いよいよ夏本番…二十四節気の第12番目「大暑」が巡って参りました。
この暑さ、覚悟はしていたものの…いやはや老体が追っついて行きませんで、出るはため息ばかりであります。
七十二候は、桐の花がやがて実を結ぶころ「桐始結花(きりはじめてはなをむすぶ)」と季節の移り変わりを表しています。
5月に咲く桐の花は、如何にも初夏らしく涼しげです。
花弁の奥に甘い蜜があるのでしょう…アリがお腹を満たし、薄紫に染まった花びらの先へと出て来たところをパチリ…いち年でいち番!風が気持ちの良い季節かと思います。
こちらは7年ぶりに地上へと出て来たミンミンゼミ…の、抜け殻です。
図書館の裏庭で見付けたのですが、コンクリートでフタをされた地中から這い出て来たのかと思うと、それはもう奇跡に近いことと感激致しました
低木のツゲの枝に足の爪を引っ掛け、羽化をする姿を想像するだけで楽しくなって参ります。
明日も30度をゆうに越すとの予報です
セミの短い命を思えば…何んとか工夫をして過ごすことに致しましょう。
「こう暑いと食べるのも億劫になるなぁ~」
半月も続いた熱のせいで、家人の食はすっかり細くなってしまったようです。
東京医科歯科大病院・泌尿器科で、熱の原因は「急性腎盂腎炎(きゅうせいじんうじんえん)」と診断されたのですが、家人の細菌経路が分からず、とにかく抗生物質の点滴投与での治療となりました。
その度に熱が下がりますものですから、そう重い感染だとは思いませんで、先生のお話を伺っていると「この病気の怖いところはすぐに敗血症になることで、根気よく治していきませんと慢性化してしまいます」と、恐ろしいことに繋がりそうな気がしてきます。
「血液にも尿にも異常は認められないんですよね、それで背中も痛くない、頭痛もない、熱が上がってくるときの寒気だけが腎盂腎炎に当てはまるんですよねぇ、金ちゃんの場合は肝心の尿路が無いですし…なんだろうなぁ?」
先生は泌尿器科のシンボルであるナニの図を指しながら思案顔…
『なんだろうなぁって、何なんだよっ!』
『ホントだよねぇ、やっぱ木島先生を追っかけてワシントンへ行こうか?』
『そうだよなぁ~8月の年金出てから考えようぜ!』
私たちふたり…無言で顔を合わせ、目でもって会話を致しました。
長く夫婦をやっていなければ出来ない究極の芸であります。
東京医科歯科大病院・泌尿器科・木島先生は…家人の膀胱摘出の手術から、ストーマの回路手術、そしてオストメイトへと、すべての経緯をお任せし、精神的にもずい分と私たちを助けて下さった、見た目幾つか分からん先生でした。
けれども、あまりにもエリート過ぎて、アメリカの大学病院に2年間の研究留学へと、この4月旅立って行かれました。
「帰って来られるまで、あと21ヶ月もあるんだなぁ~生きてはもう会えんかもしれんな」
「生きて会わんで、どう会うのよ?お骨を見せに私が泌尿器科へ行くわけ?」
「よろしく云っといてくれる?」
「うん、それは構わないけどサ、たった2年だもの、どうせならそれまで生きてたらいいじゃん」
「それもそうだな…そうするわ」
それには、何んとか体力をつけて21ヶ月持たせねばなりません!
口当たりの良いものはと考え、冷たいカボチャスープを作ったところ、2杯もお代わりをしてくれまして、ホッ
腎臓には利尿作用がある西瓜が欠かせません
「種は呑んじゃダメよ!」
その昔…私が子どものころ、西瓜の種を出すのが面倒でそのまま齧り付いておりましたら、母親に頭をはたかれました。
「お前ね、種ごと食べてどうすんだよ!果物の種ってのはね、ヘソの穴から芽を出してサ、ニョキニョキと伸びて来ちまうんだよ。西瓜なら地べたを目指して這えちまうし、枇杷だとか柿の種だとサ上へ伸びちまって、真っつぐに歩けないんだからサ。そりゃぁ難儀をするもんだ。実が生ったら鳥が来て、フンが顔に落ちて来るんだ。絵本にもあったろ?ジャックと豆の木っての?あれの騒ぎじゃないよ。生えてくるのがヘソの穴なんだから、いいかい?種をお出しよ!ホラ出すんだよ」
てな、ことになっちゃうからね…と家人に噛んで含めるように言って聞かせました。
ところが…
「俺サ、前に大腸がんやったろ?その時にね、大腸を20センチ切ったじゃない?肋骨の分かれ目からヘソの下まで縦にビャァーッと。それで今度は膀胱がんで膀胱全摘しただろ?でサ、ヘソが陥没しちゃってんだよ。だからね、西瓜の芽の出ようがないわけ。ご心配なく」
暑さのせいなのか?
なんだかフラフラと眩暈がしてきて、頭の中でミンミンとセミが鳴いているような気がします
「今日って鎌倉花火大会の日だよ。友だちが写メール送って来てくれたから観て!」娘が転送してくれました
そうでした
懐かしいなぁ~とは言っても、花火だけを観てもどこの花火だか見分けはつきませんが、鎌倉のふた文字に何かこうジンと来るものがあります。
あぁ…由比ヶ浜で観たよねぇ…
大きなお屋敷で左手には生ビール、右手には五平餅…みんなで観させてもらったよねぇ…
目の前に出来た億ションが邪魔だの、あの竹林のせいで花火が欠けちゃうだのと、友だちと屈託なく見上げた花火の思い出は、今にして思えば私の宝物となりました
まだお世話になったお礼もきちんと言っておりませんのが、いつも心に引っ掛かっております
みんな、観てるかな?
東京の夜空には星ひとつ見えません。
「あ」行から思いつくまま、友だちの名を夜空に呼びかけました!
また、会いに行くね
『夏痩せの骨にひゞくや桐一葉』
(なつやせのほねにひびくやきりひとは)
正岡子規