今月8月2日に対ドル円相場がドル高円安から一転し、1ドル140円台のドル安円高となりました。為替相場のことについては本当はもっと早く記事を書いておきたかったのですが、筆者の受け止め方としては「ついに来るものが来たか」というものです。ひろゆき(西村博之)氏が数量経済学者の高橋洋一氏に噛みついた件について取り上げた前回記事を書いたときはまだドル高円安の進行がどんどん進行していたのですが、この動きはマスコミ等が騒ぐほど長く続くものではないということは十分予想できたことです。ひろゆき氏は「1ドル=300円台にまで円安が進んだらどうするのだ」と言っていましたが、ものの見事に予想を外しております。
一方高橋洋一氏の方は今年5月の時点で既に円安が永続的に続かないことを予測されていました。
高橋洋一氏「バイデン氏は単なるアホ トランプ氏が正しい」通貨安でGDPは上昇「いずれ1ドル110~120円に落ち着く」/芸能/デイリースポーツ online (daily.co.jp)
つい先日まで日本の自国通貨安はこのまま止まることを知らず下落の一途を辿るかのように云われてきました。それは「日本の国力低下がもたらしたものだ」などとヒステリックに反応するマスコミや経済評論家がわんさといたのですが、為替相場はその国の国力を反映させたものではなく、あくまで為替取引の投機家たちの思惑や駆け引きによって決まってくるという話をしています。特に短期的なランダムな動きはそうです。
再論・結局為替相場は何で決まるの?(かなりメンドくさい話です) | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)
投機家たちが為替相場における売り買いの判断において重要視しているポイントのひとつが各国中央銀行の金融政策の動きであり、今後利上げに動くのか利下げに動くのかという予想を立てながら売買をします。
そういう観点から見ますと、アメリカや欧州でパンデミック収束後続いていた景気過熱とインフレが中央銀行による強力な金利引き上げによって徐々に鎮静化しつつあり、利下げに転ずるタイミングが近づいていました。今月8月2日に公表されたアメリカの7月雇用統計によれば失業者が1年前の1.2倍に急増、失業率が4.3%に悪化しており、米中央銀行FRBは大幅利下げを余儀なくされます。これがドル=円相場反転の決め手となったのでしょう。
一方日本側の日銀は先月7月31日に行った金融政策決定会合において政策金利を0.0~0.1%から、0.25%へと利上げすることを発表しました。植田日銀はいっそうのタカ派色を鮮明にします。
日本側は利上げで米側が利上げとなって日米金利差は縮まることになり、円買いドル売りへと為替投機家たちが動いたわけです。この動きはセオリー通りのものといっていいでしょう。
このブログで何度かお話してきていますが、中央銀行の金融政策は自国の民間企業の生産活動意欲や雇用状況に基づいて、政策金利を上げるか下げるのかの方針を決めていくのが基本です。アメリカFRBの動きはその基本に沿ったものですが、今回そのタイミングは遅く、ブレーキが強すぎて景気や雇用をオーバーキルしてしまいました。大統領選で民主党のバイデン現大統領が出馬を断念し、共和党のトランプ前大統領が返り咲く可能性がぐんと高まっていますが、もし氏が再任されるとパウエル現FRB議長により強い利下げ圧力をかけるか、ひどい場合は更迭して別の議長を据えると予想されます。
一部マスコミで今回の円高は一時的なものであると捉える報道をしていますが、筆者は当面円高ドル安が続くのではないかとみています。もし円安基調が続き、日銀ももうしばらく利上げを待っていっそうの企業投資と事業活性化を促すのであれば、日本経済にとって大きな躍進のチャンスだったのですが、今後その期待が薄くなってきます。就職活動に勤しむ新卒の学生さんたちは、これまでのような売り手市場でなくなるかも知れないことを覚悟せねばならないかも知れません。
中国武漢からはじまった新型コロナウィルスのパンデミックは世界的に大きな経済混乱を与え、各国政府や中央銀行は前例のない財政・金融政策の敢行でそれを乗り切ってきました。これを第一期としますと次に訪れた需要膨張と労働力・資源供給逼迫による景気過熱と高インフレが第二期となります。そして過剰景気とインフレ鎮静化のために行われた財政・金融政策引き締めの後遺症というべき景気と雇用の減退という第三期のフェーズをいま世界は迎えつつあるように筆者は診たてているところです。
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