東京の下町・深川は、縦横に流れる掘割りで囲まれ、地面が湿っているからか…江戸の昔から怪談話が多い土地柄であります
化け猫に両頭を持つ大蛇に白蛇、河童に海坊主、狐に狸にかまいたちと妖怪も数知れず…
深川は、冬でも素足、黒羽織でキリリとした辰巳芸者で有名な花街でありました
大店の旦那衆が妾宅を構え、それなりの美女がひっそりと暮らしているような仕舞屋(しもたや)が点在し、耳を澄ませば三味線を爪弾き、小唄・端唄が黒塀越しに聞こえるといった粋で風情のある町並みであったと言われております
それが1歩も2歩も間違えますと、悲惨な最後を遂げる妾が出て参ります
「いい女だなぁ~」
湯屋の帰りに見掛けた半端者が勘違いをして、人のもんに横恋慕…この手に入れようとしゃしゃり出て、自分の思いが通らないと知ると、いきなりブスッ
そんな無残な死を遂げたうら若き美女が、どうしようもない無念を晴らそうと夜な夜な柳の下に潜むことになるのです
これが幽霊…
さぁ~昨日に引き続き、今夜も怪談話といきましょう
江東区・清澄にある「深川江戸資料館」では、夏のイベント…『お化けの棲家』が開催されまして、大盛況のうちに幕を閉じました
まるで井戸の中でひと風呂浴びているかのように寛いで見える骸骨は『狂骨(きょうこつ)』と呼ばれ、フラフラァ~と宙を舞い、道行く人を驚かせ「きゃぁ~っ」と驚き、慌てふためいて逃げ去って行くのを見るのが唯一の愉しみ・生き甲斐?となっているお化けのような妖怪です
「ねぇ~鈴木光司のホラー小説に貞子ってのが主人公で出てきたじゃない井戸から這い出てくるの。あれは不気味だったよね?」
「ホラーヒロインって言われた貞子あれってテレビ画面から出てくるんじゃなかったっけ?髪の毛で顔がぜんぜん見えなくて…夜、ひとりのときテレビが消えてるのって怖かったわぁ」
「小説では井戸だったと思うけどなぁ~古井戸に遺棄されていた遺体が山村貞子って名前で、供養してお祓いしたんだけど…しつこく出てくんのよぉ~」
「こわぁ~…箱根の温泉宿で玉簾神社(たますだれじんじゃ)ってところに、わざわざ井戸を作ってサ『貞子風写真を撮ろう』って張り紙がしてあったの覚えてない?」
「う~ん貞子が産まれたのって、伊豆大島だったと思うけど…うん・うん!箱根の温泉宿のにあったわ」
骸骨・狂骨を前にして「豊かな黒髪・貞子」の話に夢中になってしまい、真っ白な骸骨は白けておりました…
さすがに当時でも井戸に入ってまで写真を撮る勇気はありませんでした
よっぽど骸骨・狂骨の方が愛嬌があるように思えます
厠(かわや・今のトイレ)の下から青白い手が伸びてるのを見た若いカップルの男子の方が悲鳴を上げていまして、女子の方がゲラゲラ笑っていると言う…平成の世では男女逆転しているようです&
男子がびっくりした妖怪は『かいなで』と言いまして、わたくし・これにはずい分と母親に脅されたものでした
「そうやって口を結んでサ、謝らないってぇっと厠に閉じ込めるよっ!下からぬーっと手が伸びてお前の尻っぺたを撫でて引きずり込まれちゃうからね!人が優しく言ってるうちに謝らないてぇっと厠に押し込めるよ」
わたくし・恐れをなして、すぐに「ごめんなさい」と謝りました
それが…今日、手にした説明書には「節分の夜に限って出る妖怪」と記してあり、あの母親にしてやられたと思わぬところで腹を立ててしまいました
糸切りばさみを背負っている少女は「付喪神様(つくもがみさま)」と言われています
暮らしの中で使われる色々な道具が作られて九十九(つくも)年経ちますと、霊魂がその道具に宿ると言われているとか、いわば古道具の妖怪だそうです
旧家にはありとあらゆる付喪の神様がおられたと言われ、妖怪たちは道具を背負っていたり被っていたり、とてもユーモアのある姿形をしていて、ちっとも怖いとは感じません
昔の人は物を大事に使ってたからこそ、そして神様が宿るまで後生大事に使うようにと諭していたのだと思います
まだまだたくさんのお化け・妖怪が潜んでいるようですが、ここらでひと休みして別の展示会を覗いてみました
化けもの・人形作師…いろんな仕事があるもんですねぇ
お名前は「北葛飾狐狸(きたかつしかこり)」さんと仰います
きっと葛飾区・北葛飾にお住まいなんだろうと思うのですが…
今まで見てきた人形に加え、額に納まっている妖怪たちが紹介されていました
「ひとつ目小僧」と、如何にも薄幸を背負った貧相な感じの幽霊が一緒ですと、なんですか見ているこちらも淋しくなってきちゃって、背筋より懐がうすら寒くなってしまいました
和服を着ているんですがミイラ男のようになってしまっているのは包帯ではなく、蕎麦が体になってしまった「蕎麦が大好きな妖怪」だそうです
8月18日から20日まで・午後6時から9時までのたった3日間の展示だったそうですが、讀賣新聞に紹介されたのが功を奏したのか大盛況に終了したとのことでした
帰りは真っ暗闇で遠くの灯りが仙台堀川に映りだされておりました
「ねぇ、お腹空かない?」
「わっ、怖っちょっとぉ~急に後ろ振り向かないでよっ!ビックリすんじゃないのよ」
「何、それ人を妖怪呼ばわりしないでよ」
「ぽちゃんヒタヒタ…ぽっちゃ~んケケッ!ケケケ」
足元の仙台堀川が波立っているような
「…何何の音?今・変な鳴き声みたいなのも聞こえなかった」
「もしかして河童」
橋の欄干から覗いたら…「いたぁ~」
「カ・カッパだぁ~」
わたくしは幼馴染みを…
幼馴染みはわたくしを置いて、とにかく走りに走り門前仲町を目指しました
日ごろの行いを反省しつつも、お互いの薄情さを罵り合いながら…取りあえずビールでお祓いを致しました
「私サ、今度の主人の赴任先・一緒に行こうかなぁ~」
「どこなのよ?」
「ベトナム…」
「ベトナムかぁ…半年だもんね、行っといであきらのことはサ、あちしとさわちゃんに任せておきなって」
「あのね。頼むから余計なことは一切しないでよっ」
「ヒヒ!あーたが一緒に行くって聞いたら、旦那・どんな顔するかねあちしもヒマだから付いて行こうかなぁ」
「うん…もしかしたら頼むかも知れないわ」
「よしっ今夜は大いに飲もうぜぃベトナム料理って何んにでもエビとパクチーが入ってるんでしょ?あちし、ダメだ!悪いけど行けない」
大学3年のあきらくん「夫婦水入らずのベトナム暮らし」きっと気持ちよく送り出してくれるよ
「行っといで」 …ちょっと淋しくなるけどもサ