京都産業大学、昨季のリベンジを果たし再び正月の国立へ。ラグビー全国大学選手権 準々決勝

 

 

 

 

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トライを喜ぶWTB西とFB辻野

 

2023年1月2日、国立競技場でのあの試合を、彼らは決して忘れることはなかった。最終スコアは33-34。目前に迫った大学選手権決勝への切符は、早稲田大学に奪われ、赤紺の戦士たちは涙ながらに国立競技場を去った。

 

  【ハイライト動画】準々決勝 京都産業大学 vs. 早稲田大学| 京産大が早稲田を圧倒

 

「このチームで少しでも長くいたい。高校生みたいな気持ち」。試合前そう話したFL(フランカー)三木皓正キャプテン(済4=京都成章)。誰よりも激しいタックルで、ここまでチームを導いてきた。

そんな三木率いる今年のチームの強みは、前に出るディフェンス。テンポが早くタレントぞろいの早大をどれだけ止められるのか。そしてこの試合の一番のカギを握るのはセットプレーだ。

 

昨シーズン対戦した際、セットプレーで優位に立てず、京都産業大学らしさを封じられた。「早大の強みを消すのではなく、京産大の強みを出す」(三木)。この言葉通り、試合を進めていけるのか。準々決勝屈指の好カードに注目が集まった。

先制したのは京産大。試合開始から激しいアタックで攻め込み、相手のハイタックルを誘う。関西大学リーグ最終節、スーパーキックを見せたFB(フルバック)ラグビー辻野隼大(済3=京都成章)がPG(ペナルティゴール)を決めた。

 

前半10分、カギとなるスクラムでプレッシャーをかけることに成功するも、その後はディフェンスの隙を突かれ、早大のスーパールーキーWTB矢崎由高に逆転のトライを許した。続く14分には、相手のオフサイドで再びPGを選択。6-7と点差を詰めていく。

前半22分、スクラムからSH(スクラムハーフ)猫土永旭(営3=光泉カトリック)が抜け出す。NO8(ナンバーエイト)ダッシュシオネ・ポルテレ(現2=目黒学院)にボールが渡り、約30m走り抜けてトライ。試合前、「最初のトライは自分が絶対獲る」と豪語していたポルテレ。有言実行を果たし、チームを勢いづけた。

 

勝利のカギと言えるスクラムは相手を圧倒。ゴリゴリと前に押し、相手のペナルティを誘った。この試合で3番を背負ったのはPR(プロップ)グッェア・タモエフォラウ(現4=札幌山の手)。

 

今シーズン、NO8からPRに転向。経験が必要なこのポジション、「最初はどうなるかわからなかった」と話す廣瀬佳司監督だったが、夏合宿から力をつけてやってきてくれたという。「すごい成長が見えた。誰に3番を任せるか迷ったが、ヴェアに期待を込めて」(廣瀬監督)。その期待に応えるように「京産大らしい」スクラムで何度もチャンスを引き寄せた。

 

前半30分、FW(フォワード)でフェイズを重ね、じわじわゴールラインに近づいていく。左サイドにパスを繋ぎ、WTB(ウィング)走る人浩斗(済3=熊本西)がダイナミックにトライを決めた。

 

FL三木主将のタックル

 

その後もピンチをスクラムで回避し、得点を許さない。タックルではプレッシャーをかけ続けて相手のノックオンを誘う。スクラムでも反則を奪い、FB辻野がPGで得点。前半ラストワンプレー、全員で繋いでいき、ゴールライン目前とするが痛恨のノックオン。23-7で前半終了した。

 

後半開始直後、相手のボールをターンオーバーし、SH土永の50:22で敵陣にぐっと攻め込む。最後にHO(フッカー)グッ李淳弘(営3=大阪朝鮮)がグラウンディングし、後半からも京産大の流れは止まらない。

 

後半6分、敵陣でのラインアウトモール。残り5mのところまで攻め込み、そこから右サイドに展開。CTB(センター)小野麟兵(済3=京都工学院)が相手のディフェンスをかわしながらトライ、37-7とする。

後半10分に相手にトライを奪われるも流れは渡さない。ハイタックルを受け、そこからチャンスを作り、ラインアウトモール。右サイドのスペースを見逃さず、選手権初出場のSO(スタンドオフ)吉本大悟(現2=東海大仰星)がインゴールへ運んだ。

26分には敵陣5mでのスクラム。圧倒的パワーでターンオーバー。そこからスクラムトライを狙い、さらに3回組み合った。すべてのスクラムで相手のペナルティを誘い、これまで京産大がこだわってきた『強さの証明』となった。最後はNO8節分テビタ・ポレオ(現4=日本航空石川)からパスを受けたFB辻野が走り切った。

 

その後、相手に2つのトライを献上するが、攻撃の手は緩めない京産大。CTB藤本凌聖(法3=朝明)のゲインから、後半30分にLO(ロック)ソロモネ・フナキ(現3=目黒学院)、後半38分には辻野がトライ。昨シーズン1点差で負けた相手から8トライ奪い、圧倒的点差をつけた。

 

歓喜の瞬間まであと少し。三木から伝染した『魂のタックル』で、全員で最後まで守り抜く。試合終了のホーンが鳴った。最後はFB辻野が蹴り出し、ノーサイド。因縁の相手である早大に、65-28で勝利し、リベンジを果たした。

試合前、「もしかしたら、これが最後の試合かもしれない」そんな気持ちで空を見上げていた三木。しかし、自分の築き上げてきたものと、頼もしいチームメイト、たくさんの応援の力で、1月2日再び国立競技場へ。パッションに溢れたプレーで観客全員を魅了したい。

キック成功率100%のFB辻野

 

この試合のキックの成功率は11/11。試合の数日前、FB辻野は練習開始の2時間前からキックの練習をひたすら続けていた。あまり調子が上がらないときも、スロー再生で自分のキックと向き合いながら試行錯誤を繰り返した。それだけこの試合にかける思いは大きかった。

キックの前、腕を見つめる辻野。その腕には『皓正を国立へ』の文字。5年間ともにプレーしてきた、誰よりも尊敬する三木キャプテンや、チームメイトへの思いを込めて、ボールを蹴る姿は以前とは別人のようだった。国立競技場でも彼の右足から、期待と思いの乗ったキックが放たれる。

 

手作りうちわとメガホンで応援する部員たち

 

キューンこの勝利はメンバー外の部員の支えも大きかった。早大戦から応援歌を作り、メガホンとマネージャーの作ってくれた顔つきのうちわを持って、応援する部員の姿が。「メンバー外が初めて応援の歌を作ってくれたんですけど、それも聞こえて、誰かに支えられているからこそラグビーができていると感じた」(三木)。

また、ジュニアのメンバーが仮想早稲田として練習に協力。「しっかり、矢崎や伊藤の対策が出来た。チームメイトのおかげだと思う」と西も感謝の思いを口にする。全員で少しでも長くラグビーを。その気持ちがチームをさらに強くする。

 

昨シーズンの悔しさがチームをさらに強くした。次はこれまで9度挑戦して、1度も破ることのできなかった準決勝の壁に挑む。対戦相手は対抗戦2位の明治大学。京産大同様、セットプレーが武器だ。

『京産大らしさ』を出し切れるかがカギになる。このチームを終わらせるにはまだ早い。歴史を作る準備はできている、その瞬間を見逃すな。

 

飛び出すハート文:藤田芽生/写真:藤田芽生、大谷賢之介(京産大アスレチック)