弁護士の武井です。

今回は改正独占禁止法(以下「改正独禁法」といいます。)について解説を行います。

改正自体は既に2019年6月19日に行われていたのですが(以下「本件改正」といいます。)、実際に施行されるのは2020年12月25日となっています。施行直前ですので、重要な改正点に絞って解説したいと思います。

 

1.本件改正の概要

 本件改正は独禁法上禁止される行為の範囲を変更するものではありません。独禁法違反の効果である課徴金制度等に変更を加えるものです。その意味で、違反しなければ関係のない話ではあるのですが、独禁法に違反するか否かの線引きは必ずしも容易ではありません。「当社に限って違反などありえない」という姿勢は危険です。改正独禁法において、独禁法違反の効果がどのように変更されるのか確認しておく必要があります。

 

2.課徴金関係の改正点

 従前は、課徴金の額は以下の算式によって定められていました。

Ⓐ「対象商品・役務の売上額(最長3年間分)」×Ⓑ「算定率(原則10%)」-Ⓒ「減免額」

本件改正は、課徴金を増額する方向での改正(1)、及び、減額する方向での改正(2)の双方を含んでいます。

 

(1)増額方向の改正

 改正独禁法では、上記Ⓐに関し、対象商品等の売上額の他に密接関連業務の対価も算定の基礎となります。また、従前は実行としての事業活動の終了日から最長3年間分とされていた算定期間についても、調査開始日から10年間遡って計算することが可能となりました。更に、談合金等の財産上の利益(下記Ⓓ)も算定の基礎に置かれることとなります。改正独禁法における課徴金の額を算定する算式は以下のとおりです。

Ⓐ「対象商品・役務の売上額+密接関連業務の対価(始期を調査開始日から最長10年前まで遡及し計算)」×Ⓑ「算定率(原則10%)」-Ⓒ「減免額」+Ⓓ「財産上の利益(談合金等)

 また、上記Ⓐにいう売上額に違反事業者から指示等を受けた一定のグループ企業の売上額も含まれることを明記する、課徴金納付義務の存続期間(除斥期間)を5年から7年に延長する等の改正も行われています。

 

(2)減額方向の改正

 独禁法に違反した事業者であっても、公正取引委員会が当該違反に関し行う調査に協力する等の要件を満たした場合には、課徴金につき一定の減免が受けられる制度が従前から設けられていました。事件の真相の解明のために、違反事業者に対し調査に協力するインセンティブを与えるための制度です。

 従前は、①「申請順位に応じた減免率」だけが適用される早い者勝ちの制度になっていました。しかし、改正独禁法は、②「事件の真相の解明に資する程度に応じた減算率」を新設し、両者を合計して最終的な減免率が定まる制度になりました。②が追加されている分だけ最終的な減免率は引き上げられています。

 事業者としては、より大きな減免率を獲得するために公正取引委員会に対して積極的に事実を報告することと、独禁法違反に該当するか否か微妙な行為を報告することのリスクとを慎重に検討し戦略的な対応をとる必要があります。

 リスクの検討及び戦略の立案等においては弁護士との密接な協議が不可欠となるでしょう。そこで、3.で説明する判別手続が新たに導入されました。

 

3.判別手続の導入

 当該手続によって、カルテル・談合等の疑いのある行為(課徴金減免対象被疑事件)に関する法的意見について、事業者と弁護士との間で秘密に行われた通信(面談、電話、メール等)の内容を記録した物件(書類等)については、独禁法違反被疑事件の調査官(審査官)がその内容にアクセスする(見る)ことなく事業者に返却するよう求めることが可能となります。

 しかし、調査官が内容を見ることなく判別手続の対象になる物件かどうかを判断するには適切な保管等の要件が必要となります。有事の際に判別手続を利用するには、平時から書類及びメールの管理、その他社内管理体制の整備をきちんと行っておく必要があります。

また、判別手続の利用を求める旨の申し出は、立入検査の際に口頭で行う必要があります(後に書面も提出する必要があります)。立入検査という異常事態の中で適切に申し出等の対応を行うには、あらかじめ判別手続について十分に理解しておくことが必要でしょう。

 当事務所では、判別手続に対応するための社内管理体制の整備を含む改正独禁法への対応についてアドバイスを行っております。ご相談をお待ちしております。

 

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