「お前は何か頑張ろうとして失敗した事ってあるのか?」
「まぁ、何かしら、突然。私がしょっちゅう失敗しているからって笑い者にしようとしているのね、失礼な」
「え?お前でも失敗する事があるのか?全然そんな風には見えないぞ。例えばどんな失敗をするんだ?」
「うるさいわね。そんな事を訊くからには何か失敗でもしたんでしょう?まずはそれを聞かせてちょうだい」
「うっ、流石に鋭いな……昨日は勉強しようと思ってたのについ寝ちゃったんだ」
「あらそう。良かったわね」
「え?何で?全然はかどらなかったんだぞ」
「うるさいわね。世の中には不眠で悩んでいる人が大勢いるのよ。ようやく会社や学校のストレスから解放されて家に帰ったのに、今度はろくに眠れないストレスに襲われるのよ。安眠出来る事を夢見て、実際に夢を見たら悪夢でうなされるわ。そんなストレスから全く逃れられない時代にもかかわらず、すべき事があるのにぐっすり眠れるなんて幸せじゃないの。私以外の人にそんな自慢話を聞かせたら殴り掛かられるんじゃないかしら」
「いつの間にそんな殺伐とした世の中になったんだ……起きて勉強を頑張りたかったのに寝ちゃうのは良い事とは言えないと思うんだけどな」
「しつこいわね。勉強しなくても死ぬわけではないし、もっと重大な眠ってはいけない場面で睡眠不足の辛さを味わうよりはマシだと思うわ。下手したら命を失う恐れもあるものね」
「そういう事態を想定したらそれこそキリがないんじゃ……例えば寝ちゃいけないような重大な場面にはどんなのがあるかな。地震とか、雪山で遭難とかか?」
「そんなの訊くまでもないじゃないの。私との会話中に眠ってしまったらそのまま死んでしまうと思うわ」
「おい!いくらなんでもペナルティがキツ過ぎるぞ!」
「うるさいわね。私を一人にして眠ってしまうなんて、そのまま二度と目が覚めない事態に巻き込まれても文句は言えないのよ、失礼な」
「そんな事言っても、僕とお前とじゃ睡眠時間が全く違うしな……いつかは確実に会話中につい寝ちゃうケースが起こる気がする」
「あら、確実に起こるとはどういう事なのかしら」
「えっ?そ、そりゃ凄く近い場所で、二人が会話をしながら寝そべってる事だっていつかはあるんじゃないかと……」
「引っぱたくわよ」
「何でだよ!そこまで変な事は言ってないと思うぞ!」
「うるさいわね。恋人のクセに一緒の布団で眠らない不気味な秘密を持つネガティブ被害妄想女だと思ったんでしょう?失礼な。本当で悪かったわね」
「そんな事思うわけ無いだろ!……って、えっ、本当なのか?じゃぁ何かそういう気持ちにならない秘密とか理由があるのか?」
「ええ、そうね。手の届く範囲に近付かれると引っぱたきたくなってしまうのよ」
「【引っぱたくわよ】って言葉が本当、って言ってたのか!なんと紛らわしい!」
「うるさいわね。満員の喫茶店じゃあるまいし、そもそもどうして数人で一緒の布団になんて入らなければならないのかしら。私が知らない間に日本は布団不足に悩まされていたのね」
「……布団不足なんて言葉は聞いた事が無いぞ……」
「あらそう。それなら布団ショックかしら」
「響き的には全然違う意味って気がする……まぁとにかく変に焦ったり無理しなくて良いと思うぞ。僕はお前が好きでいてくれるだけで充分幸せだからな」
「……あらそう。それなら……」
「えっ!な、何を……」
「……あら、やはりこうして腕を組んだりするのはあなたはして欲しくないのね」
「べ、別にしたくないって言ってるわけじゃないぞ。してくれるなら嬉しいけど、しなくても一緒にいれるだけで嬉しい、って意味だよ。こうして腕を組むのはかなり久し振りだけど、最近はたまに手を繋いだりしてくれるしな」
「うるさいわね。頻度を指定されるとその通りになってしまうかもしれないわよ」
「腕を組むのは久し振りで良いって意味じゃないぞ!そういえば聞き忘れてたけど、お前が頑張ろうとしてしょっちゅう失敗してる事って何なんだ?」
「さぁ、どうかしらね。今日は頑張れたかもしれないわ」
「あなたはクリックを全力で頑張るのよ」
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