令和3年(2021年)7月26日 第438回

土・日、元の我がコース・滝のカントリーの1番ホールから18番ホール迄をyoutyube画面でじっくり堪能した。 二日間とも、朝から夕まで8時間ほどの長時間をである、あァ、堪えられない。 今回使っていない東コースの打ち下ろしの1番ホールがドライビング・レンジとなっていて吃驚したが、この滝のには、短いレンジしかないからしようが無く苦肉の策だろうと思う。 前回期待していた見どころの17番の長いショートホールはテイーが一段前の156ヤードになっていて興味半減だったが、最終日だけ200ヤードだった、何故、そんな事をしたんだろうか? 兎に角、全て早いグリーンで、順目の下り、逆目の昇り、結構なアンジュレーションがあり、スリーパットの記録を取れば大会屈指の数に上るかも知れない、ホント、選手のパットの苦労をマザマザと見た思いである。 今回だけプロ仕様になっているから難しいのでは無く、元から難しいホールだったのだ、と今更ながら思い知る。 全てのグリーンが大きかった事に今更気付く。 そんな所に乗ってもバーディは愚か、パーだって難しいぜ!と思いながら一喜一憂する醍醐味はテレビ桟敷なればこそ、全体を俯瞰できるのは、現地で一組だけを追ったり、決めたコースでじっと待って観戦するより、数倍の楽しみがあった。

 

これは女子プロ第21戦、二打差2位タイから出た西郷真央・19才だったが、一位、二位タイのそれぞれ国内25勝のベテラン韓国人には歯が立たなかった。 優勝した元・世界ランク一位は抜群の安定と強さ、これで日本人の19勝2敗だが、2敗とも同じ韓国人である。 我が滝ので日本人が優勝出来なかったのは残念だが、来年以降、滝のの難しさに群がるファンが多くなるかも知れない。 主催の大東建託はず~ッとゴルフ場を替えずに続けて欲しい。 それだけの価値ある難しい名門コースだと思う。 賞金女王は二位の稲見が不参加だった為、小祝と300万円の差に拡がった。 アメリカでは小平がまたも予選落ち、ヨーロッパでは川村昌弘が5位・49千ユーロ、フランスでは古江彩佳が4位・233千ドル、アマの梶谷翼が48位(76人中)、全英シニアでは塚田が8位・45千ドル、中山が46位(78人中)と活躍した。 

 

 

知念実希人「神のダイスを見上げて」(文庫本、単行本は2018年)

ダイスとは地球に接近する直径400㎞の小惑星、衝突して人類滅亡の恐怖が世界を混乱の渦に巻き込むが、その中で、両親を失って姉・圭子と弟・亮の二人だけで必死に生きて来たのに、全裸で姉が殺された。 人類が滅びるまで残された5日間、犯人を捜して復讐を決意した亮だったが、犯人を追うごとに次々と周りの人間が逆に狙われていった。 果たして、姉を殺した犯人は? その真相は? そして亮が目にする人類終末の光景とは? いつもの作者らしからぬ設定だった。 買損した気持ち。 ちょっと残念だった。

 

 

山口恵似子「食堂のおばちゃん⑦ うちのカレー」(文庫本、初出は月刊誌2019年)

(①は343回、②は344回、③は345回と連続3回、④は348回、⑤は391回、⑥は398回にUP済み、初めての方はその順番でどうぞ、つい最近、第十巻を購入)

第一話 うちのカレー

今日のランチは、夏野菜のスープカレー、誰もが自分の家の自慢カレーを喧々諤々とやり合っている。 夕刻、古くからの常連の山手さんや後藤さんが通っている、ダンス教室を経営している中条恒巳さんがやって来た。 ショーパブのダンサー・メイのお祖父ちゃんである。 一人娘の遺児として手元で育てていたが、性転換してニューハーフの道へ進んだ人の道を外れた孫をあの世の娘夫婦に合わせる顔がない、と思い悩んでいるのだった。 メイと同級生の万里の料理を褒めながら、→若いのに立派だね、こんな見事な料理を作れるんだから。 →でも先生、青木だって立派です、味噌汁の店を開く為に一生懸命働いています、人を楽しませる仕事で活躍しています、と柔らかく反論する。 元・刑事だった後藤さんが、→お孫さんのような性的少数者は一定の割合で産まれているそうです、そうすると、左利きとか血液型とかと同じ事です、ましてや罪悪じゃありませんよ、と穏やかに言う。 レズビアン(女性愛者)、ゲイ(男性愛者)、バイセクシャル(両性愛者)、トランスジェンダー(性別違和)等々の総称で、日本人は8%の割合で存在しているらしい。 これは左利きとAB型血液の割合と同じだった。 震え声で中条は、→皆さんありがとうございます、孫は皆さんから理解され気遣って頂けている、今後とも孫を見守ってやって下さい、と深々と腰を折るのだった。

 

二三は買い物からの帰途、首輪をした真っ黒い、顔見知りの近所の飼い猫に声を掛けた。 喉を撫でてやると、クロは、もっと撫でて、という風な催促をされる、寝返りを打った拍子にクロの爪が右の掌を引っ搔いた、意外なほど深く入って親指の付け根から鮮血が溢れた。 二階に上がってアルコールで消毒して傷絆創膏を貼った。 夕刻、居酒屋になったら常連さんが顔を揃える、二三の絆創膏を目にした菊川先生が、→病院に行った方がイイわよ、感染症を起こして一週間入院した人もいるのよ、と助言してくれたが、そんな大事になるとは露思わない二三だった。 続けての客は、今年アパレルメーカーに就職した桃田はなが40才半ば程の男性と一緒である。 ウチのお祖母ちゃんの訪問医で山下先生、と紹介し、先生、お好きなモノを注文してください、この店、古くてボロいけど、何でも美味しいから、と親愛の籠った口調で言う。 次々と平らげる様はみていて清々しい程の食べっぷりだった、車なのでウーロン茶だったが、〆の冷や汁が運ばれる寸前、山下さんのスマホが鳴った、急患です、と言いながら去ろうとするので、食べるのは二分で済むでしょ、とはなに言われて豪快に掻き込んで出て行った。 →寝たきりになっちゃったお祖母ちゃんは訪問介護を受けていて、要介護4とか5になると、介護サービスが格段に増えて料金も3万円以下なの、朝・昼・夕三回のヘルパーさん、訪問看護師さんが周3回、訪問入浴が週1回、さっきの山下先生が月2回、両親も私も働いているから凄く助かっている、と説明される。 山下先生は24時間対応で年中無休、大晦日と元旦で25件の往診があったらしい。 現代の赤ひげだと、はな一家は猛烈なファンになった、と鼻高くして言う。 店の3人も客の誰もが安心した、この中央区にもきっと山下先生のような赤ひげが存在する、その時は病院じゃ無くて自宅で臨終を迎えられる。 一子も86才だし、山手さんも後藤さんも間もなく後期高齢者だ、誰もがいつか迎える死を楽観できる歓びを感じていた。 翌朝、二三の親指の付け根がパンパンに膨れていた。 まるでゴム鞠のようだ。 力が入らない、今日は日曜日だが明日からは食堂がある。 此の儘では商売が出来ない、一子が、→膿んじゃいないようだから切開して膿を出すような治療じゃないから、昨日の山下先生の所に行って抗生物質の処方箋をお願いしたら、と助言された。 万里→はな→山下先生と繫がって、三島駅から徒歩一分の「さくら在宅診療所」を、休日の要と訪れた。 診察は絆創膏を剥がして手をじっと眺め、首筋から顎にかけて触診して、→リンパに異常はありません、強めの抗生剤と抗炎軟膏を調剤薬局で貰って下さい、と親切な対応で、帰りの電車で二三・要の母娘が、→イイ、先生だったね、と感謝していた。 翌朝、腫れは半分以上引いていた、クスリが効いているのだ。 月曜日9時半過ぎ、万里がメイを伴って出勤してきた。 →助っ人連れて来た、オバちゃんにムリさせられないから。 メイは、→お手伝いさせて下さい、そこそこお料理はやっているので、猫の手よりはお役に立てます、店を持つまではいろいろと勉強もしたいし、と頼もしい。 二三は、油断すると泣いてしまいそうだった、一子の瞳も潤んでいた。 →ありがとうメイちゃん、助かるわ、ふみちゃん、ご厚意に甘えよう、いつかメイちゃんのお役に立てるかも知れないから、ご恩返しはその時に、と笑顔一杯で頷いて、二三は開店を告げる暖簾を軒先に出した、今日も快晴だ!

 

第二話 ぶっかけ素麺で行こう!

山手さんがプリプリしてやって来た、51才になる息子の政和さんが、→後期高齢者になったら免許証返納した方がイイと言いやがった、とおカンムリである。 息子として、昨今の高齢者が引き起こす交通事故が気が気で無いのは判る、それ故の老婆心なのであろうが、頭から年寄扱いされる方は気が収まらない。 確かに高速道路の逆走、ブレーキとアクセルの踏み間違い等々、被害者の悲劇は言うに及ばず、加害者も晩節を汚し後悔に苛まれる悲劇を背負う事が目立っている。 果たして、魚政父子の和解が成立するにはまだ一波乱がありそうだった。

・・・築地から豊洲に移転した年、魚政は息子が仕入れに行ってる筈だった、だから車を運転する必要性はゼロでしょ、と遅く帰宅した要が指摘する。 一子と二三は、→でも、ダンス教室とか、俳句教室は車で通っているわ、と弁護するも、→それ必要性って言わないから、そんなんで妻子が加害者家族になったら堪んないでしょ、と一刀両断である。 ・・・又もや、高齢者事故が起きた、76才の車が暴走し、衝突した対向車がバイクにぶつかり、バイクから投げ出された運転手が即死、弾かれたバイクが保育園児の列に突っ込み、園児二人が重傷を負い、暴走した76才も対向車の運転手も軽傷だった、という事で物議を醸していた。 そんな時に魚政の息子・政和が酔っ払って地下鉄の階段を踏み外し救急車の世話になった。 骨に異常が無く、捻挫が酷いから、朝の仕入れは息子に道案内させて俺が行くしかねェ、と魚政の大将が息巻いている。 生き生きしていて何歳か若返ったようだ。 火曜日の早朝、さっそく政さんからスマホが入る、→ふみちゃん、戻りガツオが格安であるぜ、要るかい? 俺がサクに切ってやるよ、と言われて3本注文した。 はじめ食堂初めての刺身定食が提供される。 内臓は酒と醤油で煮て、酒盗も作れる、ランチで余ったら居酒屋のメニューに載せる、兜焼きも出来る、と料理を思うと心が弾む。

 

その後、山手は無事に息子の代理を務めていたが金曜日、豊洲の帰りに軽い追突事故を起こしてしまった。 怪我人にも無く、軽微な損害だったのでまったく大事に到らなかったが、気落ちした山手は一週間はじめ食堂に顔を見せなかった。 息子の政和がやってきて、→やっと、気分が上向いて来たようです、そして免許返納についてはこっちから撤回しました、先週一週間、親父の協力で店を開けられました、親父はまだまだ現役です、そして今回の追突事故で、運転はより一層慎重になる筈ですから、気落ちして老けこむ事が一番心配です、免許返納は逆効果です、はじめ食堂の皆さんと一番気が合うようです、元気で楽しく過ごせるんだと思います、今後ともよろしく付き合ってやって下さい、と殊勝に頭を下げたのだった。 一子と二三は心を打たれ、威儀を正して、→こちらこそ宜しくお願い致します、政さんはお父さんの代から一番古い常連さんです、この店の財産です、と返すと、→帰って親父に伝えます、きっと大喜びですよ。 二三は一子と万里に呟いた、→人間年齢じゃない、季節は暦じゃない、歳取っても魚政のおじさんは現役だし、秋になっても暑い日はぶっかけ素麺が旨い! 万里君、調理師試験、絶対に合格してね、合格祝いに山手さんから目の下30cmの鯛が来るわよ!

(ここまで、全231ページの内、96ページまで、第三話・漬け丼の誓い(桃田はなの悔しい話)、第四話・豚汁を止めるな!(メイのお祖父さんが骨折入院した二ヶ月間、メイが拵えた味噌玉の味はお祖母さんの味そのもので、毎日食して感動した話)、第五話・危険なモンブラン(調理試験に合格した万里、メイのショーを観劇したお祖父ちゃんの話)と続く、ほのぼのストーリである)

 (ここまで、約5,000字)

 

令和3年7月26日