激しい雷雨と共に彼岸入りした東京で、年に4回慣行している墓参りも無事に終えることが出来、残すは年末参りのみとなった。



14年前に母が亡くなった直後、毎日の様に母の夢を見ていた。それは特に何を話す訳でもなく、ただ並んで歩いているだけの夢だった。


末期癌で、死の数日前から水分も受け付けなくなっていたので、息を引き取った時の体はまるで釈迦苦行像のようだったが、夢の中では健康だった頃の母に戻っていた。


そんな夢が暫く続いたある時、いつものように並んで歩いていると、人影のようなものが1つ、2つ周りにいる事に気付いた。どうやら自分達と同じ方向に向かって進んでいるように感じた。


気が付くと、母と自分は小さな木製の柵のような物があるところに辿り着いていた。何故か自分はその先に行けないと感じ、同時に激しい悲しみが襲ってきたのだった。


柵の向こうは緩やかな登り坂になっていて、その先には頂上があり、背後に見えている空は、夕暮れとも夕闇とも言えない、現実では今迄決して見たことの無い、なんとも言えない美しい色合いをしていた。


現実的に考えたら、簡単に乗り越えることができるほど小さな柵なのに、その向こう側へ行ってしまった母に着いて行きたいとは何故か思わないのだったが、別れを悟った瞬間、急に涙が溢れてきたところで目が覚めた。


自分は夢の中だけで泣いていたわけではなかった。夢から覚めた現実の自分も泣いていた。その日以来、母と歩く夢は見ていない。


最近、YouTubeで世界のライブ映像を視ていたら、あの時夢で見た場所にそっくりなところが出てきて驚いたが、それは一か所ではなく複数あったので更に驚いた。


もしかしたら地球には異界とつながっている場所がいくつかあって、時としてそこへ導かれることがあるのかもしれない。


自分はもう一度、あの美しい空が広がる景色を見ることが出来るのだろうか。


恐らくその辺は人智の及ばない領域で、誰にもわからないことであり、知る必要も無いのかもしれないが。