■もっこすのたりのたりかな■

 「はっ、ここは・・・」
二人の瞼は、ゆっくりと開いた。見えたものは、ぽっかり浮かぶ白い雲。聞こえてきたものは、長閑な小鳥のさえずり。どうやら、三途の川は渡らずにすんだようである。
「三途の川さん、サンズーベリーマッチ」
智恵美、そして若菜、もっそりと起き上がる。生きている、生きているんだ。安堵感が脳内を駆け巡った。体にまとわる枯れ葉を払い落としながら、歩き出した。だが、安堵も束の間、周りには見たことのない異様な光景が広がっていた。
「いおっ、異様、硫黄、こわいよお」
殺気を感じ、身体がこわばる。煙のごときイエローの奥の奥は、ごつごつ岩がごろごろごろ。切り立った森林も見える。煙霧を振り払いながら進むと、奇妙な硯(すずり)の形をした湖が広がっていた。水面にはさざ波が細かく揺らめく。水底は真っ黒け。カランコロン、カランコロンと、水琴窟の甲高い音色が、突然響き渡った。
「げげげ、ここは斧柯山の端渓?端渓硯の原石が掘り出されるという・・・」
「げげげの来たろー。淡緑色の斑点があり中に芯円を持つものを眼(がん)という。がーん!」
  バサバサバサ・・・雁の飛び立つ音。 ぼっちゃん・・・湖に波紋広がる。
その後は、恐ろしいくらいシーンと静まりかえった。湖の木々の小枝を見ると、ちゃんと止まった極彩色の鳥が、ちゅんと甲高く鳴いて飛び立って行った。飛び立った向こうには、整った丸い石が数個横たわっているのが見えた。
「おかしい。違和感ありすぎ。こんな景色は見たことない。違う時代に来てしまったのかしら」
「恐竜映画のワンシーンのようだわ。いやだー、私たち、原始時代に紛れ込んだのか?」
若菜も智恵美も驚きを隠せない。そわそわと人を探すが、誰もいない。冷淡無情。孤立無援。青色吐息。震えは止まらない。
「タイムスリップ?死ぬ代わりに、知らない時代、知らない所へワープしたに違いないよ。ああ、神さま」
「ああーっ、私たち、普段の行いが悪いせいで、こんな所へ来てしまった」
奇奇怪怪。顔面蒼白。皮膚麻痺。阿鼻叫喚。ぶるぶる、ぶるぶるぶる・・・・・・
ざわざわと大きく揺れる木々が、自分たちの方に迫って来た。大急ぎで明るい方へ走って行った。ごつごつした岩場を抜け、もうもうと茂る木々の枝を払いながら、懸命に逃げると、拓けた草原に出た。
「ねえ、見て、あそこに家がある。人が居れば私たち助かるわ」
「イエ~~イ!うん、きっと、助けて下さるはずだわ!」
二人は笑顔を取り戻して近寄った。
「御二人さん、ようこそ、我が家へ」
突然、二人の背後から男の声がした。
「きゃああ、あなたはだれ、なんなの・・・」 「うわわわ・・・」
若菜と智恵美は、驚いた。お互い抱き合って、そおっと男を見やった。すると、古風な中年の男性が立っていた。黒い羽織・袴を着て、背はそんなに高くなく、立派な髭が印象的な端正な顔立ち。落ち着きのある風貌で、年は四十歳ぐらいだろうか。その男は、無言で古民家の中へ手招きした。磁石のS極とN極のように、二人の若き軀は男の家の中に惹き寄せられてしまった。その古民家には、見事な庭があって、家の作りは、縁側に畳敷きの部屋が二つと、板張りの部屋が一つのように見える。
「若菜、こわーい。その男、悪者ではないの・・・」
「悪者か分からんけど、痴漢ではないように思う」
「すみません、ここは何処で、何時代でしょうか、私たち、迷い込んでしまって」
若菜が冷静に男にたずねた。
男は、もの静かに畳の間に正座をし、そっと目を閉じた。二人が土間に入っても、男は、そ知らぬ顔をして妄想に耽り、話し出す様子はない。
「済みませんが、あなた様はどなたで御座いますか。ここは何処でありますか」
若菜はぶるぶる震える口で訊いた。
「御二人は学生さんかね」
男は若菜の質問には答えず、目を閉じ座ったまま逆に訊いてきた。
「は、はい。学生です。農業大学の学生です」 「アグリ、神聖なる女子大生です」
二人はやっとの思いで答えた。
「農業・・・それは、大いに結構。土に触れ、作物を育て、実りの時期には喜びに溢れる素晴らしい職業で御座る。農は国の基本なれば、大いに学んで、労働に励まれよ。農が御二人をきっと幸福に導くであろう」
「え、ええ。はい、頑張ります」 「頑張ります」
「うん、良き心がけじゃ」
男は、偉そうではあるが、悪い人ではなさそうだ。二人は少し安心した。
「吾輩は五高で教鞭を執る者じゃ。英文学を学生に教えつつ、翻訳の仕事をしてきた。近頃、諸外国の事情を探り、付き合いを模索の身である。外国にはその国特有の風習がある。吾が日本との交流は容易ではない。吾輩は、その違いの大きさを埋め、異文化を頭の堅い役人に伝えることに苦労して居る。尚且つ英文学を学生諸君に教えることはむつかしい。苦難の連続で、心がぼろぼろに御座候。兎角人の世は住み難い・・・」
「そうろう?では、あなた様は、大学の教授ですか。そんな偉い方が、こんな山奥で何をされるんですか」
「吾輩は今、此処に於いて、しばしの安息を頂いて居る。この国の動向を案じつつな。何しろこの世は慌ただし過ぎる。文明開化だの富国強兵だの騒々しい事ばかりだ。吾輩の言動が遠く漂流し、無駄に感じてしまう。その点、田舎は良いものじゃ。此処に居れば、カネの苦労も、雑音も入って来ぬ。貧乏暇無しが得たひとときの安らぎだと言って良い。こうして、御前さん方の様な美人にも出逢えたからな」
「カネの苦労って、大学教授なら、お金持ちではないのですか」
「そうはいかんのが、世の習いだ。貧すれば鈍する。吾輩は、御前さん方の健気の良さが羨ましい。麗しき肌の白さ、済んだ瞳、物怖じしない所作・・・ああ、病んだ心がすこぶる癒やされるようじゃ」
「おじさん、そんなに褒めても何も出て来んよ。癒やされたんならまあいいけど」
「でも、人には分からない苦労があられるのでしょうね。心が病んでしまわれるほどの・・・大変ですね」
「優しいのお。おお、良かった・・・吾輩の目に狂いはなかった。貴殿たちを呼び寄せて、大正解じゃ。吾輩は個人主義者ゆえ、若き冒険者で夢ある美人を探して居った。それで、天に祈り、呼ぶに至ったのじゃ」
「呼んだ?つまり、私たちをこの不思議な時代にワープさせたのは、あなたの仕業ですか?此処は何処で何時代ですか?私たちは急に不思議な現象に巻き込まれてしまって・・・」
「神隠しじゃよ。吾輩以上に神が御前さん方と逢いたいと御想いになられた。御前さん方のハイカラな服や背負の袋を見て、神がこの地へ誘導なされたのだ。なに、心配御無用。此処は、吾輩が気に入った人情深き処なれば、ゆっくりと過ごされよ」
「ええーっ、神隠しって。そんな事ありえません。私たち、これからどうなるのですか」
「安心なされ。吾輩は御前さん方の味方だ。さあさ、何時までもそこに立っていないで、上がって、畳に座りなさい。今、お茶を入れるからの」
「はい。では失礼して。御邪魔します」
二人は座敷に上がって、教授が鉄急須で注がれたお茶をそっとすすった。張り詰めていた緊張が少し解かれて、二人は、部屋の中を見渡した。全く質素な住まいである。
「ところで、農業を志す女子と申すは、珍しいの。大体に於いて、野良仕事なるものは、男子が行う業じゃが、御前さん方、何故に農業を志して居られるのじゃ」
「私たち、本当は、農業なんてしたくはないんです。もっとカッコいい仕事に就いて、いずれ、お嫁さんになることが私たちの夢なのです」
智恵美が本音で言った。
「そうであろう。農業などというものは、男がすべき業なれば、女は、早くに結婚して、男に尽くすことが幸せへの道じゃ」
「あ、はい、でも、それはちょっと・・・男がすべきとか、女は農業は出来ないとか、それには賛同できません。女性差別ではないですか・・・早く結婚しろとか、女は男に尽くせだとか、そういう考えはアナクロです。ただ私たちが農業をしたくないと言うだけです」
「御名答、若菜。田嶋先生が喜ぶ発言。今の時代、女も男も田や畑に出て土にまみれ、作物を育てる。女だからこそ、出来ること気がつく心配りがあります。そして、子育ても家事も、男性も積極的に行うべきです」
二人は、勢いに任せてガンガン反論した。
「おおーっ、西洋の先進的な考えを、御前さん方から聞けるとは思わなんだ。素晴らしい。女も男もか・・・」
「そうです。男が威張って女に命令し、家長として振る舞う時代はとうに終わったんです。女性も人間らしく生きる権利があります」
「確かに、女性を男性が尊重し、協力し合うことは、社会の有り様として大切なことだ。そうならば、御前さん方も、農業を志し、農業の道を進まれるのが良かろうて。大学での学びを生かして・・・」
「はい、それはちょっと考えてみたいと思っていたところでした。私たち、農業をきつい、きたない、きけんだと思っていましたが、食を支える農業の素晴らしさに気がつき始めまして・・・」
「うん、農業への道は険しかろうが、努力すれば必ず道は開ける。立ち向かって欲しい」
「せんせー、私たち若者にも悩みがあるのです。失恋、学業不振、引きこもり、就職難、生活費の遣り繰り・・・etc、私たちも、辛いのです」
「そうであるか。御前さん方にも悩みがあるのか。まこと人は見かけに拠らぬものだな。吾輩などは、この世に生まれて来た以上、何かしなければならんと焦りばかりが先に立つ。吾輩は、まるで霧の中に閉じ込められた孤独人のように、右往左往する毎日じゃ」
「先生は、私たち凡人にはない高尚なお悩みがあられるようで。英文学の教授という立派な職業にあられても、悩みを抱えられておられる・・・」
「ああ・・・何をしても空虚だ。五高で学生たちに英語を教えても、何かしっくりこない。留学をしても、納得すべき事が何も得られなかった。役人から英国留学を命ぜられ、一途の望みを持って英国(イギリス)に渡ったが、あちらでは、つまらぬ事ばかり。様々な本を読んでみても、倫敦(ロンドン)市内を散策しても、空しさが増すばかりの日々。ついに、吾輩は、神経衰弱になってしもうた」
「本当ですか。先生が、精神を病んで仕舞われるとは。華やかそうに見える教授のお仕事も、苦労苦労の連続で大変ですね。今の若者も、進学先や就職先は一流であっても、特にやりたいことを見つけられないまま、何となく周りの言うことに流されて過ごしている人は多いのです。与えられた勉強や仕事はそれなりにこなすけれども、何かやりがいを見つけているわけではない。こんな自分で良いのだろうかとか、こんな生き方で良いのだろうかという疑問も持てない。ただ時間だけが過ぎていく。落ち着いて考える余裕が無いって言うか・・・」
若菜がしっかり者らしく心の内を語った。
「私は逆にのんびり屋さんなんです。急いでするべきところを、後回しにしがちでねえ。母によく叱られています。でも、先生の話を聞いて、何をするにも大変だと思いました。農業をやってみようと思えてきました」
智恵美が素直な心で答えた。
「そういうことじゃ。世はとにかく急ぎすぎる。じっくり自分を見つめ、物事の本質を捉えようとする態度に乏しい。吾輩は、近頃、禅的境地に目覚め、自分の感情や欲望を捨て去り、世をより冷静に客観的に眺めたいと思う。一方で、判断や行動の基準を自己に置き、他人に動かされず、自らの意志で動くという思想を重んじておる。小説を書くことで、その想いが多くの人に伝えられたらと思う」
「小説を御書きになっておられるのですか。ステキですね」
「吾輩は、出逢いの大切さをつくづく思うこの頃じゃ。わしは、正岡子規先生との出逢いで、もの書きの良さを知った。今じゃ、もの書き依存症と言って良いほど、小説を書くことが好きになって居る。御二人も、夢中になれるものを見つけると良いぞ」
「仰る通り、夢中になれる何かを見つけたいと思っていました。幼少の頃から何となく生きてきたと反省します。そして、よい出逢いを求めていきたいとも思います。ただし、私は小説などとても無理です。兎に角作文は苦手で・・・」
若菜が顔を赤らめて返した。
「小説は、一つのことにこだわり、素直に心から書くことが大切だと思っている。何かと勢いにまかせてエゴに陥りやすいのが世の常。情や思いやりこそ、大切にしたいものじゃ」
「さすが、先生。良いこと仰る。情や思いやりは人間として大切だと思います。ですが、いざ実行できるかと言えば・・・」
智恵美が顔を輝かせて言った。
「吾輩は、御二人との出逢いも何かの縁だと感じて居る。この非人情の世間から脱出して、本来在るべき人の姿を取り戻すためにも、吾輩は、御二人に、激しい世の移り変わりに惑わされず、己の意志を貫き通して欲しいのじゃ。ただし、古き時代の智恵や良心も大切にな」
「はい、分かりました、教授。自分の意見を持って、激しい世の中に立ち向かっていきたいと思います」
「それにしても、御二人は、きちんと物事を考えておって、感心じゃ。吾輩は、常日頃、一人でも戦える女たるものは、偉大であると感じておった。勝つのは、女の方じゃ。結局、男は女に言い負けてしまう。狭き浮き世でひとり戦う女の力は、侮れぬ。御二人の言い分を聞いて、なおその想いを強くした。この時代は、弱き男を強く見せようと、嘘の上塗りを重ねておる。わしは、もっと素直に、情を求める幼さや褒められる優しさの如きものを出して良いと思うのだが・・・」
「あっ、はっ、あの-、もしや、貴方様は、夏目漱石様では・・・」
若菜が急にひらめき、たずねると、
「そうじゃ。良く存じておるの。吾輩が漱石じゃ。本名は、金之助と申す。初めて会うというに、良く知っておるの」
「うそーっ。あの有名な文豪の漱石先生? 『吾輩は猫である』とか『草枕』を書いた人が、貴方様ですか?」
「確かに『吾輩は猫である』は最近書いた作品であるが、『草枕』というものは書いておらぬ。くさまくら??」
「さっき金峰山の石畳を歩いていたとき、私たち『草枕』のことを話していました。えっ、じゃあ、今私たちが居る此処は、明治時代?」
二人とも驚いた声を出した。文豪夏目漱石と逢い、今、明治時代に居る?二人とも、本当のこととして受け止められない。
「ひょっとして、どっきりカメラか、そっくりさんの番組か・・・」
辺りをきょろきょろ、隠しカメラを探した。でも見当たらぬ。
「あのー、失礼ですが、奥様や子どもさんはいらっしゃらないのですか」
真偽の程を質そうと、智恵美が質問した。
「ああ、妻は居るぞ。わしらまだ新婚じゃよ。あいにく家内は、医者の所に行って居る。精神的に不安定な状態が続いてのお。何事もなければ良いが・・・。家内には、何かと気苦労をかけてきた。すまぬと詫びを入れたいところじゃ。今後はゆっくり静養して欲しいと思っている。吾輩も疲れた。これから友人と湯治場に行って、ゆっくりしようと思うところだ」
「奥さんもいらっしゃるし、本物ですよね、漱石先生」
智恵美は未だ半信半疑でいた。
「勿論だ。吾輩は、御前さん方に逢えて、こうして話が出来て、少し気持ちが楽になった」
「漱石先生が、いろんな悩みを抱えておられるって不思議な気持ちです。とても人間的な方なんだと分かりました」
若菜が感動して言った。若菜も智恵美も、本物の漱石先生と逢えたんだと感じた。
「本当は、明治の世は、明るくない。人の慌ただしさ、生きることの窮屈さ、内憂外患。まだまだ心中落ち付かぬ。どうじゃ、吾輩は小天にある湯治場に行くで、君らも一緒に行かぬか。体や心の疲れを癒やす最高の湯だぞ」
「そ、それはちょっと・・・すみません。でも、漱石先生がお疲れを癒やされることを願っています。どうぞ、温泉につかってゆっくりされてください」
「あの、私たち令和時代から来た学生で、金峰山に登山中、宙を舞う可笑しな現象に出会ってしまって・・・どうやらタイムスリップで、ここに来てしまったと思うのですが、元の時代に戻るには、どうしたらよいのでしょうか」
「その事は、吾輩が御二人を呼んだのである。迷惑掛けたが、実際、御前さんがたを見て癒やされた。少しばかり元気が戻ったようじゃ。さらに湯治場に行けば、この世のごたごたが忘れられようぞ」
「御免なさい。漱石先生。私たちこれからどうなるのかって、そればかり気になって」
「私たち、未来からこの時代に紛れ込んだみたいで・・・西暦二千二十五年に戻れるのかどうか、そのことが心配で心配で・・・」
智恵美も若菜も泣きそうな顔になった。
「心配など無用じゃ。元に戻るのは訳ないことだ。しかし、出逢いが勿体ないのお。もうしばらく吾輩に御前さん方の時代の話を聞かせてくれまいか」
「はい。私たちの居た二千二十五年は、平和な時代です。日本は戦争をしない経済的に豊かな国です。人々は、電気であらゆる物を動かし、自動運転車で移動し、スマホで会話のやりとりをし、ロボットがあらゆる仕事を補佐する社会です。でも、最近、私たちは、そんな便利すぎる社会に危機感を持っています。人間が堕落しないかって・・・」
若菜が令和の世を説明した。
「平和で豊かな時代・・・まさにそれは維新政府が目指す所である。だが、近頃はきな臭い臭いが漂ってきておる。列強に拘りすぎて、我が国独自の道を忘れているようだ。ああ、まさに堕落の一途を辿りまいかと・・・」
「漱石先生、日本は、これから近隣諸国やアメリカと戦争することになりますよ。その戦争で、我が国の国民にも、外国の人たちにも、多くの犠牲者を出すことになります。まさに歴史上、最大の悲劇が到来するのです」
智恵美が智恵を総動員して説明した。
「そうなのか。だが、歴史の波には逆らえん。人間は、弱き生き物故、時の過ぎゆくままに周りに流されてしまう。まことに哀れじゃ。吾が時代も、皆が宰相に期待し、国の方向を任せるのはよろし。だが、宰相たる者が、私利私欲と目先の事しか考えきれないならば、国を傾かせることになりかねぬ。それでも愚かさに気づくことなく、懲りずにまた同じ事を繰り返す。それが、人間の業というものだ」
「そう思います。お話頂きましたこと、大変勉強になりました。本当に、有り難う御座いました。さて、そろそろ令和時代に戻りたいのですが」
若菜が身を乗りだし、漱石先生に嘆願した。
「折角こうして逢えたのに、もう帰りたいと申すか。それは残念じゃのう。空しいのう」
「はい、私たちも、先生と別れるのは、辛いです」
二人がそう言うと、漱石先生は、縁側に置かれていた太い榊の木を三本取り出して来られ、二人の前に静かに差し出された。二人は、正座して目をつむり、心を無にした。それで、漱石先生は、榊の木の枝を、二人の頭上で振り揺すられた。
「えいやあーっ」
気合いを込められ、榊の木は二人の頭を激しく揺さぶった。
「ああーっ・・・」
たちまち、二人は目を回し、気を失ってしまった・・・

 

   最後までお読みいただき、ありがとう御座いました。

   著作権の都合で、全部は掲載致しませんが、これからも続きを掲載していきます。

   お楽しみに・・・

   そして、出版社の方御採用のほどを・・・無理なら、どなたか出版費用を・・・

   ああ・・・