私たちは“仮想現実の世界”に生きている!

5)人間の認知機能の歪み③ 

 

 要するに、私たち人間は、自分の見たいものを(選んで)見たいように(歪めて)見て、こうだと決めつけている、自分の考えたいことを(選んで)考えたいように(歪めて)考えて、こうだと決めつけているのです。言い換えれば、自分の独自の色と歪みのついた望遠鏡で『現実の世界』の一部だけを自分の色と歪みで見て、世界とはこういうものだと決めつけているのです。そこで、私たちが見ているものは、もはや真の“現実世界”とは似て非なる“仮想の世界”だと言わざるをえません。

 

 そのことが一番わかりやすいのは、人間関係でうまく行かない場合です。例えば、AさんとBさんとの人間関係がギクシャクし、反発し合っているという場合、お互いに相手のちょっとした行為を自分で勝手に否定的に解釈し、決めつけてしまっていることが多いのです。例えば、Aさんは、「朝自分がBさんに挨拶をしたのに無視された」と感じます。Aさんは、昨日の会議でBさんと激しく対立し、議論を戦わせたことが原因だと決めつけます。ところが、Bさんは、会議で対立したことは全く根にもっておらず、朝Aさんに挨拶を返さなかったのは、朝一番の重要案件の準備のことで頭が一杯で余裕がなく、Aさんに気がつかなかっただけでした。そのうち、BさんもAさんの態度に不信感を持つようになり、お互いの人間関係がどんどん悪化していきます。このような場合、上に述べた“削除”“歪曲”“一般化”のメカニズムが働いた結果であると言えるでしょう。

 

 また、トラウマから恐怖症になったり、うつ病になるという精神的な疾患の原因も、この“削除”“歪曲”“一般化”のメカニズムが極端にマイナス面に働いた結果であるという場合が多いのです。それらの人たちが真実だと信じていること(『自分は社会から認められていない』とか『自分は母に愛されていない』など)がその精神的疾患の原因となっているわけですが、それらは“真実”でも何でもなく、それらのメカニズムがマイナス方向にズレて機能した結果自分で勝手に作り上げてしまった、全くの“虚構の事実”に過ぎないのです。にも拘らず、それらは当該本人にとっては、“真実”と信じ込んでいますから、さらにそれらにとらわれて、意識はそこに焦点化し、その“虚構の事実”を裏付ける証拠となる事実を次々に集めてきて、『やっぱりそうだ』『やっぱりそうだ』とますますそれらの“虚構の事実”を“真実”だと強く信じ込んでしまいます。こうしてマイナスのスパイラルが働くことによって、いよいよそのとらわれから逃れられなくなってしまうのです。

 

 上に述べた例は、やや極端な例ですが、ごく普通の人々にも、多かれ少なかれこの“削除”“歪曲”“一般化”のメカニズムが、“現実の世界”を認識する段階及び“現実の世界”で起こる様々な事象を評価し、解釈する段階の双方の段階において、働いているのです。つまり、人は、その認知機能の機能的限界・性質から、“現実の世界”を客観的にありのまま認識することはできないのです。実際に認識しているのは、その人の独自の信念(自分が正しいと信じていること)や価値観(自分が重要だと信じていること)を基軸として、“削除”“歪曲”“一般化”のメカニズムが創り上げる“仮想の世界”(世界モデル)であって、“現実世界”自体とは似て非なるものなのです。

 

 要するに、私たちは、そのような“仮想の世界”を“現実世界”だと信じて、その中で生きているということです。しかも、そのようなプロセスとメカニズムは無意識のレベルで働くものであるため、本人にはその自覚はなく、それが“仮想のもの”であるとか、“一部の歪んだもの”であるなどということは、わからないのが通常です。

 

 このように私たちの“価値観”や“信念”、松下幸之助の言葉で言えば、“心の持ち方”が、目の前の現実世界のどこに“望遠鏡”の“焦点”を当てるか、即ち、自分の意識を何にフォーカスするかという“物の見方”だけでなく、何をどのように考えるのかという“物の考え方”をも決めており、その反面、それらの価値観や信念を軸として、それ以外の情報を“削除”し、また、それらの価値観や信念に都合のいいように歪めて見て(解釈して)、決めつけているのです。つまり、“心の持ち方”とは、心の作用の重点と方向性を設定をする“心のソフトウエア”であると言えましょう。

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