宝塚歌劇団・星組公演『うたかたの恋』 『Bouquet de TAKARAZUKA』感想 | 大海の一滴、ミルキーのささやき

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舞台・映画・小説の感想を自分勝手に書き綴る、きまぐれブログ。

スタッフ

『うたかたの恋』 
原作:クロード・アネ 
脚本:柴田 侑宏 
演出:中村 暁

『ブーケ ド タカラヅカ』 
作・演出:酒井 澄夫

キャスト

ルドルフ:紅 ゆずる
マリー・ヴェッツェラ:綺咲 愛里
ジャン・サルヴァドル大公:七海 ひろき
フリードリヒ公爵:凪七 瑠海
ステファニー:星蘭 ひとみ
マリンカ:夢妃 杏瑠
エリザベート皇后:万里 柚美
ヨゼフ皇帝:十碧 れいや
ミリー:音波 みのり
ブラッドフィッシュ:如月 蓮
フェルディナンド大公:極美 慎

 


あらすじ

この物語の主人公はオーストリア皇帝ヨゼフ1世の息子、ルドルフ皇太子(紅ゆずる)です。
一見、充実した人生を歩んでいるようにみえるルドルフでしたが、父・ヨゼフ(十碧れいや)との確執、妻・ステファニー(星蘭ひとみ)との不仲、身内からの監視や束縛など悩みが山積。

ハムレットの様に頭を抱えている最中、男爵令嬢のマリー・ヴェッツェラ(綺咲愛里)と出会います。
若くて美しいマリーに夢中になったルドルフは、不倫まっしぐら。
「これこそ本当の恋だ!」とばかりに、逢瀬を重ねるようになりました。
ついには離婚しようと算段しだしたから、それはもう大騒ぎです。
ルドルフとステファニーは政略結婚でしたから、離婚となると、政治が絡んできてしまうのです。
事態を重くみた皇帝は、マリーを修道院に送るよう命じます。
万事休す。
そんな2人が選んだ道とは・・・。

「うたかたの恋」は初演の1983年以来、幾度となく再演されている演目です。
2018年3月に閉館する中日劇場、最後の宝塚公演です。

「うたかたの恋」感想

舞台はオーストリア、演じるのは現代的でスラッとした役者たちだというのに、それでも拭い切れない和風感といったらどうでしょう。
曲やBGMが相乗効果を発揮してド演歌といいますか、これはもう道行物ですよ。
よく言えばレトロ、悪く言えば古臭いです。
昭和のテレビを観ているような錯覚に陥り、それはそれで楽しいひとときでした。
今まで何組ものトップコンビが演じていますが、共通していたのは“憂い”だったように記憶しています。
今回の紅さん綺咲さんコンビには憂いを感じませんでしたね。
何処となく、前向きで元気なんですよ。

「2人で船にでも乗って逃げる気じゃ?」と思わせる、明るさがありました。
演じる人によって、違う景色が観られるのも宝塚の魅力だなぁと改めて感じますね。

それにしても、やたらと舞踏会でダンスばかりしているのは何故なんでしょうね。

情緒や雰囲気頼りになっていて、優れている脚本とはいいかねます。
両親、妻、宮廷との摩擦がストーリー上明確ではないため、ルドルフが“なぜ死を選択する心境に至ったか”が描ききれていません。

また、政略結婚をし、恋に手練れた30歳のルドルフが、宮廷にごまんといそうな純粋無垢なお嬢様マリーに、本気になるでしょうか。

私にとっては、納得のいかない“心中事件”でした。

 

キャスト感想

 

悩めるルドルフ皇太子を演じたのはトップスターの紅ゆずるさんです。

スラッとしたスタイルに美しい容姿。宮廷の女性からキャーキャー言われるのも納得の佇まいです。

学年を感じさせないフレッシュさがあるため、若々しく感じました。

清潔感があるのはいいのですが、先にも書いたように憂いがなく色気が足りません。

トップスターらしさが板に付いてきたと思う反面、シリアスな台詞まわしに不自然さが残ります。

この役は心の動きを内面で多々表現しなくてはいけないのですが、まだ、台詞に翻弄されているようにみえます。

紅さんの持ち味を生かしつつ、二枚目の色が濃くなると更に魅力が増しそうです。

 

16歳の少女マリー・ヴェッツェラを演じたのは娘役トップスターの綺咲愛里さんです。

それはそれは愛らしいマリーでした。

可憐で清楚、少しだけやんちゃ、まさにザ宝塚の娘役といった感じで非の打ち所がありません。

綺咲さんの演じ分けは素晴らしく、役によってガラッと違う人にみえましたよ。

そう、ガラッと違う人にみえてしまうのです。

贅沢とは思うのですが、綺咲さんらしさといいますか、綺咲さんにしかできない武器を手にして欲しいのです。

そうすると、なぜ、ルドルフがマリーに惹かれたかがわかりやすくなるのではないでしょうか。

 

最後に

 

史実のルドルフも心中により命を落としているのですが、その死については多くの謎を残しているようです。

真実を知っているのはマイヤーリンクの大地だけ、といったところでしょうか。

私は“心中事件”というと、太宰治を思い出すんですよね。

ルドルフと太宰に関係性はありませんが、ふと、この2人がダブりました。

そして“死”を選ぶ際、女性を伴おうとする男性は、“みせかけの愛”しかなく“甘ったれ”なのではないか、と憤ったりします。

それが証拠に御しやすい女性を選んでいるではありませんか。

「死ぬのなら、あえて止めぬが、ひとりで逝け」

ロマンもへったくれもない捨て台詞を残して感想の〆とします。

 

Fin