それゆえ、知れ。悟れ。引き揚げてエルサレムを再建せよ、との命令が出てから、油そそがれた者、君主の来るまでが七週。また六十二週の間、その苦しみの時代に再び広場とほりが建て直される。
その六十二週の後、油そそがれた者は断たれ、彼には何も残らない。やがて来たるべき君主の民が町と聖所を破壊する。その終わりには洪水が起こり、その終わりまで戦いが続いて、荒廃が定められている。
彼は一週の間、多くの者と堅い契約を結び、半週の間、いけにえとささげ物とをやめさせる。荒らす忌むべき者が翼に現われる。ついに、定められた絶滅が、荒らす者の上にふりかかる。」(ダニエル9・25-27)

また私は見た。海から一匹の獣が上って来た。これには十本の角と七つの頭とがあった。その角には十の冠があり、その頭には神をけがす名があった。
私の見たその獣は、ひょうに似ており、足は熊の足のようで、口は獅子の口のようであった。竜はこの獣に、自分の力と位と大きな権威とを与えた。
その頭のうちの一つは打ち殺されたかと思われたが、その致命的な傷も直ってしまった。そこで、全地は驚いて、その獣に従い、
そして、竜を拝んだ。獣に権威を与えたのが竜だからである。また彼らは獣をも拝んで、「だれがこの獣に比べられよう。だれがこれと戦うことができよう」と言った。
この獣は、傲慢なことを言い、けがしごとを言う口を与えられ、四十二か月間活動する権威を与えられた。
そこで、彼はその口を開いて、神に対するけがしごとを言い始めた。すなわち、神の御名と、その幕屋、すなわち、天に住む者たちをののしった。
彼はまた聖徒たちに戦いをいどんで打ち勝つことが許され、また、あらゆる部族、民族、国語、国民を支配する権威を与えられた。
地に住む者で、ほふられた小羊のいのちの書に、世の初めからその名の書きしるされていない者はみな、彼を拝むようになる。(黙示録13・1-8)


1.

神殿破壊を実行した皇帝はヴェスパシアヌスであるが、なぜか聖書は実行隊長の将軍ティトゥスにスポットライトを当てている。


十本の角は、この国から立つ十人の王。彼らのあとに、もうひとりの王が立つ。彼は先の者たちと異なり、三人の王を打ち倒す。(ダニエル7・24)


ここで、ダニエル書は、11番目の王ティトゥスに焦点を当て、本来なら「三人の王を打ち倒」したのはヴェスパシアヌスのはずなのだが、ティトゥスが倒したことになっている。

ヴェスパシアヌスが存命中は、将軍ティトゥスは彼の命令のもとで活動したはずだから、ガルバ、オト、ウィッテリウスの暗殺の最終責任はヴェスパシアヌスが負うべきである。


その頭には十本の角があり、もう一本の角が出て来て、そのために三本の角が倒れた。その角には目があり、大きなことを語る口があった。その角はほかの角よりも大きく見えた。(ダニエル7・20)


ここでも「三本の角を倒」したのは11番目の角(つまり王)であるティトゥスということになっている。

私は、その理由は「彼が偽メシアだからだ」と思う。

つまり、ヴェスパシアヌスは、悪魔側の「御父」であり、ティトゥスは、悪魔側の「御子」という構図なのである。

神の御子は御父に使わされて受肉され、神の契約をすべて守り通すことによって、世界の相続者となられた。

それに対して、悪魔の「御子」ティトゥスは、悪魔の「御父」ヴェスパシアヌスに使わされて、神の宮を破壊し、世界の乗っ取りを企んだ。

「その角には目があり、大きなことを語る口があった。その角はほかの角よりも大きく見えた」という記述及び「彼は、いと高き方に逆らうことばを吐き」(ダニエル7・25)は、ティトゥスの「悪魔的メシア性」を表現しているのではないだろうか。

他のローマ皇帝とは違って、メシア性を持っていたので、(1)「目」と(2)「大言壮語する口」を持ち、(3)「大きい」者として描かれているのだろう。

(2)について、平行する黙示録において、ティトゥスは「傲慢なことを言い、けがしごとを言う口を与えられ」「その口を開いて、神に対するけがしごとを言い始め」「神の御名と、その幕屋、すなわち、天に住む者たちをののしった」と描写されている。

(3)について、彼は「ひょうに似ており、足は熊の足のようで、口は獅子の口のようであ」り、竜によって「自分の力と位と大きな権威とを与え」られた。

(1)についてはどうだろうか。

黙示録において「目」は霊を意味する。


さらに私は、御座――そこには、四つの生き物がいる――と、長老たちとの間に、ほふられたと見える小羊が立っているのを見た。これに七つの角と七つの目があった。その目は、全世界に遣わされた神の七つの御霊である。(黙示録5・6)


キリストは、「七つの角と七つの目」を持つ者と描写されている。

そしてその「七つの目」は、「全世界に遣わされた神の七つの御霊」である。

7という数字は完全数であるから、「全世界に遣わされた神の七つの御霊」は、「全世界に御霊が派遣され、それを完全に満たされる」と解釈できる。

「角」は動物によって武器であり、人間にとっては剣を意味する。

聖書において「剣」は支配者の象徴である(ローマ13・4)。

王や権威を象徴するから、「七つの角」は「完全な支配」を意味する。

ここから判断すると、「その角には目があり」は、ティトゥスは権威者であり、他の権威者とは異なり「霊」を持つと解釈できる。

もちろんそれは「邪悪な霊」であり、他の権威者とは異なる「特別な霊」である。

以上(1)~(3)を考慮すると、ダニエル7・20において、ティトゥスは、


神に敵対し、そのライバルになろうとする悪魔から使わされ、邪悪な霊に満ちた、傲慢かつ力ある偽メシア


として描かれているということが分かる。