ラブアンドシーフ65(CM) | Fragment

Fragment

ホミンを色んな仕事させながら恋愛させてます。
食べてるホミンちゃん書いてるのが趣味です。
未成年者のお客様の閲覧はご遠慮ください。

地上に上がってからようやく気付いたのだが、外からは見えないように木を飢え、厩を作ったようだった。
真新しい板材だった。
これはきっと「拝借 」してきたもののの一部なのだろう。
僕の兄弟達はなんて仕事が早いのだろう。

全員が馬に跨ったところで、別な馬の存在にも気付いた。

『馬車がある…、』

僕が呟くと、隣にいたイトゥクが頷いた。

『動けない人だっているかもしれないからね、』

馬車は2台あった。
これは右の塔と左の塔とで1台ずつ向かわせるのだろう。

『それを俺とウニョギが乗って、』

『ああ、なるほど、』

助けた人達を森まで先導する役が、この場所に乗るというわけか。

『この馬車も、』

『うん、拝借してきた。』

『ふふ、』

どこからとは聞かないが、悪事を働くところからしか拝借しないのだから、聞くまでもないのだろう。

『チャンミン、』

『はい、』

イトゥクが微笑んだ。
この兄とは久しぶりに顔を合わせて、こうして会話を気がする。

『色々と落ち着いたら、一緒に料理をしようか。』

『はい、』

この人は本当に真っ白で、羽根すら生えているように見える。
心が弱くて、そして強くて、とても綺麗な人だ。
影でしっかりと多くの事を考え、自分をたくさん戒め、仲間の間を歩く人。
ここの仲間と生きている理由を、僕は詳しくは知らない。
けれど、この明るくも儚くも笑える彼は、たくさんのものをこれまでに見てきたに違いない。
「だからここにいる」という、それだけのものをたくさん見てきた人なんだと思う。
たくさん迷う人で、たくさん決断してきた人。
だから強い人。
強くなった人。

『これまでも手伝ってくれてよかったのに、』

『まあそう言うなよ。ごめんね、ちょっと色々と思い出すものがあって、なかなか、』

『…、』

そうか。
やはり彼にも過去があったということか。

『でも、この戦いが終わって落ち着いたら、できる気がさるんだ。』

『はい、もう落ち着きましょう。僕は、落ち着きたい。とにかく、風呂に入りたいです。』

『ははは、そうだね、ユンホと一緒にふやけるまで長風呂したらいい。』

『いや、ええ?』

静かな号令がかかる。
イトゥクの表情が締まり、目配せをして僕達は馬を歩かせ、荷馬車引き、集まった。


始まる。

僕達の、コロサズの作戦。








右の塔はウニョクの馬車と、ドンヘが隊長となる部隊。
ヒチョル、シウォン、キュヒョンと精鋭の犬達。
左の塔はイトゥクの馬車と、ユンホが隊長となる
部隊。
新しく入った3人の仲間はテミンとミンホも含むユンホの部隊になった。
そこに僕が加わる。

『ヒョン、弓、ちょっと引いてみて、』

ミンホに声をかけられた。
僕は背中に掛けていた大弓を取り、矢筒から1本の矢を取ってつがえてみた。

『うん、いいね。』

ミンホは言いながら僕の肘や肩に触れて締めさせた。

『できればこの形、覚えておいて。馬上でもブレにくいから。』

『うん、わかった。ミノ、ありがとう。』

『戻ったら、弓での狩りで特訓してみようか。』

『うん、そうする。』

戻ったら。
そう、戻ったら。
ミンホと弓の訓練した狩りで、イトゥクと調理をしようじゃないか。
そしてユンホの疲労と垢を落とすんだ。
僕達はよくやった。
そう褒め称えることができる食卓を目指す。

みんなで無事に戻る。
失われた安息を、穏やかな時間を、取り戻すんだ。
やり直せるものは、やり直すまでのところへたどり着きたい。
そう思っているのは、僕だけではないだろうから。


ドンヘが腕を上げた。
出陣の合図だ。
誰もが黙ったまま頷き、馬の腹を蹴る。
村を駆け抜け出て、真っ直ぐに駈ける。
しばらくまとまって駆けている中、先頭を走るドンヘとユンホがまた手を上げた。
ここから分隊されるのだ。
するとキュヒョンだけが更に離れ、別な方向へ消えていった。
ひとりで大丈夫だろうか。
彼は別の任務があって、一時的に離脱する。
それから合流することになっている。

駆ける。
明かりもなく、遠くに見える外壁と見張り塔から零れる僅かな光だけだ。
平野に降りると首都の街並みは見えない。
意識したことなんてなかったけれど、それだけ外壁は高く厚いものなんだと今更思ったものだった。
ある所まで来ると、ユンホとドンヘの部隊が別れて、綺麗に左右離れていった。
馬であればなんてことのない距離だ。
けれど、人の足でどれだけあの丘の村にたどり着くことが出来るのだろう。

いけない。
考えるな。
その為の策も準備もした上での、今現在なのだから。
みんなを信じて動くんだ。

次第に壁が高くなる。
目の前に広がる大きさになる頃には見張り塔のドアを蹴破るユンホの姿があった。

早い。
僕が壁を見上げている間に、彼は無駄のない動きで乗り込んでいたのだった。
気を引き締めなくてはいけはい。
オンユ達の情報と偵察の結果、見張り塔の内側に敵はいない。
事前にこの時刻に助けにくることを中の人達に伝えてあり、すぐに動けるようにと指示を出してあるのだそうだ。
蹴破ったドアから流れ込んできた女性達の手や腕の中には赤ん坊や幼い子どもがいた。
彼女達が先に出てきたのも、馬車に乗せてすぐに発つためだ。
イトゥクが荷馬車の幕を開けながら年寄や女性と子ども達を手招きして誘導する。
男達は丘の村へ誘導する為にミンホが誘導して動き出した。
僕達は殿を務めて敵が出てきた時の足止めをすら役目というわけだった。
馬車の定員が一杯になると、イトゥクはユンホに合図をして先に走り出した。
次々と出てくる人達の数に、僕は不安になった。
馬車に乗れず、怪我をしている人が健康な男性に担がれ歩く。
そんな人達を見て、僕は守りきれるのだろうかと不安になった。

塔から出てきた最後の男性がユンホと目配せをすると、半分壊れた扉を閉めて彼らを守るようにして丘の村へと戻り始めた。
右の塔は無事に全員が脱出できただろうか。

ユンホが右の塔の方を見ながら、徒歩の人達を守り進む。
同じ方向を見ていると、ある瞬間に合図をするように何かが点滅した。

『上手くいったようだ。』

右の塔の救出も上手くいったようだ。

『全ては、ここからだ、』

ユンホが前を向く。
そしてすぐに後ろを向いた。

『来る。』

ユンホの低い声。
 
『オニュ、ジョン、キボマ、』

ユンホが名前を呼ぶ。
その声に引き締まった顔の3人が答えるように振り向いた。

『これから交戦する。先頭のミンホと代わって村の隊列を守るために彼らの傍を離れないで欲しい。』

『はい、』

揃った返事がする。

『彼らに敵が近づいた場合、防衛するために戦うんだ。敵を殺す必要はない。』

『はい、』

今度は聞こえてきた返事が少し重くなった気がした。

『ミノ、テム、』

『はい、』

オンユが先頭のミンホ交代して、ミンホがテミンと共に殿まで下がってきた。

『これから始まる。何事も最小限に押さえる。』

『はい、』

『チャンミン、』

『はい、』

呼ばれた瞬間、心臓が大きく縮んだ。
我ながら情けない。

『俺達の援護を頼む。』

『はい、』

『俺達が全部防ぐから、お前は俺達を援護して欲しい。』

『はい。』

『きた!』

僕が返事をした瞬間、テミンが叫んだ。
振り返ると、松明の明かりが見えた。
外壁の上から、松明の点が連なっている。
外壁から梯子を下ろして降りているらしい。
この様子だけだと相手に馬は無さそうだ。
交えることなく引き離せるだろうか。

『キュヒョン、』

ユンホの呟く声がした。
ユンホは辺りを見回し、キュヒョンの姿を探しているようだった。
捕らえられていた人達も全力で走っている。
敵が諦めてくれるまで頑張ってもらうしかない。

『ヒョン!』

テミンが誰かを呼んだ。
はっとして振り向いた瞬間、テミンが剣で飛んできた矢を打ち落とした。
すると次々に矢が飛んでくる。
外壁の上から飛ばしてきているようだ。
ユンホ達は走る人達に矢が届かないように剣を振って矢を払った。
自分や馬に当たってしまってもいけない。
徒歩の人達の速さに合わせ、矢が飛んでくる方を見て払うと、城壁から降りてきた兵士達に追いつかれるのも時間の問題だ。
どうしたらいいのだろう。

『っ、』

松明もなく走る兵士達が迫ってきている。
丘の村に逃げ込むところだって見られたくない。
どうしたらいいのだろう。

『止まれ!』

兵士達が叫ぶ。
イトゥクの馬車とオンユに先導を任せ、残りの僕達はユンホの目配せを合図に足を止めた。
応戦するつもりだ。

『何者だ!今すぐ国民を塔に戻せ!』

兵士の声にユンホの眉間が険しくなった。
そして僕達にまだ手を出すなと左手で制する動きを見せた。
対話するというのだろうか。

『戻す場所が、そもそも間違っているのは、国で働いているあなた達にはわからないのか?』

ユンホが睨みつけるようにして低い声で言った。
僕は大弓を握る手のひらからの汗が止まらない。

『兵士であるあなた達全てが、首都の出身なのでろうか。あなたの家族は、親族は、友人は、それら全てがこの首都である狭い世界の者なら理解が出来なくても仕方ない。』

『、』

ふたり、3人とここまで辿り着いた兵士が増えていく。

『あなたに親しいひとが、世話になったひとが、狭い塔に押し込められ、悪意のある労働を強いられているとしたら、あなたはこの国で働く意味をどのように持つのだろう。』

歪む兵士の顔。
ユンホの声が、言葉が、この兵士である人間に届いている証拠だ。

『うるさい!』

稚拙な単語で払われてしまったユンホの言葉。
兵士達が刃をこちらへ向けて構える。
平野の砂利を踏む音をさせて、後からやってきた兵士が斬りこんでくる。

その瞬間、ユンホが僕達を制していた手のひらがぐっと握られた。

応戦の合図。

『ここで全てを止める。キュヒョンを待つ。鼻と口は覆って備えておくんだ。』

みんなが頷いて鼻が隠れるまでマントや布で口と鼻を覆った。
オンユ、ジョンヒョン、キボムはそのまま村の人の列と動き、僕とユンホ、テミンとミンホが応戦することになった。
もしかしたら、ユンホはあの3人と兵士達が顔見知りだったことを知られるのをまだ避けているのではないかと思った。
あの3人が裏切ったとして、捜索隊を組まれてたりしては面倒だ。

『死ね!』

聞きたくない言葉で、戦闘が始まってしまった。
振りかざされた剣に向かい、ユンホが最初に飛び出した。
剣先で相手の剣を弾いて宙に飛ばす。
その隙に手首を掴み、捻って体を宙返りさせるように浮かせて地面に叩きつけた。

ユンホが合図になったように、テミンとミンホが応戦を始める。
武器を落とさせ、足を狙って追えなくする。

僕は3人から少し距離を取り、この場に向かってくる敵の姿を全て把握しようとした。
どこからか砂塵が流れてくる。
いけない、これでは敵の発見が遅れてしまう。

そしてその砂塵のなかから現れた兵士がテミンに向かって矢を向けようとしていた。

『っ、』

僕は矢をつがえ、敵の太ももに狙いを定めた。
当たるだろうか。
上手くいくだろうか。
間に合わない。

『うわああっ!』

吠えていた。
矢が離れていった。
叫び声がした。
そして兵士の体が崩れ落ちたのを見た。

『当たった…、』

人を射ることが出来る自信というものは、欲しくなかった。
でも、これで仲間を守ることが出来るのであれば、この戦争が終わるまではそれを力にしたいと思う。

戦争。

『戦争…、』

そうだ、これはもう戦争なんだ。
そして終わらせるんだ。
1日も早く。

僕は争い事が、嫌いだから。

それから3人を援護しながら、少しずつ撤退場所へ向かうために後退を続けた。
ユンホは体術と剣を使い、ミンホは槍で応戦し、テミンはなんと小さな体を生かして馬の鞍の上に立って投剣で相手の進軍を止めていた。

砂塵が濃くなる。

『…、』

違う。
ただの砂じゃない。

『キュヒョンがきた、みんな引くぞ!』

そういうことか。
僕達は手綱を引いて方向転換をした。
今度は撤退に集中する。

『お待たせ!』

藍色の砂塵のなかからキュヒョンが現れた。
キュヒョンもみんなも砂塵を吸わないように鼻や口をしっかりと覆っている姿で目配せをした。
キュヒョンは馬で駆けながら煙幕の粉を引いていたのだった。
それに火を付けて煙のカーテンを作ったのだった。
これにより壁から出てくる追っ手は視界を遮られ、煙を吸い込めば咳き込んでしまい立っていられなくなるだろう。
砂塵は分厚く立ち上り、僕達と兵士を遮ってくれたのだった。

『あっちも上手く撤退してるっ、』

キュヒョンがユンホに伝えると、僕達は速度を上げて救出した人達の列に追いついた。
ジョンヒョンに話を聞いたユンホは、僕達に誰ひとり欠けていないことを伝えてくれた。
それから徒歩が困難な人を一緒に馬に乗せ、追っ手を撒いて朝が来る頃に丘の村へ到着したのだった。
地下へ案内したのはまだ健康そうな男達と、残ると希望した女性。
おそらく残った男達に家族がいるのだろう。
そしてこの朝から、仲間たちで交代で馬車を走らせ森まで人を送る動きを続けた日が続くことになる。
仮眠を取り、そして交代で森へ向かう。

僕達の救出作戦は成功したのだった。
誰も殺さず、誰も失わずに、捕らえられていた人を救うことができた。
もちろんまだ終わったわけじゃない。
助けた人達が無事に森を抜けて、谷の村へ全員が辿り着かなくてはいけない。

けれど、成功した。
みんなで考えて、みんなで動いて、みんなで成功した。
嬉しかった。
やっと安心できた。

そして喜びの中、残ってくれた女性と食事の用意をしている時だった。

『きゃあ!』

女性が叫んだのがわかった。
わかったけれど、他のことはわからなかった。
僕は気を失ってしまっていたから。

全く情けないよね。
疲れが限界を超えてしまったようだった。
何日眠っていなかったのだろう。
疲れだなんて、みんな同じようにとっくに限界を超えているのに。
寝ていないのは、みんな同じなのに。
情けないよ。

でも、心の中のどこかに、やっとみんなと戦える自信がまだ残っていて、そんなに悪い気分じゃないんだ。

へんなの。

気を失っているなかで、自分が笑っているみたいに感じるなんて。

へんだよね。

ねえユンホ。

早く一緒に眠りたい。
綺麗な体になって、抱き合って眠りたい。
そしたら、泣いてもいいかな。
恋しかったって、言ってもいいかな。

この期に及んで、僕だけのユンホでいてくれる瞬間が恋しかったと思っているだなんて。



ユンホ。

疲れたよね。

起きたら今度は、あなたがしっかり寝る番だ。

だからあと少しだけ、僕を眠らせて欲しいんだ。








『チャンミン、』

なあに。

『ありがと、』

ふふ。

『愛してる。』

知ってるよ。

『無事で、…無事でよかった、』

それは僕も言いたいことだ。
あなたに傷が増えることは、あまり好きじゃない。

ああ、もう、綺麗になったら、キスしていいかな。



なんだかとっても、とっても、あなたが恋しくて堪らないんだ。











続く

|▽⌒)ㅅㅎ)v6)ㅂ´*)_ㅍ )チラララララ

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