『光る君へ』第16回「華の影」の話 | 星野洋品店(仮名)

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とある洋品店(廃業済み)を継がなかった三代目のドラマ感想ブログ

とうとう倫子さんが気づいてしまわれました。夫の心に、自分でも高松殿(源明子)でもない女がいることに。サブタイトル「華の影」は、黒木華の影なんですか? 「ウフフフフ……」という笑い声が怖すぎて、お久しぶりの小麻呂ちゃんでも視聴者の恐怖を解かすことはできなかったようです。紫式部が誕生するまでの過程がホラー展開になりそう。

 

 

「香炉峰の雪はいかならむ」については、よその記事をご覧くださいませ。教科書にも載ってますし。一点だけ言っておくと、あれは白楽天が「調子こいて田舎に左遷されたけど、のんびり朝寝坊できるようになって嬉しい」と強がっている詩です。白楽天はその後中央政界に復帰しています。やっぱり戻りたかったんだね。

 

 

〈さがな者〉藤原隆家が、本役 竜星涼で登場しました。以前このブログでは〈脳のつくりが粗雑なマイルドヤンキー〉とご紹介しましたが、本作では半グレ寄りの人物造形のようです。オラつき過ぎだろ。〈さがな者〉は〈性なし〉から来ていて、「たちが悪い・悪ふざけが過ぎる」くらいの意味。「荒くれ者」と訳したりします。

 

不祥事で降板した永山絢斗の代役ですが、かえって良かったかもしれません。永山絢斗より4歳若い31歳で、お肌がきれいだから、思ったことは全部言う16歳役には向いていると思います。

 
隆家は994年(第16回時点)、数え16歳で従三位。記録にある限りでは、史上最年少(当時)の公卿だったようです。兄 伊周が数え17歳で従四位上 頭中将になったとき(990年)でさえザワついたのに、実務経験ほぼゼロで公卿とはねぇ。伊周も正三位 内大臣に上がってるし。
 
まさに中関白家は栄華を極めていますが、すでに不吉な影が差しています。関白 道隆はしきりに水を飲み、光をまぶしがっていました。糖尿病性網膜症の症状でしょうか。高血糖は毛細血管を傷め、足指の壊死や失明を招きます。
 
 
史実では、994年から995年にかけて、痘瘡(もがさ。天然痘)が大流行しました。死体は街路に打ち捨てられ、側溝が死体で詰まるほど。カラスや野犬も死体を食い飽きていたとか。『光る君へ』では、咳病(しわぶきやみ。咳が出る感染症)っぽい表現ですね。天然痘はビジュアルが美しくないからなぁ。
 
奈良時代以降は、だいたい20年おきに天然痘が大流行し、あいまに赤痘瘡(あかもがさ。はしか)や咳病の流行がはさまる感じです。平安京は5キロ四方ほどの土地に人口が密集し、公衆衛生政策なんてものもないので、体の弱い人たちが全員死ぬまで疫神は去りません。安倍晴明が言う通り、門を閉ざしているほかに打つ手がない……。
 
 
作中でサラッと説明されましたが、詮子皇太后が円融法皇の崩御(991年)によって出家し、史上初の女院(にょいん/にょういん)の呼称を得ました。上皇と同じ扱いになったということです。后は天皇の正室 or 母だからエライけど、女院は本人がエライ。詮子女院より格が高いのは、皇室の長老である花山院と冷泉院だけです。
 
今後、一条天皇はエライエライお母さまに逆らうことができるんでしょうか? 一条天皇は数え15歳ながら『貞観政要』を学んで、関白 道隆よりよほど政治的な見識があるようですけどね。