私たちは“仮想現実の世界”に生きている!

9)現代における仮想の世界⑦:コーポレートガバナンスの強化②

 

 さらに言えば、安倍政権は「TPP 交渉参加国との間で作成する文書」の「保険等の非関税措置に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の書簡」の中で、「3. 規制改革。日本国政府は2020 年までに日本国政府の成長戦略に沿って外国からの対内直接投資残高を少なくとも倍増させることを目指す」ことを米国にコミットしており(現在も有効です)、それを自らの目標として掲げています。そこでは、「外国からの直接投資を促進し、ならびに日本国の規制の枠組みの実効性および透明性を高めることを目的とし」「意見および提言は、その実現可能性に関する関係省庁からの回答とともに検討し、および可能な場合には行動をとるため」「定期的に規制改革会議に付託する。日本国政府は規制改革会議の提言に従って必要な措置を執る。」とされています。

 

 つまり、『外国からの直接投資の倍増』という政府の目標を達成するという“本当の狙い”を実現するために、国内向けには、敢えて欧米とは異なり『コーポレートガバナンス』を『成長戦略』のための『持続的成長の手段』と位置づけて、『コーポレートガバナンスの強化』が進められているというわけです。より直截に言えば、『日本の企業の成長のために必要ですよ』と言いながら、実は『外国投資家の直接投資を呼び込むため』にやっているというのが、『コーポレートガバナンスの強化』の実態だということです。

 

 しかも、『コーポレートガバナンスコード』の検討の過程にも重大な問題があります。そもそも、『コーポレートガバナンスコード』は、法律の制定というハードアプローチではなく、証券取引所の規則というソフトアプローチを採用しているため、国会での審議・議決を必要としません。つまり、主権者たる国民の代表からなる国会での審議と議決を迂回して決定がなされるのです。さらに、上に見た通り、検討のプロセスにおいては“透明性を高める”と称して、外国資本家の声を最大限聞き、それらを反映することがコミットされており、金融庁の主催する『コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議』やその後の『スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議』においても、常に外国投資家(前いちごアセットマネジメント㈱代表取締役社長/日本コーポレート・ガバナンス・ネットワーク理事スコット・キャロン氏)が参加し、意見を述べる機会が確保され、それらの意見を反映する形で“コーポレートガバナンスの改善”が進められているのです。

 

 しかしながら、需要が不足しかつ供給が過剰なデフレ不況下にある今の日本において、外国資本を導 入すること(供給力を強化すること)が本当に必要なのでしょうか?そして、外国資本は、本当にそのような『中長期に向けた経営』や『会社の持続的な成長』を望んでいるのでしょうか?

 

 外国投資家から見れば、日本の企業は、これまでメインバンク制や株式の持ち合い、さらには『物言わぬ株主』によって経営者が、手厚く守られ、好き放題にしている。例えば、会社の業績が不振でも責任を取らず、居座り続けているとか、内部留保をため込んで将来に向けた研究開発投資や設備投資をしないばかりか、利益配当や自社株買いなどの株主への還元も不十分であるなどの問題があると言います。そこで、会社の所有者である株主の権限を強化して、株主が経営者を監督し、問題ありとされた経営者を解任できるようにしようというのが、本音であろうと考えられるのです。

 

 具体的には、株主の支配権をより強力にするため、『政策保有株式の制限』『社外取締役の増加』『非財務情報の開示』『経営者の解任を容易にする』などを推進し、米国の投資家は、米国に居ながらにして、日本企業の情報を入手し、日本企業の株主総会で議決権を行使し易くすることを推進しています。

 

  『コーポレートガバナンスコード』では、企業には『中長期の経営戦略』を求め、株主には中長期の株式保有を期待して、双方において“短期志向”から脱却するために、相互の“建設的対話”を進めるという“建前”になっていますが、企業と株主は、本当にそのような方向に向かって行くでしょうか?

 

 残念ながら、これも“否”と答えざるを得ません。

 

 もし、株式市場が『中長期の株式の保有』しか認めないというならば別ですが、『短期の株式の保有』が全く自由に認められ、株主には、『株式譲渡の自由』があります。株主はどちらを選ぶでしょうか?

 

 『マシュマロはまだ食べちゃだめ』という実験を4歳児の子供たちに行ったという例があります。目の前にマシュマロを1つ置いて、『これを今食べてもいいけど、15分間食べるのを我慢したら、もう一つあげるよ。』と言い、その部屋に一人にします。すると、ほとんど全員が我慢できずにあっという間に食べてしまいました。(次のTEDのスピーチの中で紹介されています。https://www.ted.com/talks/joachim_de_posada_says_don_t_eat_the_marshmallow_yet?language=ja)これは子供に限りません。株主(大人)も人間ですから、この子供たちと変わりません。別の言い方をすれば、そのような子供たちが大人になって行くのです。

 

 コーポレートガバナンスコードは、企業と投資家双方の『短期志向』を『中長期志向』に転換させることがその“目的”だと言われています。『中長期に向けた経営』や『会社の持続的な成長』を目指す方が結果的に利益が多くなるということが前提となっています。つまり、『短期に取得できる利益』を我慢して、それより大きくなると言われる『中長期の利益』を取得すべく、企業と投資家とが“建設的対話”を進めて行こうと言うのです。

 

 しかしながら、その中長期的にその企業の戦略が成功して、“より大きな利益”を得るという保証はどこにもないのです。場合によっては、失敗して利益がゼロか、マイナスとなるリスクもあるのです。すべて経済行動の主体は、“欲望”を持つ“人間”なのです。そして、そのような人間の“欲望”を是とする、むしろそれを推進エネルギーとしている資本主義の株式市場において、そのような将来の得られるかどうかもわからないような『中長期の利益』を待つよりも、目の前の確実な短期の利益を“食べてしまう”のが人間というものでしょう。株主は、機関投資家も含めて、短期志向に走ることは必定であるというのが、私の見立てです。

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