私たちは“仮想現実の世界”に生きている!

9)現代における仮想の世界⑥:コーポレートガバナンスの強化①

 

 安倍政権の『日本再興戦略』の三本の矢の内の第三の矢『成長戦略』の一環として『コーポレートガバナンスの強化』ということが進められています。この一見もっともらしい“改革”も、これと併行して強力に推進されている『グローバル化』あるいは『自由化』『民営化』『規制緩和』と言われる一連の取り組みとの関連でより大きな視点から俯瞰して見れば、その“見え方”が全く変わってきます。

 

 この『コーポレートガバナンスの強化』の取り組みの“起点”となったいわゆる『伊藤レポート』(伊藤邦雄一橋大学大学院教授を座長とする経済産業省内のプロジェクト「持続的成長への競争力とインセンティブ―企業と投資家の望ましい関係構築」の2014年8月の報告書)は、“失われた20年”の責任が“企業の努力不足”にあると断じました。特に日本企業の収益の低さに着目し、過去20年で、上場企業1600社のうち、株式のリターンがプラスとなった、いわば失われた20年にあっても成功している企業約200社の共通項として、『他社との差別化』『事業ポートフォリオ最適化』『継続的なイノベーション』『積極的な経営革新による変化への適応』を挙げ、これを持続的成長のモデルとして提言しました。また、企業の“株式の持ち合い”などにより株主の権限が弱いことが企業の経営の“短期志向”を招いているとして、株主の権限を強化するとともに、企業と投資家双方の間の、中長期に向けた持続的な企業価値の創造に向けた“建設的対話”と“協創”を推進することを提案し、そのための具体的な数値目標としてROE(自己資本利益率)8%、次のステップとして10%を提案したのです。

 

 これを受けて、金融庁が中心となって、金融機関側の投資先企業の経営監視などあるべき姿を定めたガイダンスである『スチュワードシップ・コード』が発行され、それに対応して、企業が遵守すべき企業統治の原則を定めた『コーポレートガバナンスコード』が策定されました。『コーポレートガバナンスコード』は、法律によるハードアプローチではなく、証券取引所の規則で定められ、定められた原則を『遵守するか、さもなくばその理由を説明せよ(コンプライ、オア、エクスプレイン)』というソフトアプローチで定められたのです。具体的には、実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を取りまとめたもので、①株主の権利・平等性の確保、②株主以外のステークホルダーとの適切な協働、③適切な情報開示と透明性の確保、④取締役会等の責務、⑤株主との対話の5つの章に分けて、ベストプラクティスとして示される複数の原則によって構成されています。

 

 日本では、『コーポレートガバナンスの強化』を成長戦略の一環と捉え、“攻めのガバナンス”と称して『会社の持続的な成長の手段』であると位置づけています。すなわち、経営者の迅速・果断な意思決定を促し、我が国上場企業の「稼ぐ力」を取り戻させることで「攻めのガバナンス」を強化することを意図しているとされています。

 

 一見もっともらしく聞こえますが、客観的に見れば、かなり無理のある説明だと言わざるを得ません。江頭憲治郎東京大学名誉教授が指摘される通り、『会社の持続的な成長』の実現は、主に経営者の力量に依存するものであって、強化された『コーポレートガバナンス』がそれを“保証”してくれるわけではありません。現に『コーポレートガバナンスの手法』の中には、『会社の持続的な成長』に結びつくものは少ないのです。実際、欧米では『コーポレートガバナンス』が『会社の持続的な成長の手段』であるとは考えられていません。

 

 本来『コーポレートガバナンス』とは、株主の利益を裏切りかねない経営者に対する株主の監督の仕組みなのです。そうだとすれば、『コーポレートガバナンスの強化』とは、株主の経営者に対する監督の権限を強化すること、場合によっては株主が経営者を解任することができるようにすることに他なりません。ただ、その点が前面に出て来ると、企業は受け入れがたいであろうから、『中長期に向けた経営』や『会社の持続的な成長』のために必要だという“大義名分”を取って付けたというのが、本当のところではないでしょうか。

======================================

ホームぺージ「経営の神様松下幸之助の経営哲学-すべては心の持ち方次第-」の方もぜひご覧下さい。最新の記事は、

「6.補論①失敗しない経営:松下幸之助とリスクマネジメント⑳ 7)自然の理法に従うこと-『素直な心を持つこと』②」です。現パナソニック株式会社の創業者である松下幸之助は、自身の経験から、従業員たちを路頭に迷わせるということだけは決してしてはならないと強く決意し、その責任感から、『失敗しない経営』を常に意識してきました。そのためには『自然の理法に従うこと』、そのために『素直な心を持つこと』が大切であると言います。この考え方について、解説します。