不思議/中森明菜 その2~1曲ごとに | 私的音盤幻聴記

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偏愛している音楽を中心に書きます。

前回に続き中森明菜の「不思議」について。
今回は1曲ごとに思った事を書き連ねてみます。

1. Back door night
出だしのオーケストラヒット系シンセからインパクトが強い。ドラムマシーンと譜割りの細かいベースによるファンキーなリズム、細かく絡むようなギター…全体に深いリバーブがかけられていて特にスネアドラムが大きく響く。ボーカルはディレイかリバーブを通した音をメインに据え、元の声はほぼカットか極端なイコライジングがされているように聴こえる。そしてその歌唱は、妙に鼻にかかった声、極端な抑揚、ビブラートの多用…(ミックス時により目立つように処理されていると思われる)これらは歌詞を伝えるための歌ではなく、声を楽器として捉えている事を強く感じさせる。曲はファンク的な出だしから、サビではロングトーンのベースが響き、続いてヴァイオリンのソロとドラマチックに展開して行きます。これまで書いた特徴の多くはアルバム全体に当てはまり、1曲目にしてこのアルバムがどういった物なのかを良く表している。残響のベールの内側から「こちら側へおいで」と誘われているようなイメージが浮かぶ。

2. ニュー・ジェネレーション
歪んだギターと少し重いリズムが60年代後半のサイケデリックロックを彷彿とさせる曲。沈んで行くようなイメージは当時のゴシック系にも通じる所がある。エフェクト処理で高域が目立つ声、揺らめくようなビブラートを多用する歌唱は、喜怒哀楽といった言葉では表せない奇妙な感情を感じさせる。

3. Labyrinth
ギターカッティングが引っぱるファンク調の曲。ポコポコしたパーカッション、間奏でのスラップベース、女性コーラス等がアッパーに盛り上げる。不明瞭だが何と無く聴こえてくる歌詞は、性的意味が感じ取れてしまうもので…初めて聴いた当時(中二)はショックに近いものを感じた。全体的に非常に官能的な印象の曲。

4. マリオネット
ミディアムテンポの重いリズム、派手に鳴り響くオーケストラヒット、ヴァイオリンソロ等から圧迫感を感じるサウンドになっているが、メロディーは比較的解り易く歌謡曲的と言って良い。このアルバムの中では一番真っ当で理解しやすい印象がある。

5. 幻惑されて
冒頭のシンセの音が印象的。曲調は緻密で大人っぽい雰囲気。歌唱はこのアルバムの中でも一二を争う聞き取り辛さで、不可解と言える奇妙な抑揚が付けられている。しかしそれが、音楽的に刺激的で中毒性のあるものになっている。

6. ガラスの心
左右に振られたパーカッション、タムによるリズムが何処かの民族音楽のようにも聴こえる。波が寄せては返すような不思議なリズムである。メロディは何処か郷愁を誘うような可愛らしくも切ない感じ。途中リズムが止み唐突に挿入されるキラキラしたシンセも印象的。

7. Teen-age blue
ノリの良いエレクトロポップ調の曲。アルバム中一番ポップな曲だと思う。
ポップではあるが奇妙な印象になっているのは、やはりボーカルの歌い方と音質のためか?最初に聴いた時の印象では何故かこの曲が一番違和感のある曲に感じた。…その変さ故に好きでしたが。

8. 燠火
スローテンポのしっとりとした曲。生ドラムが使われているようだが、エフェクトとパンニングのためかドラムマシーンのように聴こえる。オルガン系の音と高音域で演奏されているトランペットから神秘的な印象を受ける。歌唱は他の曲に比べナチュラルな歌い方をしている。俗に言うウィスパー系の歌い方で、これは次のアルバム「クリムゾン」での歌唱法に通じるものがある。全体に静謐で神秘的な印象を受ける曲である。

9. Wait for me
力強いリズムのファンク調の曲。Labyrinthと近い系統だがこちらの曲のほうがよりリズムを全面に出し、シンセやギターは背景に回っている印象。しかも歌ですらも背景に同化している感があり、楽器の一つに徹しているようにも聴こえてしまう。ノリの良い演奏で盛り上がり、ボーカルも聴こえてはいるのだが、見失ってしまうような妙な感覚。最後「Wait for me」と歌った後の残響が頭に残る。

10. Mushroom dance
アップテンポのストレートなリズムに、クリーンな音のギターでのアルペジオ、メロトロンを思わせるストリングス系のシンセ…同時代のネオサイケを彷彿とさせる曲である。
歌詞には暗喩が込められているが、どういった暗喩か解説するのは野暮というものだろう。マッシュルームでダンスである。歌唱は喜怒哀楽といった言葉では表せない奇妙な感情を感じさせる。マッシュルームでダンスである。不明瞭だが何と無く聴こえてくる歌詞は非常に官能的な印象を受ける。マッシュルームでダンスである。不可解と言える奇妙な抑揚が付けられているが、音楽的に刺激的で中毒性のあるものになっている。何せマッシュルームでダンスである。
個人的にはこの曲が尋常じゃないほどに好き。最高でしょう!日本産サイケポップの最高峰じゃあないですかね?違いますかね?う~ん?


で、聴き終えて思う事…曲調は案外バラバラで、ミキシングで統一感を出している。
殆んどの曲でドラムマシーンが使われその音が全面に出ている。
他の楽器は細やかなアレンジがなされ、テクニカルな印象も受ける。
過剰なリバーブがかかってはいるが楽器音が不明瞭になるほどでは無い。
マシーンの強いビートと残響のベールを被ったボーカル。体を動かしながらも内面世界へと入り込んでゆく…他の楽器群はボーカルより若干前の位置で楽曲のアウトラインを形作る。

このアルバムをプロデュースした中森明菜は、歌詞をメインに置いた歌では無く、「音楽」として新しいもの、自分の心に刺さるものを作ったのだと思う。

次回は、このアルバムを他の音楽と比較して、その語り難さ…を語りたい。
…まだまだ続きそうですよ…