ユノさんと約束した
土曜日になってしまった

待ち合わせの駅に行くと
彼はすでに、僕を待っていた

「チャンミン!ここ!ここ!」

大きな体をいっぱい揺らして
大きく手招きしている

見ている僕が恥ずかしいよ

僕は無愛想にユノさんに近づいた
ニコリともしない僕を
気にする様子もなく
ユノさんは、僕に話しかけてくる

「ねぇ、チャンミン
   今日は動物園に行ってみない?」

「はぁ?動物園ですか?  
    子供じゃあるまいし
     何言ってる…」

そう、言いかけた僕の唇に
ユノさんは自分の指をたてた

「子供の気持ちに帰れば
    いいじゃん
    黙って、俺についてきて」

そう言って、右目を瞑って
ウィンクをした

そのまま、手を引かれて
動物園に向かった

天気の良い、休日の動物園は
親子連れで溢れかえっていた
両親と手を繋いで、楽しそうに
象やキリンを見ている子供達

動物達でなく、
そんな親子連れに目をやる僕を
ユノさんが不思議そうに
見つめていた

「僕の両親は、ずっと仲が悪くて
    小さい頃に   
    家族で遊んだ記憶なんて
    ないんです…
    動物園だって、本当は    
    学校の遠足以外で
    来たことなんかなくて…」

俯いて呟く僕の手を握って

「思い出がないなら、これから
    作ればいい
    楽しい思い出、いっぱい作ろう!」

そう言って、歩き出した

動物園なんてと、
馬鹿にしていたけれど
動物達をよく観察してみると
とても面白かった

日向ぼっこして、ダラリと
寝ているライオンや
小猿を毛繕いしている母猿や
大きな口を、開けて水浴びを
しているカバの姿を見て
気がつくとユノさんと一緒に
笑い転げていた

「ねえ、あそこに
    山羊がいるよ、ほら早くいこう」

ユノさんの手を引っ張って
思わず、走りだそうとして
我に返って、立ち止まった

こんなの本当の僕じゃない?
恥ずかしくなって、動けなくなって
しまった

押し黙って、立ち止まったままの僕
ユノさんが近寄って
頭を優しく撫でてくれた

「今日は、俺達は子供だよ?
    恥ずかしくなんかないから、
    ねっ?行こう」

そう言って、僕の手を握って
走り出した
僕はその手の温もりが
とても、嬉しかったんだ