仁義
立原あゆみ
秋田書店 ヤングチャンピオンコミックス
10,14,17,18巻
10巻発行日 1992/5/5

立原先生の「麦ちゃん」「本気」が好きで、仁義も気になっていた作品。鉄砲玉(仁)とテロリスト(義郎)が極道界でのしあがるストーリー。
 
少年時代から描かれた「本気」には、ヤクザものの漫画というよりも、成長ものという色彩が濃く、夢中になってしまった。ヤクザ界でも本気は出世を望んでいたわけでもなく、組織を上り詰めたというより、周囲のヤクザ達が本気の元に集まってきたという感じだった。
 
一方仁義は、既にある組織の中で上り詰めてゆくストーリーだ。10巻時点で仁も義郎もそれなりに地位にいて、ますます上へ登っていこうとしている。だが、その発端を読者として味わっていない。それらのせいか、本気ほどのめりこめず、中途半端な収集となっている。
 
冒頭に述べた「鉄砲玉」と「テロリスト」が云々というのは、実は「JINGIⅡ」掲載された「JINGI」の広告に記載されていた内容である。
 

 

仁義Ⅱ

立原あゆみ

秋田書店 ヤングチャンピオンコミックス

全1巻 2000/6/30

 

ママ一人の小さなスナックだか居酒屋だか、しぶいところで祝杯をあげる忠。ようやく就職が決まり、あとは卒論だけ。その就職先がヤクザの舎弟企業とは知る由もなかった。巻数表示あるが全1巻。「仁義」の続編ではなく、サイドストーリー。

 

純でまっすぐ、好感の持てる性格だが、女にはモテてすぐに手も出す。

対立するやくざも狙っていた土地を、人柄もあって地上げに成功した忠は、その組織から狙われ、結局拉致される。

 

だが、拉致したヤクザ(下っ端のようだ)のちょっとした隙を狙って反撃、相手にダメージを負わせて拳銃を奪う。これで形勢逆転。一方、忠が籍をおく会社やその上部組織(ヤクザ)も、忠がとっつかまっているだろうと考えており、救出に動く。実際の脱出は忠の独力だが、その後の処理にはやはりヤクザ組織での力関係が必要で、忠の仕事(地上げの成功)や、ヤクザの拉致から逃れた度胸などもあって、幸か不幸か忠の株が上がってしまう。それでさらにヤクザから目を付けられることになる。

 

まだ3月31日を迎えておらず、忠の正式な身分は学生。卒論を仕上げないと卒業ができない。会社や飲み屋で出会った女に元彼女も加えて、やりまくりの忠だが、なんとか卒論も仕上げて、そして「辞表」も書いた。だが、会社の若くて綺麗な室長を名乗る女性は、辞表を受け取らなかった。社会に出るとは、命を懸けるということなのだ、と。怖いのはヤクザだけではない、国が敵に回ることもある、と。

 

有能な社員を辞めさせないための説得でもなければ、社会人としての心がけを解いた説教でもない。むしろ近いのは、「ただでやめられると思うなよ」というヤクザの凄みである。だが、この話に忠は乗ってしまう。

 

発行日が2000年だから、うん、なるほど、である。

そういう時代だったのだ。

今や簡単に「辞めたい」「辞めます」という時代。社会に出て働く覚悟など、どこにもない。若い人がどうこう、というのではない。表向きは希望退職、実際はリストラされた50代のおっさんでも、まあ仕事の続かないこと。覚悟も根性も誇りも羞恥もなく、これからどんどん長くなっていく定年までの時間をどう過ごすのだろう。あんな連中に年金を払うために若い人たちが搾取されるなんて、なんだかやりきれない。

 

それはともかく、理不尽な状況にもめげずに、ややもすれば流されつつも、自らの想いを捨てきることもできず、とにかく生きようとする若者がここには描かれている。本編の「JINGI」も初期はそうだったのだろう。先日紹介した「花火」もそうである。その部分を味あわずして、中途半端な巻数から「JINGI」を読み始めたのは失敗だったのだろうと思う。

 

さて、カバー絵の忠は刺青もしており、舎弟企業のサラリーマンではなく、近い将来、どっぷりヤクザに浸かってしまうのだろうと予感させられる。巻数表示のこともあり、この後のことも構想はされていたのだと思うが、この作品も今は全1巻の扱いである。

 

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