通常なら12月には報告のある会計上の事故報告が、木曜日の夕方になって出てきた。
「何で今頃、出してくるんですか?もう1週間もないじゃないですか!」
隣で同僚が怒鳴っているのを聞きながら、気が重くなってくる。彼は転勤になるので、その仕事はそのまま僕が引き継ぐことになる。
昨年は4件だったのに、今年は5件もあるのか…。
金曜日の早朝に会議が開かれ、今後の処理を話し合った。
結局、その事故報告を僕がしなければならないことになった。
報告が遅れた言い訳をどうしようかと夕方まで考えながら仕事をしていた。
「まあ、正直に言うと、ちゃんと管理していなかったということです。」
それをそのまま言うわけにはいかない。 なんと報告すればいいのだろう。
悩んでいたら夕方になって、別の事務所から事故報告があと8件あると連絡が入った。
「8件ってどうなってるんだ!そこの組織は!」
同僚もあきれ顔だ。
僕が処理しなければならないのかと思うと、また気分が暗くなる。
謝りに行かなければならない部署が頭をよぎる。怒った担当の顔が目に浮かぶ。そしてこれからいくつ文書を作ればいいのだろう?本当についてない。
今日も最悪の一日だ。
金曜日には東京で以前の職場の飲み会があった。
携帯に電話がかかってくる。
「今から終電に乗って東京まで出てこいよ。」
行きたい気持はあるが、とても参加できる状態じゃない。
結局11時まで残業をし、それからデニーズでビールを飲みながらアロマの本を読んで家に帰った。
土曜日は車を修理に出し(またマフラーが壊れた)、それからアロマの勉強をする。
日曜日(翌日!)にはアロマテラピー・インストラクターの試験があるのだ。
でもなかなかやる気が起きず、うたた寝をしながら問題集を読み進めていた。
本気になったのは午後6時を過ぎてからだった。それから問題を700問近く解いた。
できなかった問題に付箋を貼り、すべての付箋が取れるまでやり直しをしていたら、終わったのは午前1時近かった。
そして今日の日曜日、東京の永田町にある砂防会館で試験があった。
午前中の択一問題はほとんど解けたが、午後の記述問題には頭を抱えた。
1問目のジャン・バルネの功績は何か?という程度の問題は軽く解けたが、2問目のペパーミントの成分は何か?ゼラニウムの成分は何か?という問題辺りからこけ始めてきた。精油の成分まで記述式で出題されるとは思っていなかった。
もっと勉強しておくべきだったと、今さらだけど、後悔した。
ショックが大きく、帰りは有楽町にあるビックカメラで買い物をしただけで帰りの新幹線に乗った。
それでも、春の東京はいい。
ほんのわずかの間いただけだけど、そう思った。
法政大学の前の桜もそろそろ咲くだろう。
僕はあの下を歩くのが好きだ。
高校を卒業して、初めて東京に出てきたときのことを思い出す。
僕は高校が嫌いで、授業をしょっちゅうサボって街をうろついていたんだけど、田舎の街なのでやたらと目立ってそれが本当に嫌だった。本屋でも映画館でもやたらと声をかけられるのだ。
「高校はどうしたの?」と。
東京に来たら、誰も僕のことを気に留めずにいてくれて、本当に嬉しかった。自由になった気がした。
そのときの刷り込みがあるから、僕はきっと春の東京が好きなのだ。
法政大学の前の桜の下で桜吹雪をいっぱいに浴びながら、予備校の授業をサボって帰った日のことを思い出す。
あのときの桜の見事だったこと。あのときの美しい春の光。そしてあのときの開放感!
新幹線が長野に近づいていく。夢が終わりに近づいていく。見慣れた風景が広がり出す。
東京は晴れていたのに、長野は曇っている。ああ、ほんとに嫌だなあ、という気がしてくる。
「明日からまた仕事か…。」
気分がまた一気に暗くなる。
今の僕にはサボる勇気もない。昔はまったく平気だったのに。
それが一番情けなくて、悲しい。