読者の方からご質問をいただきました。

 

自宅開業していない、お勤めでピアノ講師をしてきたが、離婚することになりそうで、自分で家賃と生活費を稼がなければならない。引っ越して自宅開業できるような賃貸物件を借りたいが、ピアノを置ける物件は家賃が高く、比較的安いのは音大生マンションなどぐらいしかない。

 

音楽教室でピアノを教えるのだと収入が安すぎて家賃や生活費が賄えない。どうしたらいいのか。

 

多くの人にこの問題を考えて欲しいと思います。そしてすべての音大生、音大受験をさせようとしている保護者や先生も、この現実をしっかりと見据えたうえで音楽の道に進むべきです。


多くのピアノ講師は、一定以上の収入の配偶者を見つけ、その配偶者に扶養されたうえでピアノ講師をしています。そのような人材がたくさんいるので、月謝は経済的自立できるような金額の相場になっていません。しかも少子化で、生徒がたくさん集まらず、たくさん働きたいと思っても簡単には仕事が増やせません。子どもが学校から帰ってくる夕方から夜にしか仕事できない。

もちろんワンレッスン1時間1万円でレッスンしているような一部のハイレベルな指導者は別です。

 

自宅開業している人の大半は、サラリーマンの夫の名義で夫の収入で家を建てる、または実家が持ち家でそこを教室にしています。自分の教室で得た月謝をもとに開業できるレッスン室のある家を建てた人の話は、大変珍しく、あまり聞いたことがありません。

 



ピアノ教室というのは、雇われの場合、社員になる制度はあまりなく、通常は業務委託で、レッスンしたお月謝の半分程度をもらう仕組みになっています。場所代や教室運営にもお金がかかるので、全額もらえないのは当然です。


自宅開業の場合は、土地建物を購入して固定資産税や光熱費も払ってピアノを用意して、生徒集めをして保護者対応もイベント運営もすべて自分でやるのが普通で、そのかわりお月謝はすべて教室の売り上げとなります。

 

自宅開業は経費がかかりますが、雇われだと月謝の半分を差しひかれることを考えると、それよりは手元に残る金額は多くなります。

 

ですので、ピアノを教えて自活している方は、たいてい自宅で開業している場合が多いです。

 

でも実家にも頼れない、持ち家もないとなったら、開業は難しいですよね。


持ち家なし、配偶者や実家の援助なしで、

ピアノを教える仕事のみで、いきなり自立は

かなりの実力がないと、難しいと思います。

 

ピアノを教えるだけで生活したいのであれば、楽器店などあちこちのお教室を毎日渡り歩いて土日も含めて週に5日か6日レッスンをする方法もありますが、これだと1日1万円の売り上げを作るには、2万円分レッスンをしなければならない。10人以上教えなければならないですが、平日に10人生徒がいる教室が、いまどれぐらいあるのか?


その状態で家賃と国民年金と健康保険を毎月払えるのでしょうか?

 

可能ならば、正社員としてどこかの職場に就職すれば、年金も健康保険料も払えますので、それが一番いいと思います。私ならハローワークに行き、仕事を探して面接を100社ぐらいは受けるでしょうか。新卒でも100ぐらいは普通ですから。

そして休みの日にピアノを少し教えるぐらいでしょうか。

 



正社員として働きたくないのなら、午前中にパートの仕事をしながら、午後から夕方にかけてピアノの先生をするのが現実的かと思います。でも体力的に凄くハードです。そしてパートとピアノの先生だと、正社員ではないので、年金と保険は自分ですべて払わなければなりません。


 

読んでいて楽しくない現実ですが、音楽は「もうかる」ものではないんです。さまざまな積み重ねを必死に続けて、運が良ければなんとか続けられるけれど、実力も運もなければ、退場せざるをえない。それが音楽の仕事です。

 

ピアノを置いて開業できる自宅を用意できたピアノの先生方と話すと、夫の転勤で全国あちこちまわったという話もよく聞きます。自分のやりたいことは犠牲にして我慢して家族に尽くしてそれでやっと40代、50代で家を建てている人もいます。あるいは実家にピアノが置けるので、実家にずっと通っている人もいます。ピアノが続けられるようにとお見合い結婚をした先生も珍しくありません。ピアノに理解のない配偶者と結婚したらピアノは続けられない現実がわかっているから。


ピアノの先生には料理がものすごく上手で気がきいて明るくてセンスがよく魅力的な人がたくさんいます。これも配偶者の支援なしには成立しづらい業界の構造と無関係ではないのかもしれません。



これが私の現在の認識ですが、正社員として会社に勤める以外に、パートや教室勤務の教師で、ほんとうに自活できないのか?音大生用マンションで開業はできないのか? それはやってみないとわからないことです。さまざまな先生方の事例を集めて、可能性をこれから探ってみたいと思います。そして、ピアノの先生から正社員やパートに転ずる場合はどのような職種が良いのかも調べてみたいところです。


これほど厳しい現状があるから、私の読者のピアノの先生方は必死に勉強しているわけです。


セミナーやレッスンのひとつひとつは、

学ぶ側も教える側も、音楽人生の今後を賭けた真剣勝負なのです。