事実曲解に基づいた仮処分決定 | 岐路に立つ日本を考える

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 私は日本を世界に誇ることのできる素晴らしい国だと思っていますが、残念ながらこの思いはまだ多くの国民の共通の考えとはなっていないようです。
 日本の抱えている問題について自分なりの見解を表明しながら、この思いを広げていきたいと思っています。


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 高浜原発の再稼働差し止めを関西電力に対して命じる仮処分決定が福井地裁から出されました。樋口英明裁判長は「原子力規制委員会が策定した新規制基準は緩やかにすぎて合理性を欠き、適合しても安全性は確保されていない」としました。しかしながら、今回の仮処分決定については、あまりにも重大な事実曲解があることがわかってきました。決定文には論拠として識者の入倉孝次郎・京都大名誉教授の発言が引用されているようですが、当の入倉名誉教授自身が「全くの事実誤認」だと断言するほどのものです。

 まずは原発の基準地震動(この揺れの強さに耐えられるだけの原発にしなければならないとする揺れの大きさ)に関してです。決定文において「地震の平均像を基礎として基準地震動を策定することに合理性は見いだしがたい」としているようです。要するに、過去において福井で起こった大地震の平均的な大きさを基準地震動として決められており、平均よりも大きな地震が来た時には耐えられない可能性があるから、この決め方は粗雑であり不合理だとの判断を示したということになります。これに対して、入倉名誉教授は「基準地震動は地震の平均像を基礎にして決めていない」と発言しています。つまり、そんな粗雑な決め方はしていないと否定しているわけです。

 東日本大震災では福島第一原発の揺れが基準地震動を上回ったのは確かですが、そのために原発に重大な損傷が生じたかどうかは別問題です。福島第一原発の場合には津波が襲来しており、地震動による破壊と津波による破壊は区別して考えなくてはならないものです。地震動には耐えられたが津波には耐えられなかったのであれば、津波対策を十分に行えば問題ないはずです。

 この件についても入倉名誉教授は、原子力規制委員会の事故調査の分析においては地震動と原発破壊との因果関係を否定していると指摘されました。つまり、基準地震動を上回った揺れは確かにあったが、原発自体はそれによって破壊されたものではないと言っているわけです。この見地からすれば、「基準地震動を超える地震が到来すれば炉心損傷に至る危険が認められる」とする樋口英明裁判長の見解には相当の問題があることがわかるでしょう。

 要するに、樋口英明裁判長からすれば、基準地震動の決め方に問題がある上に、基準地震動を超えれば甚大な被害が発生する可能性が高いとし、その論拠として入倉名誉教授の見解がそうだからと持ち出したわけですが、当の入倉名誉教授自身が、そんな雑な基準地震動の決め方などやっていないことを指摘した上に、基準地震動を上回ったからといってすぐに危険というわけでもないということを主張されているわけです。入倉名誉教授は「基準地震動の実績から言えば安全面は保証されているし、理論面でも地震動の評価に関してはむしろ精度が向上している」とまで言っています。

 このことは、樋口英明裁判長が事実を丹念に拾い上げて、それに基づいて仮処分を決定したわけではなく、最初から「原発=悪」という先入観を持ち、それによって識者の表明している見解について180度異なった解釈を行い、それに基づいて仮処分を決定したものであるということがわかります。このようなことが許されていいわけはありません。入倉名誉教授は「決定文にある発言は、新聞記事を元に原告が曲解して書いているものが引用されている」とまで言っています。歪んだ新聞報道をもとに、原告がさらにそれをねじ曲げて解釈したものをベースに、仮処分決定を下したということになると、これは事実をもとに公正な判断を下すという裁判所の信頼性を根底から傷つけるものだともいえるでしょう。

 この事実は広く知られる必要があると思います。


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