ケナンはユーラシア大陸が一つのパワーによって統一される事がアメリカの脅威と認識していましたが、現代のジェファソニアン達は、アジア方面とヨーロッパ方面を分けて、どちらかでも一つのパワーにより統一される事がアメリカにとって危険だと認識しています。

 日米が戦った太平洋戦争は日本がアジアを統一してしまうことを防ぐ事が目的だったと解釈します。その際、彼らは日本が「悪」だったからなどという倫理的な基準を持ち込まないこともジェファソニアンにみられる傾向です。

 彼らは冷戦中アメリカが西側のあらゆる国と同盟関係を結んだことはやむをえないと考えていましたが、冷戦終了後はもう同盟の時代ではないのだと、積極的に同盟の解消を訴えるのです。ところが逆にアメリカは冷戦後NATOを拡大させようとしましたが、そのときケナンは「これは新たな冷戦の始まりだ。ロシア人はいずれ強く反発するだろう。それは確実に彼らの政策に影響を及ぼす。誰が、誰に対して、脅威を与えるわけではないのに、全く不必要な事だ」と怒りました。後にプーチン大統領が反西欧的な行動をとりますが、半分は西側にも責任があると私は思っています。

 ジェファソニアンは冷戦後、日米安保の破棄を要求しますが、現在アメリカに過大に依存している日本の安全はどう考えているのでしょうか。彼らの答えは直裁なものです。日本に核の保有をすすめるのである。ジェファソニアンの一人であるクリストファー・レイン教授は名著 The Peace of Illusions の中で次のように書いています。

 「アメリカは日米安保を破棄したほうがよい。そして日本が独立した大国としてふるまえるような軍事力を獲得するのを容易にしてやればいいのだ。この戦力には第2撃能力を含む核戦力やシーレーンを守る攻撃能力も含まれる。」

 このように核をもった日本が一つのパワーになることを勧めるのである。そして中国やロシアとの間の勢力均衡でアジアの平和を達成させれば良いと考えているのです。日本にいる米軍基地は当然不要になります。

 しかしながらこのような考え方は戦後の日本ではほとんどタブーでした。村田教授は「世界に冠たる翻訳大国・日本」と書いていますが、現代のジェファソニアン外交(学問的に言えばオフショア・バランシング論)は最近までほとんど翻訳されていません。(当然村田教授の推薦図書にも入っていません)

 シカゴ大学教授ミアシャイマーの大作『大国政治の悲劇』、ハーバード大学教授ウォルトの『米国世界戦略の核心』といったジェファソニアン外交をあらわす作品がようやく片岡鉄哉先生の弟子筋にあたられる奥山真司さんによって翻訳されました。興味があったらご一読ください。

 続く。
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