今回は、2021年6月、日本評論社から刊行されました、
最新刊、「メンタライゼーションを学ぼう」(池田暁史 著)をご紹介します。
【書籍紹介】
著者:池田暁史 『メンタライゼーションを学ぼう』
https://nippyo.co.jp/shop/book/8569.html
これまでにも本邦でのメンタライゼーションの発展に尽力されてきた池田先生によるメンタライゼーションの入門書です。その感想を一言で表すと、「本当にわかりやすい!」という言葉に尽きるものでした。 本書の帯には「いちばんわかりやすい入門テキスト」と評されていますが、その文言は伊達ではないことがわかります。あとがきなどを読むと、池田先生がこのわかりやすさを目指して本書を執筆したことがわかるのですが、入門書として本当に素晴らしく、それでいて考えさせられる内容となっています。 何故ここまでわかりやすいのか考えてみました。思うにそれは、池田先生が池田先生ご自身の言葉で、ご自身が消化した言葉で書かれているからではないかと、私は思いました。本書の随所に池田先生ご自身の体験、臨床実践の経験、そして先生の専門である精神分析との対話が織り込まれています。
さて、メンタライゼーションに基づいた治療、MBTのアドヒアランス尺度をアンナ・フロイトセンターが公表していますが、そこにはauthenticity という項目があります。真正性、純粋性など、どう訳すかが難しい言葉ですが、私はこれを、臨床家自身が自分自身であることの重要性、と捉えています。 つまり、メンタライゼーションの臨床家は自身を偽らず、自身の感覚に正直に、自分の考えを持って、主体的に取り組むことが重要だということだと、私は理解しています。その意味で、本書はとてもauthenticで、「池田先生自身」が表現されたもので、そして極めてメンタライジングな本だと思うのです。 精神分析をオリエンテーションとする池田先生にとって、池田先生ご自身に正直にメンタライゼーションについて取り組むこととは、精神分析との関連で考えるということがごく自然なことだったのでしょう。同じように、例えば認知行動療法をオリエンテーションとする臨床家であれば、あるいは特定の学派に寄らないスタイルを持つ臨床家であれば、そうした自身のオリエンテーションや臨床感覚に正直にあって良いのだというauthenticなスタンスを本書は体現していると言えるのではないかと思います。
池田先生ご自身の体験がふんだんに盛り込まれているのも、先生が人間として正直に本書に取り組まれているからなのかもしれません。 こうした正直さ、消化されていない知識ではなく、池田先生ご自身が血肉とされている言葉で書かれていることが、本書をとてもわかりやすく読みやすいものとしているのではないでしょうか。 こうしたスタンスを体験できるという意味で、精神分析的な考え方に触れたことがない人にとっても本書が本当にわかりやすい入門書であることは、何度繰り返しても足りないくらいです。 私はメンタライゼーションに親しみやすさ、関心を抱く方が増えることを常に願っていますが、その願いは恐らく本書によって叶えられることでしょう。
(東 啓悟,日本メンタライゼーション研究会運営委員)