PM9時32分
ベッドに横になって本を読んでいましたら…いきなり!ぐらっ!
夕べ、関東の夜をドキリと震え上がらせたのは埼玉県を震源地とする震度5弱の地震とのことでした。
「あっ!あわあわ、あわわぁ」
14階建ての12階ですと、徐々に横揺れが大きくなって参ります。
ひとりで暮らしておりますと、地震だろうと火事だろうと、殺人事件だろうと、すべて己の判断と決断で動かなければなりません。
慌てふためくその前に次になすべきことを、先ずはあたまの中で段取りを組み立てる…けれどもそれに縛られていては、いざっと言う時の臨機応変にブレーキが掛かってしまう…
「う~ん」と横になったまま考えているうちに、地震はゆっくりと治まってきました
ところが…天井からぶら下がっている照明を目で追っているうちに目だけではなく、体全体までがゆらりゆらりと揺り続けているような、変な気持ち悪さが体の芯に残り、まるでつわりの気分です。
「あっつわりの訳がないっ!船酔い・に訂正させて頂きとうございます」
で・結局なんの行動も起こせず、熱いお茶でも飲んで吐き気を抑えようと「ドッコイショォ~」と掛け声と共にベッドから起き上がりました。
PM3時ごろ…長野県・諏訪大社で、数え7年に1度行われる神事「建御柱祭(たておんばしらさい)」に行って来たと言う、大学2年「あきらくん」の母親である幼馴染みが、お土産のお茶を持って来てくれました。
「お茶葉って長野県で採れたっけ?」
「人が大枚を払って買ってきたお土産に、何・ぐちぐちとケチ付けんのよ!お茶っ葉は静岡産だけどもサ、諏訪大社の御柱にあやかっての『御茶柱』…ねっティ・バッグなんだけど、お湯を注ぐとふわぁ~っとあの懐かしい茶柱が立ってくんのよぉ!もう感激しちゃった。あたし…」
そう!そう湯飲み茶わんに茶柱が立つと縁起が良いと喜んだものでした。
今では茎茶もあまり飲みませんし、急須の網も上等になり茶葉の茎が通りにくくなってしまい、湯飲みにまですり抜けて来る期待も持てません況してやペット・ボトルの「おーい、お茶」では茶柱など考えもしないでしょう!
もし茶柱を入れたとしても、ゴミか何かと間違われ回収騒ぎの大事になってしまいそうです。
「ちょっとぉ!お茶の一杯ぐらい出しなさいよ」
「じゃっ!お持たせで…」
幼馴染みが持ってきた「御茶柱」を入れてみました。
包装紙から出して見ましても、普通に見慣れたティ・バッグでして、このネットからどうやって茶柱が出て来るのか、ちょっと見ものであります。
「ほれ!お湯を淹れなきゃ100年待ったって茶柱なんぞ立たないって」
「100年なんて、あっという間だって!」
手作業で1本1本加工した茶柱だそうで、見事!湯飲みの中で立ちましてございます。
ティ・バッグの隅っこに挟んであるようでした。
諏訪大社の境内に建つ御柱は16本…そのすべて「もみの木」とのことだそうです。
柱ですから小枝や皮は取り払われておりますが、もみの木と聞いただけでクリスマスの華やかな飾りつけが目に浮かびます。
「なんかサ、お茶菓子とかないの?テーブルの上、湯飲み茶わんだけで淋しかない?」
「うちはね、シンプル・ライフをモットーにしてんの!このお茶、新茶の時期と重なったせいか、すんごく美味しいね」
パッケージには「安全乃願ヰ」、「不老長寿乃願ヰ」など6つのご利益が書き添えてあります。
「うふっ!『恋愛成就』ってのもあるわぁ~2杯目はこれにしよう。あっ!肉じゃが煮たけど、お味見してく?」
「うん!してく、してく夕飯のおかずにも丁度いいわぁ」
「その『も』ってのは、なんなのよなんでお宅の夕飯がうちとおんなじ肉じゃがになるわけよ」
「あれ?なんだ…牛じゃなくて豚の肉じゃがなの?まぁ~美味しいからいいけどもサ」
「豚ってバカにしなさんなよあーたんとこは牛肉なわけ?」
「うぅん!じゃがいもの煮付け」
「あっ」
「あっ」
ふたりして御茶柱、呑み込んでしまいました
茶柱は人に見せてしまっては、その縁起が逃げてしまうと言われているのを今、思い出しました。
それをお互い見てしまい、そのうえ呑み込んでしまうとは…立った茶柱は懐紙に包んで着物の袖に 忍ばせておくもの・と母親に言われていたことも今、思い出しました。
「あぁ~どうしよう!選りによってあーたと一緒に呑み込んじゃうなんてぇ、ご利益も屁ったくれもないわっ」
「それは、こっちのセリフだわ!もう一杯飲んで立たせよう!お互いサ、あっち向いて飲もう」
「立たせようだって!卑猥だなぁ」
いい歳したおばさんふたり、立たせることに挑戦した記念すべき日でありました。