『サムシング・ロッテン!』感想 | 大海の一滴、ミルキーのささやき

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舞台・映画・小説の感想を自分勝手に書き綴る、きまぐれブログ。

スタッフ

作詞・作曲:ウェイン・カークパトリック
ケイリー・カークパトリック
脚本:ケイリー・カークパトリック
ジョン・オファレル
演出:福田雄一

キャスト

ニック:中川晃教
シェイクスピア:西川貴教
ビー:瀬奈じゅん
ナイジェル:平方元基 
ポーシャ:清水くるみ 
ノストラダムス:橋本さとし

 

※公演中なので、観ていない人は読まないで下さい。

あらすじ

時代は16世紀後半、エリザベス1世が統治していたイングランド王国が舞台です。
主人公のニック(中川晃教)は劇作家。弟のナイジェル(平方元基)とW脚本家として劇団を運営していますが、お財布さんであるパトロンに逃げられる寸前で、大ピンチを迎えていました。
それというのも、後の劇作家界スーパースター・シェイクスピア(西川貴教)が、頭角を現し、パトロンたちの気持ちを掴み始めていたからなのです。
何のことはない、元を辿ればシェイクスピアは、ニック劇団の劇団員。
あまりに大根役者のため、ニックはシェイクスピアをクビにして、劇作家に転身することを勧めたのです。
いつの世も、後輩、弟、年下らに抜かれることが辛いことには変わりません。
思い悩んだニックは、とんだ奇策に打って出ます。
妻であるビー(瀬奈じゅん)のヘソクリを使って、占い師・ノストラダムス(橋本さとし)に投資し、台本内容を託すという奇行に躍り出たのです。
一方、弟のナイジェルは、聖職者の娘ポーシャ(清水くるみ)と恋に落ちることで、心と言葉が豊かになり、台本に磨きがかかります。
占い師原案台本の兄VS恋するポエマー台本の弟。
さあ、どうなることやら・・・

感想

私が福田雄一氏演出の舞台を観るのは3本目です。
その浅い知識の中で言わせてもらえば「らしくない」舞台でした。
これといった決め手がなく、ストーリーにメリハリがありません。
「これからどうなる?」という先への期待ができそうなのに、できなくて歯痒いのです。
場面場面で笑えればいいのですが、クスッとくることがたまにある程度でしょうか。
個人的に場外乱闘の笑いは好きではありませんが、福田さん演出には、佐藤二朗さんやムロツヨシさんが欠かせないワケがわかったような気がします。
ラストを感動的にしようとしたのに、感動はなく、かといって笑いもなく、キャスト全員でぼんやりスベったような空気に包まれていました。

ミュージカル作品やシェイクスピア作品のオマージュが多々ありますが、名前が出てくるだけで引用の仕方に工夫ありません。
アメリカではさぞホットになるんだろうということが朧げながらわかるのですが、日本の土壌には合っていないようです。
“ハムレット、オムレット”!?
ダジャレ、ですか。
“ダハハハハ”となる人は、かなり個性的でしょう。

それどころか捻くれ者の私は、「ここで笑わないのはモグリ」といわんばかりの展開に嫌味を感じました。
他の作品を知っていることありきの脚本なんてロクなもんじゃありません。
ミュージカルやシェイクスピアを観たことがない人も楽しめてこそ、上質のコメディだと思います。
「ミュージカルってなんだかお高そう」という、この業界に蔓延るイメージを打開し、一般人に門戸を開くのが福田さんの役目だろうと思っています。勝手に。
「サムシング・ロッテン」は、一般人が受け入れやすい作品ではありませんでした。

キャスト感想

劇作家ニックを演じたのは中川晃教さん。
突き抜けるような高音が印象的な、弾丸ボーイです。
ニックは、ライバルを僻み、妻に心労をかけ、弟の恋路を阻む、なかなかのダメ人間なのですが、中川さん本人の人柄なのでしょうか、とてもいい人にみえます。
演出の狙いだとしたら効果的でしたね。
ハイトーンが生かされるナンバーがもう少し多いとよかったのですが、十分歌声を堪能できましたよ。
気になったのは、たまにみせる呼応できない演技。
セリフに縛られているとでもいいましょうか。
“我が道を行く”といわんばかりの突き進み方は、シリアスシーンでは輝くことがありますが、笑いには繋がりにくです。
ニックという役柄上、分類すると牽引系ツッコミ側になってしまうのですが、ボケ側に回ると中川さんはいい味が出そうなのになあ、と思いながら観ていました。
どこか臆した雰囲気が魅力といえば魅力ですが、はっちゃけた卑屈ニックでいくと、より光を増すのではないでしょうか、と、どこか上沼審査員的な感想で〆てみました。

シェイクスピアを演じたのは西川貴教さんです。
西川さんは、シェイクスピア役にあってシェイクスピアにあらず。
いうなれば、TMさん役です。
いや、TMさんで全く問題ないと思います。
シェイクスピアって、そんな役ですから。
これぞ!という華やかさとパワーに加え、舞台における器用な立ち回りは、長期に渡り第一線で活躍しているのも納得の実力です。
「電飾が付いている?」と思ってしまったのは、決して衣装や照明効果のせいばかりではないでしょう。
確かシェイクスピアは、大根でクビになったはずですが、クロちゃんもどき変装の演技、かなり達者でしたよ。
やだなあ、ニックったら見る目がないんだから。

ニックの妻、ビーを演じたのは瀬奈じゅんさんです。
瀬奈さんが登場すると、舞台の空気が明るく動きます。
瀬奈さんはいつからこんなにパッと輝くようになったんでしょう。
もう特技は“パッとすること”といっていいと思いますね。
登場人物の中では腐っていない方のキャラクターです。
(サムシング・ロッテンとは、“何かが腐っている”という意味)
今回の台本におけるビーの役割はムロツヨシポジションなので、バンバンアドリブを入れてムロツヨシ化するとよかったのですが、まだムロツヨシ的通りすがり芸の域までには達していませんでした。
もっとかましていくと、更なる新境地開拓に繋がるはずです。
出演者ではないムロツヨシさんの名前を連呼したこと、失礼しました。
関係ないついでに、せつこさんの“二の腕パンパンおじさん”の衣装を採用して欲しかったなあ。

ニックの弟ナイジェルを平方元基さん、ナイジェルと恋に落ちるポーシャを清水くるみさんが演じています。
平方さんは見た目以上に甘い歌声、清水さんは清楚とヤサグレのギャップを表現しました。
2人の恋は、なにやらいつもテンパっていてわちゃわちゃはしゃぐばかり。甘い雰囲気が足りません。
しっとりした空気がベースになると、グッと良くなりそうです。

インチキ占い師のノストラダムスを演じたのは橋本さとしさん。
容姿、演技、歌、笑いの取り方、トータルで高キープしているミュージカル俳優さんです。
安心して楽しめるって大切なことなんだなあと、改めて橋本さんを観ながら思いました。

最後に

シェイクスピア作品は一般大衆向けのはずなのですが、年月や国を跨ぐと重々しく捉えられてしまうのが残念です。
俗っぽい本質を軽やかに描いたアレンジ脚本が生まれることを期待したいと思います。

 

Fin