弁護士の武井です。

2020年11月5日、公正取引委員会は、日本プロフェッショナル野球組織(以下「NPB」といいます。)に対する独占禁止法違反被疑事件の処理について、審査を終了した旨を明らかにしました。当該被疑事件(以下「本件事件」といいます。)は大きく報道されており、ご存知の方も多いのではないでしょうか。興味のある方は下記URLのウェブニュース等をご覧ください。https://www.sankei.com/life/news/201105/lif2011050020-n1.html

 

当事務所はスポーツ法務にも注力しており、代表弁護士の皆川は、日本サッカー協会登録仲介人及び日本プロ野球選手会公認選手代理人の登録をしています。今回はスポーツ法務と独占禁止法(以下「独禁法」といいます。)の双方が関係する本件事件について解説をしていきます。

 

1.本件事件の概要

 2008年9月、当時有力な新人選手であったA選手は、12球団に対し、12球団でなく米国球団と直接選手契約したいので同年のドラフト会議で指名しないよう要請をしました。

 NPBは、A選手のような有力な新人選手が12球団を経ずに外国の球団と選手契約することが続いた場合、日本プロ野球の魅力が低下するおそれがあるとの認識の下、2008年10月、NPBの議決機関である実行委員会において、以下の申し合わせ(以下「本件申し合わせ」といいます。)を行いました。

 新人選手が、新人選手選択会議(以下「ドラフト会議」といいます。)前に12球団による指名を拒否し、又は、ドラフト会議での交渉権を得た球団への入団を拒否し、外国球団と契約した場合、外国球団との契約が終了してから高卒選手は3年間、大卒・社会人選手は2年間、12球団は当該選手をドラフト会議で指名しない。

 

2.本件ルールの問題点等

 NPBは、セントラル野球連盟、パシフィック野球連盟及び各連盟を構成する12球団で構成される任意団体であり、独禁法第2条第2項の「事業者団体」に該当します。

 一般に、事業者団体が、構成事業者に対し、他の事業者から役務を受けることを共同で拒絶するようにさせる場合であって、他の事業者が当該構成事業者と同等の役務提供先を見いだすことが困難なときは、当該他の事業者を当該役務の提供市場から排除する効果を生じさせ、当該役務提供市場における公正な競争を阻害するおそれがあるものと解されます(独禁法第8条第5号〔一般指定第1項第1号(共同の取引拒絶)〕)。

 新人選手選択会議規約第2条(新人選手との契約)において、「球団が新人選手と選手契約を締結するためには、ドラフト会議で選手契約締結の交渉権を獲得しなければならない。」と定められています。新人選手の定義は同規約第1条において定められており、いまだいずれの日本の球団とも選手契約を締結したことがない等の要件が定められています。新人選手としては、ドラフト会議で指名をしてもらわないことには、12球団と選手契約を締結することはできない仕組みになっているわけです。

 本件事件では、「事業者団体」であるNPBが、「構成事業者」である12球団に対し、「他の事業者」である選手から、「役務」(球団所属選手としてプレーを行う等)を受けること(=選手契約の締結)を、共同で拒絶させている疑いがあるとして、公正取引委員会が審査を実施してきました。当該審査の過程において、NPBから公正取引委員会に対し、下記①及び②の改善措置(以下「本件措置」といいます。)を自発的に講じた旨の報告がなされました。

①本件申し合わせを廃止したこと

②本件申し合わせを廃止したことを公表するとともに、関係団体等に周知したこと

 公正取引委員会は本件措置が独禁法違反の疑いを解消するものと判断し、本件事件に関する審査を終了しました。

 

3.スポーツ法務の特殊性

 スポーツ法務は業界特有の慣行等が色濃く存在しており、特殊なノウハウが必要となる分野です。ドラフト会議という制度は、業界特有の慣行の典型例だといえます。

 公正取引委員会は、本件申し合わせが独禁法に違反する疑いがあるとして審査を行ってきたわけですが、本件措置を受けて審査が終了となり、本件申し合わせが独禁法に違反するかについての最終的な判断は示されませんでした

 スポーツ業界に身を置く以上は業界特有の慣行等を無視することはできません。しかし、業界特有の慣行等も独禁法等の法律に違反することは認められません(当然ですね)。

 当事務所では業界特有の慣行等を理解しつつ、法的な観点も踏まえ選手側、団体側(クラブチーム、競技団体等)双方のサポートを行っています。団体側に関しては、団体のガバナンス等のサポートも行っています。お困りの方は是非ご相談ください。

 

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