私たちは“仮想現実の世界”に生きている!

7)人生は一つの芝居のようなもの③

 

 前回は、松下幸之助の言う“人生という生きたドラマ”“主人公”であるという“心の持ち方”をすることで、自由自在に“演出”“演技”を変えて行くことで、困難に直面したときに、それを克服していくことができ易くなるという話をしました。

 

 実は、そのような場合だけでなく、非常に高い目標を設定し、それを実現して行くという局面においても、この自分は“人生という生きたドラマ”“主人公”であるという“心の持ち方”をすることは、大きな効果を発揮します。

 

 実際、松下幸之助は、『五か年計画』や『週休二日制』という当時としては画期的な目標を打ち出し、それらを実現して行きました。

 

 しかしながら、そのような高い目標を掲げた場合、通常人間は、『本当に実現することができるだろうか』とか、『自分たちには無理ではないか』という失敗の恐れや実現への不安という感情が出てきて、それらの感情が行動にブレーキをかけてしまい、実際に目標の達成を阻害することがあります。人間の“心の弱さ”です。

 

 松下幸之助は、経営者が「強く願う」ことが経営の“成功の秘訣”だと述べています。「誰もが同じように成功を願っているけれども、果たして本当に自分の心の底からの強い願い、「何としてもこれを成し遂げたい」という決意にまで高まっているでしょうか。(単なる一応の願いではなく)そこに結果に大きな差が生じる一つの要因があるのではないでしょうか。」「(成功・失敗)の大きな違いは、事の実現を願うという出発点の内にあるように思われます。」

 

  “その目標が実現された未来の姿”を“強く願う”。そのイメージを繰り返し自分にインプットし(“ビジュアライゼーション”)、視覚だけでなく、五感のすべてを使ってありありと“臨場感”を持って強く感じることができれば、自分の“強固な信念”のレベルにまで高めることができるのです。先に述べたように、人間にとって、本当の意味での“現実”は存在しません。とすれば、複数の“仮想の世界”の中で最も“臨場感”の感じられるものが、その人にとっての“現実”となり、また、自分らしい、居心地のいい領域である“コンフォートゾーン”となるのです。“将来の目標を実現している自分の姿”を“強固な信念”にまで高めることができれば、それがその人にとって自分の内側で認識する“現実”であり、コンフォートゾ-ンが“現状”から“将来の目標を実現している自分の姿”に移行するのです。そうすると、それと異なる“現実”を自分の外側に認識すると、違和感(認知的不協和)を覚えて、自動的にそのギャップを埋め、目標の実現に向けて矯正しつつ、考えて行動するようになります。“既に目標を実現した未来の姿”が自分のコンフォートゾーンとなっているので、目標実現に向けて活動をしていること自体が楽しくワクワクする(“プライミング効果”)のです。そうすると、脳が活性化し、ドーパミンが分泌され、創造力と潜在能力が発揮されます。こうして、因果の流れが逆転するのです。過去から現在、未来へ流れていた因果が、未来の目標を実現した姿が“強固な信念”により固定され、それが原因となって、現在の自分を変えていくというわけです。また、先に述べたように、その“強固な信念”と化した目標に意識をフォーカスすることによって、“焦点化効果”を生み、目標の達成に必要な情報が地引網のように集まってきて、目標実現の手段や方法が後から見えてくるようになります。

 

 通常私たちは、“現状”に強い臨場感を抱いているため、“未来の目標を実現した姿”にそれ以上の臨場感を持つことで、コンフォートゾーンを現状から未来へ移すことは、実は容易ではありません。移そうとしたときに、現状のコンフォートゾーンからのホメオスタシスフィードバックにより、強烈に引き戻されるからです。それは、自分を変えることへの“抵抗”として現れます。

 

 しかし、人生は“一つの生きた芝居”であり、自分はその“主人公”だと考え、あくまでこれは“芝居の上での演技”なのだと思うことで、顕在意識の上の“過去の失敗”や“現実”の重みからくる目標達成への“不安”や“疑い”を回避しつつ、また、自分を変えることへのホメオスタシスの“抵抗”をかわしつつ、自分の“心の持ち方”を比較的自由に変えてみることができます。自分の描いたシナリオに従って、自分という主人公を演じる、そして、繰り返し演じているうちに、その役に成り切っていく。つまり、繰り返し潜在意識にインプットされることにより、“その役”に慣れて行くと、潜在意識のレベルでは、その“慣れ”ということによって、それが自分の正しい“自己イメージ”だと信じ、そのような自己イメージが新たに形成されていく、こうして臨場感が“現状”から“その役”に移って行くとともに、自分自身のコンフォートゾーンも“現状”から自分の作った“シナリオの役”へと移って行くというわけです。人間の脳は、“慣れていること”を“正しいこと”と認識するようにできているからです。

 

 この松下幸之助の「人生を一つの生きた芝居」とみるという提案は、本人がそれを意図していたかどうかは、必ずしも定かではありませんが、顕在意識の“変化へ抵抗”をうまくかわしながら、潜在意識のレベルのコンフォートゾーンを“未来の成功している自分の姿”に移行させる実に巧妙な方法なのです。

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