ドッグヴィル(Dogville)


内容
ロッキー山脈の麓に孤立する村ドッグヴィル。
ある日この村の近くで銃声が響いた。
その直後、村人の青年トムは助けを請う女性グレースと出会う。
彼は翌日、村人たちにグレースをかくまうことを提案した。
そして、“2週間で彼女が村人全員に気に入られること”を条件に提案が受け入れられる。
そうしてグレースは、トムの計画に従って肉体労働を始めることになるのだが…。

評価 7 ★★★★★★★

ドッグヴィル プレミアム・エディション [DVD]

ネタバレ全開なので、これからこの映画を観たいと思っている人は読まないでください。
この映画は最初にあらすじを知ってしまうと面白さが半減してしまう映画です。
評価は★7つ。いい映画ですが苦痛を味わいます。
私は途中で何度か映画を観るのをやめたくなりました。
しかし最後まで見れば苦痛も和らぎますから、映画を観るならば最後まで見ることをお勧めします。


以下解説

これはとてもショックを受けた映画です。
人間のエゴが徐々にむき出しになっていく様が本当にリアルに描かれています。
監督は問題作『ダンサー・イン・ザ・ダーク』を撮ったラース・フォン・トリアーですが、こちらの映画も相当な問題作です。

映画を観はじめて、まず最初に思ったこと・・・
それはこのおかしなセットはなんだろう?ということです。
言葉で説明するより写真を見たほうがよいでしょう。

dog1それはこのようなセットなんですが、見てわかるとおり、家と家の間には壁がなくまた家には扉もありません。
景色の無いスタジオに白線で仕切られた家を配置しただけのセット。
これはほとんど舞台劇のセットといえますが、映画の全てがこのセットの中で進行していきます。
最初の15分くらいはとても違和感があって、映画を観るのをやめようか?と思ったくらいでしたが、主演のニコール・キッドマンが出てきたあたりから、ぐっと映画に引き込まれました。

ニコールはギャングに追われるグレースという役で登場しますが、この映画の彼女は本当に綺麗です。
通りや家の間取りを白い線で引いただけの貧相なセットの中に彼女が立つと、夜空に唯一輝く星のような存在感があります。

この映画は全9章構成です。
1章から4章くらいまでは、グレースがドッグヴィルの村人たちと打ち解けて行くまでが描かれており、テンポよく映画をみることができます。
ただ5章から8章は辛い。
見ているうちに、だんだんやりきれない思いに駆り立てられていくでしょう。

最初からグレースは弱みを持っています。
ギャングに追われているという弱みです。

dog4 彼女を村に匿おうと最初に提案した小説家志望の青年トム。
村人全員に気に入られたら、村においてやると言われたグレース。
グレースは村人に気に入られる為に、子守をしたり、農作業を手伝ったりしながら、徐々に村人たちに受け入れられてゆきます。
そして村人たちもそんなグレースを認め、ついには村人の一人として扱うようになります。

けれど、村人たちは徐々に気付きはじめます。
何に気付きはじめたのか? その気付き始めたことこそが、この映画の伝えたいことであり、それは人間の最も厭らしい部分なのでしょう。

警察が彼女の手配書を村に貼りにきて、それに動揺したのが最初のきっかけでした。
ギャングに追われている女を果たしてこのまま匿っていてもよいのだろうか?
この女は信用できるのだろうか?
そんなことを考えているうちに、ギャングや警察の捜索から貧しいグレースを匿う危険と交換に、より卑劣な取引を求めてくるようになる。
村人たちの心の中に弱者に対する優越感や、弱い者に対しては何をしても平気なんだというエゴが芽生えはじめる。

dog3 でも、ちょっと考えればそういう気持ちというのは、誰にでも思い当たることですね。
集団生活の中で正社員が派遣社員に対して抱いている優越感のようなね。
あるいは、学校生活の中でいじめをする者たちの心理のような。
そうしたエゴは徐々に村全体に広がっていき、村人たちは次第に彼女に冷たくなっていく。

グレースが仕事で失敗をするとそれを酷く叱りつける。
よそ者だからという理由で道を通らせない。
グレースの仕事は以前の二倍に増え、なにかにつけて彼女は用事を頼まれる。

dog2 男たちは性的な対象としてグレースを見るようになり、ついには彼女を警察に突き出すと脅してレイプする。
夫の不貞を知った女たちは、グレースが夫を誘惑したのだと言って逆に彼女を罵る。
村を逃げ出そうとした彼女は犬のように首輪をつけられ、奴隷のような扱いを受ける。
鉄の首輪を巻かれ、重りを引きずって働かされる。
子供たちが彼女を馬鹿にし、彼女が男たちに陵辱される度に鐘を鳴らして遊ぶ。

唯一、最初に彼女を助けたトムだけがグレースにやさしく接していたが、そのトムもとうとう彼女を見捨てる。
トムはギャングに彼女を売り渡し、金にしようとする。
見ていて腹がたつというか、画面を叩き壊したくなるような胸糞の悪い展開でした。

そして最終章。トムの密告によりギャングが村にやってくるのですが、ここで村人の誰もが予想もしなかった事がおこる。
グレースは実はギャングのボスの娘だったというおち。
ギャングのボスである父親はグレースに言います。もし娘として戻ってくれたらなら、権力をわけあたえようと。
dog5 この時点でグレースと村人たちの立場は180度逆転してしまい、逆にグレースが権力を持ち村人たちを支配する事になります。

グレースはそれでも村人たちを哀れに思って許そうと思いますが、月あかりが照らし出した村を見た時、理解するんですね。

なんてこの村は汚れているのだろうか。そしてこの村の住人はなぜこんなにも醜いのだろうか。
村全体が癌細胞に犯されているようで、もう手の施しようがない。

そして彼女は決断します。
こんな村は消えてなくなってしまったほうがよいと。

私は、グレースの意思によって村人たちが皆殺しにあうこの9章が一番好きです。
4章から8章は見る気がしませんが、カタルシスを味わう9章だけは何度も見ました。
村人たちが殺されていく様が、とても心地よいんですね。
性格の悪い子供が母親の前で銃殺されますが、胸がスカッとします。
トムはグレースに頭を銃で撃ち抜かれますが、トムにはまったく同情できません。
ラストが衝撃的だといわれる映画ですが、衝撃的でもなんでもありません。
普通このような結末の映画は救いのないことが多いのですが、この映画は後味が悪いどころか救いを見出せる映画です。
もし村人たちがお咎めなしで終わっていたら、それこそ後味の悪い納得のいかない映画になっていたでしょう。

dog7 いろいろな意味で、人間の心理をよく捕らえた映画です。
しかし、この監督の映画は見ていて本当に疲れますね。正直言うと、あまり見たくない。

ただニコール・キッドマンは美しい。
美しい女優は他にもたくさんいるけれど、この映画は彼女でなければ成り立たない映画ではないかと思います。


2003年 178分 デンマーク

監督/ラース・フォン・トリアー
製作総指揮/ペーター・オールベック・イェンセン
製作/ヴィベク・ウィンドレフ
脚本/ラース・フォン・トリアー
撮影/アンソニー・ドッド・マントル
編集/モリー・マーリーン・ステンスガード

ニコール・キッドマン:グレース
ポール・ベタニー:トム・エディソン
クロエ・セヴィニー:リズ
ローレン・バコール:ジンジャー
ステラン・スカルスガルド:チャック
ジェームズ・カーン:ビッグ・マン
パトリシア・クラークソン:ヴェラ
ジェレミー・デイヴィス:ビル
ベン・ギャザラ:ジャック
ウド・キア:コートを着た男
ジャン=マルク・バール:大きな帽子をかぶった男
フィリップ・ベイカー・ホール:トム・エディソン・シニア
ジョン・ハート:ナレーション