私たちは“仮想現実の世界”に生きている!

5)人間の認知機能の歪み①

 

 これまで過去の歴史について、戦争プロパガンダや勝者によってつくられた仮想の歴史を真の歴史と信じ込まされているという話をしてきました。それでは、現在の現実世界については、わたしたちは正しく認識できているのでしょうか?

 

 答えは、否です。私たち人間は、“現実”という“客観的な世界”に生きているわけではないのです。

 

 ただ、ここで、読者の皆さんは、いつも目の前に“現実” という“客観的な世界”があって、それを自分の目で見ているではないかと反論されるかもしれません。しかし、誤解を恐れずに言えば、それは“錯覚”に過ぎないということです。

 

 私たち人間による現実世界の把握ということについては、先に述べた五感の知覚機能の物理的限界に加えて、いわば機能的限界があります。私たちは、現実世界を直接把握しているわけではありませんし、また、それを直接認識する方法も持っていないのです。つまり、私たちが現実の世界を認識する方法は、あくまで間接的なものです。すなわち、自分の視覚(目)や聴覚(耳)、触覚(手など)、嗅覚(鼻)、そして味覚(舌)という五感の知覚機能により、そこから入ってくる情報を電気信号に変えて、脳に伝え、脳の中でそれらを再現することによって、あくまで“間接的に”認識しているに過ぎないのです。

 

 神経科学によれば、人間は、環境や技術、社会組織など世界のあらゆるものについて、一人ひとりが、その五感を通じた知覚に基づき、その心の内面に独自の“世界モデル”(Mental Model)を構築し、また、その世界モデルを利用して、現実の世界の情報を評価し、解釈し、判断しています。即ち、私たちが知覚するのは、“現実”そのものではなく、むしろ、心の内面に自ら創り上げた“世界モデル”という“現実”の神経学的なモデルで、また、それを当てはめたものなのです。つまり、私たちは、この自分の内面に構築した“世界モデル”を利用し、それらに基づいて、それらを当てはめて、物を見て、物を考え、感情を持ち、行動しているというわけです。

 

 そして、そのような世界モデルを構築する段階(知覚の仕方)とその世界モデルを使用する段階(知覚したものの解釈・判断や行動の決定)の二つの段階において“削除”、“歪曲”と“一般化”という3つの共通のメカニズム(“人間の普遍的モデリング過程”と呼ばれています)が無意識のレベルで働いているとされています。

 

 実は、松下幸之助は、その卓越した人間観察から、独自にこれらの人間の物の見方と考え方についての3つの重要な特徴を極めて的確に指摘しており、それらは、克服すべき“人間の弱さ”の一部として松下幸之助の経営哲学において、基本的な前提となっています。

 

 では、“削除”、“歪曲”と“一般化”とはどういうことでしょうか、以下でもう少し詳しく述べます。

 

 第一に、“削除”のメカニズムです。

 

 私たちには、目が見えるが故に「自分には世界がすべて見えている」という、大きな誤解あるいは錯覚があります。しかし、実際には、その時の自分が『正しい』とか『重要だ』と考えている事項に焦点を当てて認識しており、その反面、それ以外の情報は、認識から“削除”されて、視界に入っていても“心理的盲点”となって認識されなくなるのです。それは、いわば“望遠鏡”を通して現実世界を見ているようなものなのです。

 

 それでは、一体なぜそのようなことになっているのでしょうか?

 

 私たち人間の五感を通して毎秒200万個以上入力されると言われる膨大な情報をすべて処理することは不可能です。そこで、人間の神経系は、これらの膨大な情報を効率的に処理するため、「振るい分けメカニズム」として機能するようになります。その選択を行うのは、脳のフィルター機能である賦活網様体(RAS:Reticular Activating System)と呼ばれる神経系です。このRASの振るい分けの機能により、意識が重要な情報にフォーカスされる(“焦点化”と言われる)結果として、それらの重要な情報をあたかも地引網を引き揚げるように集約された形で“選択”し認識する一方で、それら以外の情報が認識から“削除”されてしまうのです。(“心理的盲点”)

 

 これは、かつて自然界において他の動物から襲われた場合など生命の危険が切迫した緊急事態が発生した場合に、自身の生存に必要な情報を瞬時に把握する必要から生まれたものでした。現代社会においては、“生存に必要な情報”に代わり、“その時の自分にとって重要な情報”が選択されるようになってきました。そして、“何が自分にとって重要か”ということを決めるのは、自分自身の“価値観”(自分が重要だと考えていること)や“信念”(自分が真実だと考えていること)、松下幸之助の言葉で言えば、“心の持ち方”です。

 

 つまり、自分の“心の持ち方”によって、現実世界を覗く“望遠鏡”の“焦点”が決まり、自分に何が認識できるか、また、その反面として何が認識できなくなるのかということが決まってくるということになります。

 

 しかも、そのような“焦点化”と“削除”のメカニズムは、視覚以外の聴覚や嗅覚、味覚、触覚の五感すべてに及び、さらには、知覚したものの解釈・判断や行動の決定の段階においても、作用しているのです。言い換えれば、人間の『物の見方』と『物の考え方』に及んでいるのです。

======================================

ホームぺージ「経営の神様松下幸之助の経営哲学-すべては心の持ち方次第-」の方もぜひご覧下さい。最新の記事は、

「6.補論①失敗しない経営:松下幸之助とリスクマネジメント①」です。現パナソニック株式会社の創業者である松下幸之助は、自身の経験から、従業員たちを路頭に迷わせるということだけは決してしてはならないと強く決意し、その責任感から、『失敗しない経営』を常に意識してきました。経営に失敗する多くの経営者の姿を反面教師として、そこから学んだことや『成功の原因』を作るとともに他方で『失敗の原因』を無くして行くという経営の考え方について、解説します。