石畳の階段を駆け上がる少年の足は軽かった。夕刊をとる人がめっきり減ったからだ。
息が白い。
白壁の建物の間を走る道は自転車がすれ違うにも苦労するほど狭く、
おもちゃの蛇のように鋭角に蛇行している。
すでに白壁は薄蒼く、窓から漏れる灯りはか細い。
まっすぐな道に出た少年は、急に足が重くなり膝をついた。
通りの突き当たりにある聖堂の大時計に数えきれない黒い鴉が集っていたからだ。
羽根をばたつかせ、みな鳴き声ひとつたてずに。
目を細め時計の針を凝視する。
4時47分。
どれだけの時間が経ったのか少年はわからずにただ視覚だけの存在になっていた。
やがて黒い鴉の羽根は、一枚一枚、一羽一羽、白くなっていく。
それとともに、長針から太い縄と少女の赤いドレスが露わになる。
ひとり、またひとりと家から路に出てくる老人と娘たち。
みなが跪く少年を怪訝そうに観た後、彼の視線の先を見て、
目を閉じた。嗚咽を押し殺す者もいた。
白い鴉たちが上空に垂直に飛び上がると、
大時計は5時を示した。
いや、大時計が5時を示し、白い鴉たちが飛び去ったのか。
赤いドレスの少女の姿はそこになく、
大時計は日課のチャイムを石畳の街に響かせた。
いつもより軽やかに甲高く聞こえたのは、
おそらく少年だけではなかっただろう。
masashi_furuka