冷戦後のアメリカ外交を考える上でネオ・コンサーバティブ、通称ネオコンについて触れないわけにはいきません。

 

渡辺惣樹さんの新刊『アメリカ民主党の崩壊2001-2020』の第一章にネオコンのことについて詳しく書かれているのはさすがだなと思いました。

 

ただ渡辺さんが見落とされている重要な点が存在するので、そのことについて書いてみようと思います。

 

元々ネオコンの戦略家たちは民主党にいたのですが、民主党がソビエトに対して甘い態度をとることに対して不満を抱き、ちょうどレーガン政権の始まる前後に集団で共和党に移ってきたのでした。

 

渡辺さんはネオコン外交の特徴を6つ挙げておられます。

 

1、徹底的に反ソ 

 

2、小国の政権を強引に親米に変更(傀儡政権化)させても構わない(レジームチェンジを是とする)

 

3、 先制攻撃は許される 

 

4、経済リベラリズム(自由貿易) 

 

5、リベラル的社会政策

 

6、親イスラエル

 

そしてネオコンの第一世代としてヘンリー・ジャクソン上院議員やレーガン政権時代の国連大使だったジーン・カークパトリック女史の名前を挙げてその思想がブッシュ(子供)大統領の国防副長官であったポール・ウォルホウィッツやリチャード・パールの世代に受け継がれていたと書いています。

 

このように渡辺さんはネオコンの思想が親の世代から子供の世代に順調に受け継がれてきたように書かれていたのですが、実際はそれとはずいぶん様相を異にするようなのです。

 

そのことを私に教えてくれたのがピーター・バイナートというアメリカの評論家でした。

 

彼は『イカルス・シンドローム』という本の中で、オールド・ネオコンの中で最も重要な外交思想家はアービング・クリストルとジーン・カークパトリックであったと書き、彼らはソビエト連邦が崩壊して冷戦が終わった時に、カークパトリックの言葉を使えば、「アメリカは『普通の時代の普通の国家』に戻るべきだと断言した」と書いています。

 

そしてオールド・ネオコンはアメリカが冷戦終了後にアメリカが取るべき戦略をこう記すのです。

 

「NATOを解散し、ほとんどのアメリカ兵をヨーロッパやアジアから撤退させ、軍事費を削減し、多極的な世界に備えよ。」

 

オールド・ネオコン達にとって日本やドイツに米軍を駐留させていたことは、あくまでもソビエトと冷戦を戦う上での例外的な措置であり、第2次世界大戦を直接知る彼らは冷戦終了後にもアメリカ軍を世界中に駐留させてアメリカが帝国を維持しさらに「世界の覇権を握るということなどは全く思いの外だったのである。」とバイナートは書いています。

 

ところが第2世代のネオコン達は親の世代の意見を全く無視して、アメリカ主導のリベラルな覇権を追求したのですが、それは終わりのない戦争を生み出し、中東を筆頭に世界の不安定化をもたらしただけに終わってしまったのです。

 

このブログを読んでくれている人たちが、アメリカが将来に本当に日米安保などを破棄する日がやってくるのだろうかという疑問を抱いているかもしれませんが、元々のネオコンの思想にはそのような要素がプログラミングされていたということを理解してほしいと思っています。

 

そしてフリードマンやルトワックも間違ったネオコン2.0の思想に冒されてしまっていたのです。