デリバー!2019ver. 4(U) | Fragment

Fragment

ホミンを色んな仕事させながら恋愛させてます。
食べてるホミンちゃん書いてるのが趣味です。
未成年者のお客様の閲覧はご遠慮ください。

いよいよ防犯コマーシャル撮影の日。
打ち合わせが午前中にあって、そのまま本社の一室で撮影に入る。
今回本社の王様は、制作会社に依頼をして撮影をすることにしたらしく、数名のスタッフと共に仕事をすることになった。

午前中の打ち合わせで、制作会社が作ってきた注意喚起の台詞と、俺とチャンミンが言いたいことを擦り合わせて書き直した。
潔白を主張し過ぎても不信感にしかならないこともある。
ちょうどいいところを選ぶのも大変なことだと痛感した午前中だった。

昼を挟んで撮影に入るのだが、その昼の時間に俺の仕事用の携帯電話に電話が入った。
営業所に俺もチャンミンもいないから、そういう時に対応できるように、いつも仕事用の携帯電話を持っている。
ガラケーのやつね。

「もしもし、あ、出た、」

この声は、あの男。

『こんにちは、どうしました?』

「犯人見つかったよ。」

『え?』

チャンミンと目を合わせる。
不思議そうに俺を見上げる。

「捕まえてはないけど、」

『ええと、』

「詐欺のデマを言いふらしてる人、見ちゃった。」

『、』


こういう時、思うんだ。
ひとりの出現により、たくさんのものを連れてくる人が時々いるんだよなって。
それが今回は、あの校閲男だった。

犯人発見が遅いのか早いのか、なんとも言えない状況だが。
それでも、これが何かのきっかけには必ずなっているはずだ。

俺は古いガラケーを破壊せんばかりに耳を押し付けて、話を聞くことにした。







「いやなんかね、俺が越してきたアパートってお年寄り多くて。あんたのとこのご飯に頼ってる人が居たんだよ。」

確かに校閲男の新しい住所は俺の担当エリアで、そこの地域は古い建物も多く、昔から住んでいる年配の住民が多い。
デリバリーの介護食を契約している人が多いのもそのエリアだ。
ついにその「お年寄りエリア」にまで詐欺の話が飛んできたか。

「ちょうど部屋の外出ようとしたら、そのおばあちゃんのところに宅配便届いてたのね。」

『うちのですか?』

「それが違うんだよね。青くないもん。赤い方。」

『ああ、』

ライバル会社というか、最大手の宅配業者だ。

「その赤い方がさ、おたくのデリバリーヤバいから止めておけっておばあちゃんに言ってんだよね。」

『、』

「捕まえなかったけど、動画は撮っといた。いる?」

抜かりないな。
さて、どうしたものか。
1度校閲男に待ってて欲しいと言ってチャンミンにこれまでのことを話した。

『一応送って貰ってください。念の為にです。これで何かを起こすつもりは今のところありません。』

俺は頷いてその旨を校閲男に話し、営業所のアドレスに送って貰った。
それをチャンミンが自分のスマートフォンに転送させているようだ。

『ありがとうございます、届いたようです。』

折り返し校閲男に電話をした。

「どういたしまして。俺のところにも来ないかな、楽しい会話ができそうじゃない?」

笑いながら言うけど、笑い事ではない。

『ダメですよ、危ないですから。もし来ちゃっても深入りしちゃダメです。』

「でもあれでしょ、個人の判断で詐欺だなって思ったら警察に電話してもいいんだよね?」

『まあ、そうですけど、』

俺とチャンミンが今から撮影するものがまさにそれだった。
怪しいと思ったら直ぐに家族や警察に相談を、というやつだ。

『楽しんじゃダメですよ。』

「うん、わかってる。あ、薄味だけどやっぱ美味しいね。」

『ありがとうございます、』

「でも俺はあんたが運んでくれるんだと思ったんだけど、」

『食品のデリバリーは別な担当が行くんですよ、申し訳ありません。』

「なるほどねー、わかった。じゃあ、また。」

『はい、わざわざありがとうございました。』

電話を終えてチャンミンと向かい合う。
会話の内容をチャンミンに伝えると、険しい顔をして黙り込んだ。
いつもの、唇がへの字に曲がるあの顔。

それから重たそうに口を開く。

『電話している間に何度も動画を見てたんです。』

『うん、』

『やっぱりあの会社の人にしか見えないし、音声にもはっきりとうちの名前を出しているから、悪意があるものなんだろうなとは思います。』

『うん、』

『でもこれだけでは、やはりなんとも言えない証拠ですよね。』

『うん、そう思う。』

『だからこれは、僕達の胸に今は閉まっておきましょう。』

『うん、わかった。』

まあでも、その震えてる唇は、言葉と真逆のものを言いたくて言いたくて我慢しているんだろう。
これまでチャンミンが自分の胸に閉じ込めてきたものを思うと、俺だってどうにかしてやりたいと思う。
でも、こういう時、未来の王様になるプリンスはこの場にいる誰よりも我慢をしなくてはいけない。
俺よりも、だれよりも。

プリンスの手を捕まえて、両手で握る。
指にささくれなんか作っちゃって、俺が苦労させてるみたいじゃないか。
あとでネイルケアにでも行かせようと思う。

でも、この苦労って、報われるとは思うんだ。
この苦労を今回の事件に例えるなら尚更ね。
だって俺達は今から、その対策案を実行しようとしているのだ。
俺達は動いているんだ。
考えて考えて、今日実行しようとしているんだ。
これまでの努力を、メディアに向けて現すということだけ。
メディアを通して俺達を見てくれた人が、この青い制服を着たどこかのドライバーやデリバリー部隊の人達を見て思い出してくれたらいい。
そして俺達がどんな仕事をしているのかを、誰かが気付いてくれればそれでいい。
それこそが、俺達の潔白に繋がることなのだから。

俺はこの手に、大きな自信と広くて明るい未来を持たせてやりたい。

開けた未来のために、たくさんのものを閉じ込めてきたプリンスだから。
そしてこの手が築いてきたものもある。
この手が繋いできたものがある。
それを誰かに壊されるようなことは、俺がさせない。
許さない。
だから俺は、チャンミンが望む形で救ってやりたいと思う。

だから、今回はチャンミンが堪えたものを俺が無駄にするわけにはいかない。

俺達は、予定通りのこの作戦を実行するだけだ。

『俺がお前を、あの街の本当の王子様にしてやるから。』

もうなってるけど。
そう思わない人がいるのが現実だから。
だから俺が、露払いをするんだ。
キュキュッとね。

『王子様じゃないですけど、所長では居てたいです。』

真面目か。

真面目なんだよ、うちのプリンスは。

握った手を拳にして、ぶつけ合う。
頑張ろう。
目を見てそう鼓舞しあって。
そして勝利の笑みを少し早いけど浮かべてみるんだ。

勝利。
何の勝利か。

それは、犯人へ告ぐものではない。

それは、自分のなかに閉じ込めてきたものたちへ捧げる勝利だ。
日の目を見ることがなかった、たくさんの思いに。

自分自身への勝利を喜ぶんじゃないんだ。

これまでのあの街と過ごしてこれたことに、喜ぶんだ、俺達は。







ちょっとだけ化粧なんかされて、カメラに向かって立つ俺とチャンミン。

『私達ドライバーは、代金引換以外で現金をお預かりすることはありません。』

俺がうちの会社の全ドライバーを代表して言い切る。
いや、この業界を愛してる働いている全ドライバーに代わって言ってもいい。

『食品のデリバリーサービス等で集金を行うこともありません。』

そうだそうだ。
見ているか、テレビの前の犯人。
まだ放送されてないけど。

『不信に思うことがあった時は、必ずご家族や警察に相談してください。』

この一言に尽きる。

『宅配業者を名乗る犯罪が増えています。地域の皆様同士、そして私達で防ぐ為に出来ることがきっとあるはずです。』

『私達と一緒に、防いでいきましょう。』

結局、俺達が言えることというのも、これぐらいのことしかない。
それを改めてメディアに出て成果があるのかもわからない。
けれど、意味はあると思うんだ。

伝えられない俺達じゃないから。

自分達を信じるって、そういうことだ。
俺達の制服を見てくれた人達全てに向けて頭を下げる。


短い撮影だった。
撮影した前後にテロップだけの映像も入るらしい。


王様にご苦労さまって言われて肩を叩かれた。
その他取り巻きに頭を下げられた。
王子は王様と話をしにお城の中へ消えていった。
俺は本社のロビーでぐったりしている。
俺はお城の女性に入れてもらったアイスコーヒーをすすりながら、営業所に連絡をした。
変化はないらしいが、集荷が多くてドライバーが戻らないと元気娘が言っていた。
集荷が多い。
ありがたいことじゃないか。
仕事があるって、求められるって、いいことじゃないか。
お金を貰って信頼を得ている。
だから俺達はその信頼を強く進化させなくちゃいけない義務がある。
働くって大変なんだ。
働くって、多分誰もが出来ることじゃない。
まずは働ける自分に自信を持つ。
そして、人から得た信頼を大きな自信にする。
だから、支えられて仕事が出来るって、物凄い奇跡でもあるんだって思ってる。
それをチャンミンと作り上げてこられた今を、俺は愛している。

俺個人のスマートフォンにメッセージが入る。
あの元気娘だ。
仕事が終わったらしい。

「せっかくだからふたりでクレープでも食べてきなよ!」

クレープって。
いつの時代の女子高生だよ。

労われるって、いいね。
忘れたくないね。
ささいな言葉で報われる瞬間てあると思う。
今もそう。
だから、チャンミンにも言ってやって欲しいんだ。
働きもののプリンスに、ぜひ言ってやって欲しいんだ。


『お待たせしました、いきましょう。』

小走りでやってくる、俺のプリンス・チャンミン。
三十路を迎えたがますます見目麗しい。
走ってくるその姿の背景が輝いている。

『なんかさ、』

『はい、』

『クレープでも食って来いって。』

『はい?』

『あはははは!』

『なんでクレープなんですか、』

『あはは、はいはい、じゃあ手を繋いで帰ろうか。』

『ちょっと、なんでクレープ…』

『営業所にワープ!』

『古っ!』

『あはははは!』


ふたりで手を繋ぎ、営業所まで社用車でワープした俺達でしたとさ。
めでたしめでたし。

とはいかず。
これからまだ夕方以降の仕事が残っているわけだ。
今日はふたりで朝晩扱いだから落ち着いたら帰るけど、俺達の不在を踏ん張ってくれた「みんな達」にクレープじゃないけど甘いものを買っていったわけね。
プリンなら、冷蔵庫にいれておけば明日もみんな
食べられるでしょ。
冷蔵庫がプリンのための冷蔵庫になりました。



さて、誰かさんのホラ吹き事件は落ち着くのか。

校閲男の活躍はまだまだ続く。

あはは。








続く(´◉J ◉`)クレープ…
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