的に取組んでいるというやってる感アピールである。

 勿論、それだけではなく、中央政府の繰り出す嫌がらせの最大の目的は、高市首相への政治的圧力に違いなく、直接には日本の社会(嫌がらせで痛手を被る産業界や、その支持を受ける政治家、さらに体制批判に余念がない政治家やリベラル・メディア)に向けたメッセージと考えるべきだろう。中国は怒っているのだというアピールによって、日本の社会の分断を煽り、内閣支持率が高い高市政権を揺さぶる魂胆である。習近平国家主席は日中首脳会談を相当、根に持っていると思われる。

 こうした影響力工作は、第一次トランプ政権の2017年12月に国家安全保障戦略で中国やロシアを技術・宣伝および強制力を用いて米国の国益や価値観と対極にある世界を形成しようとする修正主義勢力だと名指しして非難し、翌18年8月に国防権限法2019(NDAA2019)で華為やZTEなど通信・監視カメラ・メーカー5社を連邦政府調達から排除した上で、10月4日に当時のペンス副大統領がハドソン研究所で、中国政府は経済的影響力や巨大な中国国内市場の魅力を利用するとともに、米国企業への影響力を促進するための措置を講じている、などとさまざまな事例を挙げて告発することで、明らかにされたものだ。この時の演説は、かつてチャーチル首相が鉄のカーテン演説をやった故事に倣って新・冷戦宣言と呼ばれたが、私は国王ジョージ三世の悪行三昧を告発した独立宣言に似ていると思う。

 政界では、何かと与党の足を引っ張りたい野党はもとより、与党内にも、石破さんをはじめとするハト派の抵抗勢力が魑魅魍魎の如く蠢いているが、高市政権はなかなか盤石で、役者が活躍している。

 昨日のことだと思うが、経済安全保障担当の小野寺紀美大臣のインタビューが揮っていた。高市発言を非難する中国が観光自粛を呼びかけた結果、2.2兆円の経済インパクトがあると試算され、外国人が観光で来られなくなってしまうことに対して、外国人規制担当としてどう思うかと、東京新聞の名物記者・望月衣塑子さんに問われて、「観光は国交省(の所管)だと思うので、所管外のことは言わないようにしますが、いずれにしても、何か気に入らないことがあったらすぐに経済的威圧をしてくるところに対して依存し過ぎるということは、サプライチェーン・リスクだけでなく、さまざまな、観光に対してもリスクではあるので、リスクの低減をそれぞれ常日頃、皆が考えながら、経済を回して行けたらいいなと個人的には考えています」と大胆にかわした。

 また、小泉進次郎大臣も頑張った。防衛大臣として、高市首相の国会での答弁を撤回しないことでよいのかと、立民の大串博志議員に問われて、「立憲民主党の皆さんが何を求められているのか、私にはよく分からないんですけれども。岡田委員という、外務大臣そして副総理もお務めになった方が、個別具体的な事例について、より詳細な基準などを設けて事態認定などをすべきなのではないかと言っておられるのか、むしろ軽々に申すべきではないということなのか、一体どちらを求められておられるのか。現実を見れば、いざという時に備えて、わが方として最終的に総合的に情報を駆使した上で全てを判断する、そのことに尽きるというのは、安全保障の現実を考えた場合に、政府の見解として当然のことではないかと思っている。撤回するかどうかということについて、最終的に総理ご自身の発言を撤回をする権利は他の大臣などにはありません。総理は、岡田委員との議論の中で、最終的に個別具体的なケースについては、こういう場合だったらこうとか答えるのではなく、全ての情報を駆使した上で政府として判断をするということも、金曜日の予算委員会でお話をされています。それに尽きるということです」と突き放した。

 高市発言の本質(存立危機事態の認定)は、台湾有事への対処と言うよりも日米同盟の安定化に係るもので、日本が台湾と協力して中国に立ち向かうのではなく、台湾海域で攻撃を受ける米国を援けて立ち上がる可能性があるというものだ。従い、国会での答弁を撤回するということは、日米同盟を危うくしかねないものであり、断じて許されるものではない(それくらい立民も分って然るべきであろう)。中国はそのあたりを分かっているかどうか別にして、機会を利用する確信犯である。この中国が仕掛ける嫌がらせは伝統的な世論戦であって、その意味でも、両手をポケットに突っ込んで胸を反らす演技をする中国外務省・アジア局長の隣で、真面目な日本のアジア大洋州局長が神妙な面持ちで、時折り通訳の言葉に耳を傾けて少し頭を下げているようにすら見えたのは、完全な失態だった。外交官なのだから、せめて威厳を保つ演技をして欲しかった。外務官僚の奮起を期待する。