歯医者に関わる被害妄想ならいくらでもできるほど、歯医者が好きではない。なぜなら12年前、抜歯で死にかけたから。千葉に出て来たばかりの一人暮らしのあの夜、親知らず抜歯後の傷口から思いもよらぬ大量出血で、本気で死にかけて深夜の大学病院へ運ばれた私。人は死を覚悟すると、出血だくだくの中にも関わらず、ふと身辺整理に取り掛かることも分かった・笑。マジだから!これマジだから!!ちなみに私がまっしぐらに整理したのは、自身が農協パンツと呼ぶ、骨盤をすっぽり覆うほど股上の深いパンティー。←いらない情報

 

 

 

そんな歯医者にまつわるエトセトラはさて置き。

 

今回は我が次男(9歳)のお話。

その日までは平気だった、歯医者通い。治療も、ぐらつく歯の抜歯も、歯のクリーニングも、涼しい顔でやってのけて、むしろ12歳の長男よりも手がかからないほどのいい子だった。その日は、抜けたと思っていたら根っこだけ残ってしまっていた乳歯の抜歯。このままではよくないからと、前回の診察で抜くことは決まっていたので、次男も覚悟を決めていつものように診察台へ。いつもの男の先生がやって来て優しく抜歯へ促す。「よし、覚悟して来たな!さあ頑張ろうな!」。子どもに優しいその先生は、いつもと変わらぬ口調で、平気とはいえちょっと不安そうにしている次男をたしなめた。

 

診察台の横にあるこんなん。これ、目に入らないようにできないんですかね・笑。これを見るだけでいまだに恐怖3割増し。ついでに時間さかのぼって、病院の玄関で履いたスリッパが生温かかったら不安3割増し。そんな話はさて置き、そうなのだ。次男はこの日に限って治療器具に視線釘付け。

 

「えっ!!それ使うの?刺さない??」

うーーーん、たしかにどれかは刺しそうだなと毎回思っているのは私だけではないはず。どうせなら待合室に、この器具たちの紹介ポスターでも貼っておいていただきたいぐらいだ。素人には用途不明で、業界だけでツーカーだから余計に恐いのだ。ついでに言わせていただくと、上からのキリンの首みたいに下降してくるライト。あのライトに目がくらんで世の中が一瞬光に包まれると、ある程度覚悟が決まるのも私だけではないはず。伝わるかなー・笑。

 

 

次男よ、ここまで来たらもう悪あがきはやめるのだ。大人しく口を開きたまえ。と私が念じると同時にタイミングよく、先生が麻酔の注射を近づけて来た。実は次男、これまでの麻酔は塗布するタイプの、私なんかの時代からしたらあり得ないくらいの甘ちゃんな麻酔しか受けたことが無く、針タイプは初めてだった。その針先を見るや否や、

 

「ええっ!!それで刺すのっ?歯を刺すのっ?!」

わたし「これは麻酔だから。歯を抜く時はみんなやるんだよ」

先生「そうだよ、すぐおわるから さあ、我慢だ」

 

 

うぐぐぐぎぎいぃぃぃぃ・・・・・・

と耐える次男。早く、早く麻酔よ終わってくれ。分かるよ、実は抜歯より麻酔が痛いんだ、だましてごめんよ次男。次男の胸に湧き上がる絶望と怒りを殺めるように私は視線をそらした。せんせー早く麻酔終わらせて~!!!!

 

と次の瞬間。恐怖のせいか、次男が体をむくりと起こしたのだ!!ちょうど針を抜いた瞬間だったので事なきを得たが、もうそこからが大変だった。

 

 

 

「う・わああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

全力で叫びやがった。そして歯科助手のお姉さんが止めるのも振り切って診察台から飛び降り、身悶えが始まった。床に四つん這いになり、両手を拳にしては床に叩きつける。この間、もれなく叫び声付き。それはもう、舞台上の藤原竜也のようであった。

 

以下図説↓

いてええええぇぇぇーーーー!!

 

ばかあぁぁぁーーー!無理いぃぃぃーーーーー!!

 

帰る、家に帰るんだあぁぁぁーーーー!!

 

母さんだましたな・・・・

 

 

パタリ。。。(後ろ:わたし)

 

 

 

 

これでお分かりいただけただろうか。それはもう反乱すさまじく、普段は穏やかな次男が恐怖と裏切りにブチ切れた瞬間の恐怖をこれでもかというくらいに味わった。その荒ぶる海は鎮まることを知らず、もう自らを人柱として神に捧げようと思った。四つん這いになって床を叩き続けた時には、もう聞く耳持たず。麻酔の漏れ出た薬が苦かったのも不快8割増しだったようで、紙コップの水をがぶがぶと口に含む気持ちは分かったのだが、なんせ中途半端に麻酔が効き始めているので、意思と反して締まりきらない口角からびゅーびゅーと勢いよく漏れるのだ。それもパニックの要因となり、「うおぉぉぉぉ!!!」と派手に床を転げまわり、辺りは水浸し状態になった。もう、姿かたちが藤原竜也とかぶってかぶって、こんな時なのに私は次男の体を抑えながらうすら笑い。もちろん他の患者もいたのだが、みんな緊張の面持ちで診察台に仰向けになったまま、音だけを頼りに固唾をのんで様子を見守っている空気でいっぱいになった。治療妨害もはなはだしいではないか。

 

「はあっ…はあっ…( ゚Д゚)。。。」

心の息を切らしながら私が深呼吸。そこでやっと、先生と目が合う。

 

「今日は…やめとこうか…」←若干不機嫌、人間性が垣間見えた瞬間。

 

ですよねーーーー。

 

それ以降、出直す機会を見計らってはいるものの、「僕はもう歯を抜きません」宣言をされてしまい、どうやって歯医者まで連れて行こうか静かに策を講じているところである。

 

こいつにはもう、真摯な説得しか、ないのかもしれない。

あーーーー、母はいちいち疲れる。