オーケストラプレイヤー、音楽教師として働いていた時、いろんな国の国歌を演奏する機会をもらいました。

国歌は好きです。演奏を機会に、それらがどのような経緯で作られたのか、国家として制定されたのか歴史も興味深いからです。

 

国の持つ特徴やイデオロギーも影響がありますし、ハイドンがドイツ国歌を作ったようにその国の作曲家、作詞家が作ったものもあります。

 

以前、アセアン加盟国の演奏家達とのツアーに参加し、ある日、出番待ちの時間に何かのきっかけで国歌(もしくは第二国歌と呼ばれる愛唱歌)の歌合戦になったことがあります。みんながそれぞれ笑顔で誇らしげに歌っていたのを覚えています。

 

私も君が代を歌いました。少し早めに歌いましたが、難しいなあ、と感じました。すると、日本に留学経験がある仲間が

 

君が代は、聴くたびに日本の人と自然を思い出すよ。富士山は大きくて青くて静か。人々も静かで穏やかで君が代のメロディーのようだ、っと言ってました。

 

ここで君が代のアナライズとなりますが、これが結構複雑。

 

楽譜に起こすと、君が代というのは実に単純な記譜で、ハ長調4/4拍子、クラシック音楽で言えば非常に簡単にみんなが口ずさめそうな見てくれなのですが、

 

実は、ハ長調ならドの音で始まらなきゃいけないものをお隣のレから始まるのです。

 

このブログを書く前に、20人ほど歴代の君が代斉唱動画をみてみましたが、私が集めた限りでは、アカペラで最初のレの音をはっきり歌えた人は1人しかいませんでした。それだけ難しいのです。バンドの伴奏で最初のフレーズを演奏してもらえるとそこはクリアできます。

 

しかし、最初の一音が取れても、君が代は、と歌う2小節間を息を取らずに歌うのは至難の業です。なぜかというと、伴奏にハーモニーが付かないからです。歌い手の正しい音程感覚が問われます。

 

自発的に「レドレミソミレ」のワンフレーズを歌詞を途切れさせずに音程を正しく、となるとアカペラは本当に殺人的です。

バンドは歌手と一緒にこのメロディーを奏でますが、歌手がそれをあてにして歌うと今度は言葉の子音が不明瞭になります。これをしている歌手で、音が変わる際に小さく「ン」が入ってしまい、

 

「きぃーみぃーがーぁーンよーぉーンわぁー」

 

とどんどん「ン」も大きくなって何を歌ってるかわからない感じになってる人がいました。

 

「この人、君が代舐めてんな、プロなら本番前にレッスン受けとけよ」と感じますw。

 

それでなくても子音は引っ込みやすいので、きちんと発しないと良く聞こえないのです。しかも「が」の母音アを伸ばしていると息がたくさん出てしまうので、コントロールしないと次の「世は」までたどり着けずブレスをしてしまう。

 

そうすると、君が、世は、となって、歌詞の文言が不明瞭になります。

 

今日私が見た動画では、ここまでがクリアできない歌手が非常に多かったのです。

たったここまでの2小節間だけでも、基本的な発声法、呼吸法、音感が必須です。

 

ざっと説明してもこんだけの要求、しかもこの後は抑揚が高まり高音に飛びます。

 

「さざれ石の」と「苔の」の2つの「の」を高く感じたことがあると思います。これもオクターブのレの音。飛ぶと言っても大して高い音ではないんです。なんで高く感じるかというと、「さざれー」から「石の」に飛ぶ時にラからレへ4度、ピアノの鍵盤で言えば黒鍵と白鍵を5個飛ぶことになります。この間隔、飛ぶの本当に難しいんです。慣れてない、というか。

 

ラからド(3度)、ラからミ(5度)に飛ぶのは比較的簡単なんです。というのも歌い慣れてるからです。

 

しかし曲の最高音を外すのは不本意なのでなんとしても当てたい。

ならば、「さざれー」でひとまず切ると飛びやすいのでそうする、でも歌詞が分断されます。

じゃあ、さざれーと伸ばしながら次の音を探りつつ歌う。

するとポルタメント、つまり正しい到達音まで間の音をかすかに発音しながら音の的を当てる方法を使います。でも、これもうまくやらないと意図がバレちゃう。

 

。。。なんだか疲れちゃいましたw。その後もいろいろありますが割愛w。

 

と言った、楽曲分析が苦手な私がざっと見てもこれだけ普段私たちが聴き慣れている歌謡曲、ポップス、ロックの様相とは違うことがわかります。

 

それより何より、君が代は、他の国の国歌のように万民が決起して合唱をする曲としては作られていないので、心弾むリズムがありません。

 

じゃあなんで、もう、こんな難しい曲を国家にしたの?

 

となりますが、それは、君が代は今でこそ現代楽器によって、また現代奏法によって歌われる楽曲ですが、


実は宮中音楽とされている雅楽の演奏家によって作られたからなんです。ハ長調の楽譜なのにレ から始まるのも、雅楽による旋法(メロディーを作るための音階のこと)が西洋のそれとは全く違うのです。


そして、日本の特徴的な情緒を似合う曲であること。前述したアジアの同僚の言葉に隠されているのだと思います。

 

日本の自然、国土、人とその営み。少しづと歴史を積み重ねてそれは大きな財産の岩となり、苔むす程に永世栄える国、世の中となりますように。。。

 

ここには他国との勝利決死の戦いは求めていません。だから、君が代のフレーズも水が下流に流れるように終止して終わります。

 

それだけに歌詞を明瞭に伝え歌う必要があります。そのためのメロディー重視の曲とも言えます。

 

なので、歌手の皆さんには正しく解釈をし、正しく歌うことを求めたい。決して知っているからとたかを括って付け焼き刃で歌うなどせず、自分のポリシーを強く押し付けるような歌い方はしないで正しく意味を噛み締めて歌ってほしいなと思うのです。

 

国歌は、国民全員のものなのですから。

 

レの音で始まり、レの音で締め括るメロディーの様は、たとえ旅立っても戻る祖国は何も変わらなく迎え入れてくれる大きな包容力を感じさせます。。。というのは大袈裟かw。これはうそうそw。

 

兎にも角にも、日本の国歌君が代は、世界に一つの奇異でもあり稀でもある異端であっても特徴深い唱歌なのでした。

 

日本らしいと言えばらしいよね、と思いつつオリンピック開会式ではMISIAさんの斉唱をちょっと眉を寄せて聴いたのでした。

 

またブログで、他の国の国家について書こうかなと思っています。(現在ご紹介すべく検討中。)

 

本当に国歌は面白い。

 

 

**今回、正調で歌った場合の楽曲分析をさせていただきました。

歌曲の場合、歌手の声域に合わせて正調から上げたり下げたりします。最初のフレーズが低いと感じればそこから2度、3度上げることはよくありますが、それだけ高音も上がるということなので難易度はさほどの差異はありません。シから始めようが、ソから始めようが、曲の形は変わりませんから。