私たちは“仮想現実の世界”に生きている!

7)人生は一つの芝居のようなもの④

 

 経営において経営者が持つべき“心の持ち方”を集大成したものが、松下幸之助の経営哲学でした。

 

 なお、松下幸之助の経営哲学上の概念について、それらが“真実”ではないと反発する向きがあります。例えば、『必ず成功すると考えること』という考え方については、『勝負は時の運』で、実際には成功することもあれば、失敗することもあるではないかという反論があります。また、『失敗の原因はわれにあり』という考え方については、実際には経営環境の変化など外部に原因がある場合もあるではないかという反論です。

 

 しかしながら、それらの反論は、全く的外れな反論です。なぜならば、ここで松下幸之助は、結果としての“科学的客観的な真実”を語っているわけではなく、上に述べたように、考え、行動を起こす前の経営者としてのあるべき“心の持ち方”、つまり事前の“心構え”を提唱しているからです。また、それらが“客観的真実”であると述べているわけでもありません。経営者たる者、事に当たる前には、そのように考えるべきである。また、そう考えなければならないという“心の持ち方”を提唱しているのです。

 

 松下幸之助は、『人生も仕事も心の持ち方次第だ』と喝破し、「自分の心を鍛えて、自在に使いこなす」ことが大切だと強調しました。そして、松下幸之助は、次の様に自分の心を使いこなしたのです。

 

 経営に失敗した多くの経営者に共通する特徴は、“私心にとらわれる”ことによって、自分の利害や感情などの“私心”を中心にして“削除”“歪曲”“一般化”のメカニズムが働くことで、物事の実相が見えなくなってしまうところにあると見切った松下幸之助は、“私心のとらわれ”から脱却し、物事の実相を正しく捉えることができるようになるためには『とらわれない素直な心を持つ』ことが大切であり、自分の盲点や歪みを矯正するために『自己観照』を行うとか、『衆知を集める』ことなどの工夫をしました。

 

 他方で、そのような人間の認知上の“削除”“歪曲”“一般化”のメカニズムを逆に活用することによって、人間の弱点を強みに変えることに気づきます。人間は、いわば作られた“仮想の世界”(“人生という芝居”)に生きているならば、それらのメカニズムを逆手に取って、自分にとって最も都合のいい“仮想の世界”を創ればよい。

 

 具体的には、“心の持ち方”“私的利益の実現”から“公的利益の実現”に転換するのです。それを繰り返し自分に言い聞かせて、自身の“強固な信念”にまで高めることによって、特に経営者にとって有害な“自分の利益や感情”などの“私心”を自分の意識の中から“削除”してしまうのです。

 

 実際の現実の世界では、『勝負(経営)は時の運』という面もあるでしょう。それが現実だとしても、経営者がそのように考えてしまうと、どこかに“諦め”や“妥協”の余地が生まれて、成功する前に諦めてしまう恐れがあります。そこでそのような“現実”を多少歪めて、経営者たる者『必ず成功すると考えること』と“一般化”し、経営者は必ず成功すると考えねばならないと強調します。そうすることによって、『成功するまで諦めない』という信念を持つことができるようになり、その結果、成功する前のプロセスで生じる様々な障害に遭遇して、“諦め”や“妥協”してしまうことなく、あらゆる可能性を見出して挑戦して行くことを可能とし、遂には“成功”に至るというわけです。松下幸之助は言います。「僕は、神経質だから悲観主義になるほうが多いのです。けれども最近はそう言うふうにならない。徹底した楽観主義になる。顔に青筋を立てて腹が立っている時でも、その奥の底には、楽観に徹するということを考えている。顔はヒステリックになっていても、その腹の底には楽観している、そういうふうにならなくてはと思っているのです。そういうことを信じてやっているのです。それで、成功を信じるということが非常に大事で、皆さんが毎日仕事をしておられると、私も仕事をしているのですが、この仕事は必ず成功すると、こう思うのです。「成功する仕事が成功しないというのはなんでや。」「成功するようなことをやらんからや。成功するようにやったら成功するんや。」ということを自分で考えています。そして私は今まで失敗したということは数少ないです。だいたい思った通りになっているのです。必ずこれは成功すると。それには成功するまでやめないと。五年かかろうが十年かかろうが、成功するまで止めない。」(1979年/昭和54年)

 

 また、『失敗の原因は他人や環境にある』という場合もあるというのが現実でしょう。しかし、経営者がそのように考えてしまうと、失敗の原因を他人や環境のせいにして、自分を反省しなくなります。実際にはほとんどの場合に、失敗の原因は経営者自身の考えや判断にあるのが事実ですが、自分の弱みである失敗の原因を見たくないため、自分を守るために他人や環境のせいにしがちなのが人間です。そこで、そのような“現実”を少し歪めて、『失敗の原因はわれにあり』と“一般化”します。それを繰り返し自分に言い聞かせて、自身の“強固な信念”にまで高めることによって、心の中に新たな回路が形成されると、失敗したときには、自分に原因があるとして、自分のどこが間違っていたのかを半ば強制的に反省することとなり、失敗に学んで、その自分自身にあった失敗の原因に手を打つことで、次に同じ状況に遭遇したときには、同じ失敗をすることなく、成功につなげることができるようになるというわけです。こうして、自分を守るために『失敗の原因を他人や環境のせいにする』という人間の心の弱さを克服することができるのです。

 

 このように、松下幸之助の経営哲学は、経営者としてあるべき“心の持ち方”を示すことによって、経営者の“物の見方”および“物の考え方”を“正しい方向”に導くものなのです。

 

松下幸之助は言います。「私は経営というものは、このような基本の考えに立って行うならば、必ず成功するものだと体験的に感じているのです。」(「実践経営哲学」まえがき)まさに『人生も仕事もすべては心の持ち方次第』なのです。

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「6.補論①失敗しない経営:松下幸之助とリスクマネジメント⑩(4)失敗の原因を無くして行く④」です。現パナソニック株式会社の創業者である松下幸之助は、自身の経験から、従業員たちを路頭に迷わせるということだけは決してしてはならないと強く決意し、その責任感から、『失敗しない経営』を常に意識してきました。経営に失敗する多くの経営者の姿を反面教師として学んだことや『成功の原因』を作るとともに他方で『失敗の原因』を無くして行くという経営の考え方について、解説します。