弁護士の武井です。

 コロナ解雇の記事を書こうと思っていたのですが、重要な最高裁判決が出ましたので、予定を変更して今回は当該判決の解説をしたいと思います。既に報道でご存知の方も多いでしょうが、最高裁は、アルバイトの従業員に対して賞与を支給しないこと等が、当該事案において、正社員と比べて不合理な労働条件の相違であるとは認められないとの判決をしました(令和元年(受)第1055号、第1066号 地位確認等請求事件 令和2年10月13日 第三小法廷判決。以下「本件判決」といいます。裁判所のウェブサイトで本件判決の判決文が公表されています。https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/767/089767_hanrei.pdf)。

 社会的インパクトが極めて大きい判決だと思いますが、報道等を見る限り、本件判決が当該事案(以下「本件事案」といいます。)における判断を示したものであることには必ずしも着目されていないように思います。本件判決は、アルバイトの従業員に対して賞与を不支給とする等の取扱いが一律に適法であるとしたものではありません。本件判決から「読み取れること」と「読み取れないこと」を明確に区別して、非正規労働者に対する今後の処遇を冷静に検討する必要があります。

 

1.本件判決が示した主要な判断の内容

 本件判決自身が「本件大学の……第1審原告に対してこれを支給しないという労働条件の相違は……不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当」と述べているとおり、本件判決は本件大学における正社員とアルバイト職員(第1審原告)との労働条件の相違について不合理か否か(平成30年改正前の労働契約法20条)を判断したものです。

 最高裁が特に問題としたのは、第1審原告(以下「原告」といいます。)に対し、(1)賞与(ボーナス)を支給しなかったこと、及び、(2)私傷病による欠勤中の給与を一定限度で補填する措置が取られなかったことです。いずれも正社員に対しては支給及び補填の措置が行われていました。正社員とアルバイトの上記取扱いの違いが、アルバイトに対する不合理な差別かどうかを問題としたのです。

 本件判決は結論的には上記取扱いの違いはいずれも不合理とまでは言えないと判断しましたが、判決理由中で、本件事案におけるⒶ正社員とアルバイトの業務内容の違いや、Ⓑ原告の勤務状況等についても以下のように目配りをしています。

 

Ⓐ:正社員は学内の英文学術誌の編集事務等、病理解剖に関する遺族等への対応等にも従事する必要があったのに対し、原告の業務は教授等のスケジュール管理、電話対応等の単純な作業にとどまっていた。

Ⓑ:原告は勤務開始後2年余りで欠勤扱いとなり、欠勤期間を含む在籍期間も3年余りにとどまり、……原告の有期労働契約が当然に更新され契約期間が継続する状況にあったことをうかがわせる事情も見当たらない。

 

2.本件判決の事案の特殊性等

 本件事案と同様の事案であれば本件判決と同様の結論に至る可能性が高いと考えられますが、「本件事案と同様の事案」が実際にどの程度あるかどうかは慎重な検討が必要です。

 上記Ⓐについて、正社員が学内の英文学術誌の編集事務等、病理解剖に関する遺族等への対応等に従事する必要がある職場は多くないでしょう。これに対し、アルバイト(秘書業務)の内容は一般的だと思われます。本件事案は正社員とアルバイトの業務内容に大きな差があった事案なのではないかという見方もありうるところだと思われます。

 上記Ⓑについて、原告は適応障害を発症し、勤務開始後2年余りで欠勤扱いとなっています。欠勤扱いとなっている期間は約1年間です。原告の有期労働契約の契約期間が1年間だったことに照らすと、原告の勤務状況等も通常とは異なり極めて異例な状況であったことがわかると思います。

 最高裁はこのような事案(本件事案の特徴は上記Ⓐ及びⒷ以外にも本件判決が指摘しているところですが、ここでは割愛します)を前提に、当該事案限りの判断として本件判決をしたとも考えられます。「アルバイトには賞与を一切支払わなくても良い」と本件判決を短絡的に一般化するのはリスクが高いと言わざるを得ません。

 

3.本件判決を踏まえた非正規労働者の処遇

 本件判決において問題となった「平成30年改正前の労働契約法20条」は平成30年の法改正により削除されましたが、同旨の定めがパートタイム・有期雇用労働法(正式名称は「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)第8条に設けられています。したがって、上記法改正後も非正規労働者に対し、正社員(正確には「通常の労働者」)との比較において、不合理な待遇差を設けることは違法です。

 本件判決の結論部分は本件事案の特殊性に依る部分が大きいとも考えられますが、本件判決が理由中で示した検討及び判断の手法は、今後、非正規労働者の処遇を考えるにあたって極めて有益な材料だと考えられます(判決文を詳細に検討し、内容を正確に理解することが前提となりますが)。

 当事務所では、最高裁判例等の最新情報を収集、分析しており、それによって得られた知見を活かして、非正規労働者の処遇等に関するコンサルティングを行っています。最終的な判断は、(本件判決がそうであったように)それぞれの会社の具体的状況を前提に判断するほかありません。是非1度ご相談ください。

 

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