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這えば立て立てば歩めの親心
(はえばたてたてばあゆめのおやごころ)
赤ん坊がはい始めると、
親は一日も早く立つようにと願い、
立つようになると今度は早く歩み始めることを願う。
幼い子どもの成長を待ちかねる親心をいう。
「はえばたて たてばあゆめと 思ふにぞ 我身につもる 老をわするる」
出典は宝井其角(たからいきかく)の『類柑子』。
其角は松尾芭蕉の弟子で蕉門十哲の一人。
詠み手は井上正任(いのうえまさとう)。
常陸笠間藩主のち美濃群上藩主。
元禄6年(1693年)の1年間第9代八幡城主を努めた。
『レファレンス協同データベース』参考
人を育てることは案外難しいものである。
親子であれ、教師と生徒であれ、上司と部下であれ。
良かれと思って、あれもこれもと手を出し口を出していたら、いつまでたっても独り立ちさせることが足踏み状態となる。
そこで思い切って、突き放し、躓いても転んでも、ひとりで立ち上がるまでそっと見守るだけに徹する。
子どものやる気や勇気が垣間見える瞬間でもあるのだが、同時に育てる側としては辛いところでもある。
何故なら、解決への糸口を知りながら、伝えることを最大限に控えなくてはならないからだ。
マイケルの幻のコンサートとなったリハーサル映像を編集した映画『This Is It 』を見ると、どのように若手を伸ばしていこうか、言葉かけ一つに対しても気を配っているマイケルの姿に頭が下がる。
それでは、前回に続いて2001年3月6日英国オックスフォード大学で講演されたマイケル・ジャクソンの「家族と愛」というテーマのスピーチをご紹介しよう。
自分自身が父親となり、ある日わたしは、我が子プリンスとパリスが大きくなった時、自分がどう思われたいと考えているのか、自問しました。
もちろん、自分の行くところにはいつも子どもたちを連れて行きたいし、何よりも子どもたちを優先していることを、わかってほしいと思います。
しかし、あの子たちの人生に困難がつきまとっているのも事実です。
パパラッチに追いかけられるので、公園や映画館にいつもいっしょに行けるわけではありません。
あの子たちが大きくなって、わたしを恨んだら?
わたしの選んだ道があの子たちにどんな影響を与えるのでしょう?
どうして僕たちには普通の子ども時代がなかったの、と聞くでしょうか。
その時、子どもたちがいい方向に解釈してくれるといいと思います。
「あの特殊な状況の中で、父さんはできるだけのことをしてくれた。父さんは完璧ではなかったけど、温かで、まあまあで、ぼくたちを愛する努力をしてくれた」とあの子たちが心の中でつぶやいてくれるといいなと思うのです。
あの子たちが、あきらめざるを得なかったこと、わたしのおかした過ち、子育てを通じてこれからおかすだろう過ちを批判するのでなく、いい面、つまりわたしがあの子たちのために喜んで犠牲を払ったことに、目を向けてくれればいいと思います。
わたしたちはみな人の子で、綿密な計画を立て、努力をしても、常に過ちをおかしてしまうものなのです。
それが人間なのです。
このことを考える時、つまり、どんなにわたしがあの子たちに厳しく評価されたくない、いたらない面を見逃してほしいかを考える時、わたしは父のことを思わずにいられません。
子どものころ、愛されたという実感はないけれど、父がわたしを愛してくれていたに違いないと認めざるを得ないのです。
父はわたしを愛し、わたしにはそれがわかっていた。
愛情を示してくれたことは、ほとんどなかったけれど。
子どものころ、わたしは甘いものに目がありませんでした。
━━兄弟みんなそうでした。
シロップに覆われたドーナツが大好物で、父はそのことを知っていました。
数週間に一度、朝1階に下りて行くと、紙袋に詰め込まれたドーナツがキッチンカウンターに置いてあったんです━━メモも説明もなく━━ドーナツだけが置いてありました。
まるでサンタクロースみたいでした。
夜中まで起きていて、ドーナツが置かれるところを見ようと思うこともありました。
でも、サンタクロースと同じように、二度とドーナツが置かれなくなることを恐れ、その魔法を大切にしようと思いました。
父はだれかに見られないように、夜中にこっそり置かなければなりませんでした。
父は自分の中の人間的な感情におびえ、それを理解できず、どうしていいかわからなかったのです。
心の防波堤の扉を開けたままにすると、わたしの心に様々な記憶が走馬灯のようによみがえってきます。
ちょっとしたことで完全ではありませんが、その記憶は“父ができることをしてくれた”ということです。
そこで今日これからは、父がしてくれなかったことに目を向けるのでなく、父がしてくれたこと、父の努力に目を向けようと思います。
そして、父を非難するのをやめようと思います。
わたしは父が南部の貧しい家庭で育ったという事実に思いをはせるようになりました。
(つづく)
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