勝手に採点 ☆☆☆


武士や町人などの生き様を丁寧な筆致と地道な
描写で描く時代人情短編集。


印象に残ったのは「討九郎馳走」と「主計は忙しい」。


どちらも武士が主人公だが、対象的な二人。


前者では江戸初期で戦国時代の荒々しさ、生き様を
強く残した勇ましい部下が、殿様の企図した通りの
活躍を見せる物語。


一方、後者はユーモア溢れる一編。


忙しさに翻弄され、妹の婚礼や自身の結婚話までも
忘れてしまう主人公が、最後はしっかり仕事をやり
遂げる。


こうした輩は仕事が出来ないものだが、彼は別、。


粗忽を装っているものの、やることはしっかりやり、
いざというときは流血も辞さない男らしい心意気。


本当の武家社会に思いを馳せて、いろいろ想像した
くなる一編。

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向日葵の咲かない夏/道尾 秀介
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勝手に採点 ☆☆☆☆☆!


小学生が同級生の友人宅へ訪れたところ、彼が首吊り

自殺を図っていた現場に遭遇。


驚いて教師に連絡して現場に戻って見るとあったはず

の遺体が消失していた!?


遺体を運んだ犯人は誰なのか。本当に自殺だったのか。


乙一の世界観に優れた推理小説の要素を織り込んだ感じ。


生まれ変わりのアイデアをここまで大胆に取り入れ、
読者をかく乱する手法はお見事。


また、推理小説の王道どおり、こいつが犯人かと思わせ
ておきながら、きっちり別に犯人を用意しておくあたり
の手際の良さにも感心。


最近はこういった大胆で独創的な作風の著者に会う機会が
なかったので非常に新鮮な気持ちにさせられた。

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悪人/吉田 修一
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勝手に採点 ☆☆☆☆


九州のとある田舎で発生した保険外交員殺害事件。


当初、犯人と思われ逃走していた大学生は無実である
ことが判明し、新たに容疑者として浮かび上がって
きたのは若い土木作業員の男。


何故に彼は殺害に到ったのか、そして、彼の逃亡生活
が始まる・・・。


話がテンポ良く進み、かつ登場人物それぞれの視点か
ら書かれていることから全く飽きさせることなく終盤
まで一気に読み進めることが出来る。


謎解きのミステリーというよりは、犯人や被害者たち
の独白という形を取っているためドキュメントタッチ。

ただ、残念なのは心理描写が表面的で苦悩や葛藤が描
ききれていない。


結局犯行理由もあいまいなまま。


芥川賞作家が宮部みゆきや東野圭吾ばりの大衆小説に
挑んだものの、十分力が出し切れなかった印象。


積極的にイメチェンに挑んだ姿勢は○。

ともあれ実力は折り紙つきなので次回作に期待したい。

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シャドウ (ミステリ・フロンティア)/道尾 秀介
¥1,575
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勝手に採点 ☆☆☆☆☆!


癌で妻・母親を失ったばかり父親・我茂洋一郎と息子・凰介。


彼らの近所に住む洋一郎の親友で級友・水森と妻の瞳、娘の
亜紀は、妻同士も大学の同級生、子供同士も小学校の同級生

という文字通りの家族ぐるみの付き合いだった。


しかし、瞳の自殺から運命は急展開を見せ、事態は意外な方
向へ展開していく。


プロットが素晴らしい。


若干騙しうちの感は拭えないものの、それでも洋一郎の行動
に関する二重の仕掛けはまんまと騙され優れた着想に感服。

もうひとつキモは亜紀への暴行トリック。


これはもっと騙しうち臭く感心しない。後だしジャンケン。


それでもここまで引き付けどんでん返しを食らわす筆力は
やはり賞賛されてしかるべき。


もうひとつうまかったのは文章構成。


登場人物各人の一人称の視点で区切られているため、読者
が感情移入しやすく物語り全体を把握しやすい。


驚くほど巧妙な仕掛けと衝撃のクライマックスに満足でき
ること請け合い。

二つの祖国〈上〉/山崎 豊子
¥780
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勝手に採点 ☆☆☆☆


太平洋戦争の勃発により日米二つの祖国の間で揺れ動
いた日系人たち。米国に居住していた者は強制的に収
容所に送られ、


また、日本に戻った者も、蔑視や偏見に晒され経済的
にも苦しい生活を強いられた。


そんな悲劇を鹿児島出身の日系人・天羽家の長男賢治
をメインに彼らが味わった苦悩や時代に翻弄された生涯
を描く大河小説。


主人公の賢治は、大学途中まで日本で教育を受け、それ
から渡米した日系人。


彼が新聞社の職を奪われ、収容所暮らしを経て米軍の日
本語教官となり、弟忠とフィリピンの戦場で出会う悲劇
はあまりにもドラマティック。


その後実の兄に心を閉ざしてしまう心情も理解できる。


その後、賢治は戦後の混乱期に日本へ駐屯し、東京裁判の
モニターを勤める。


戦勝国が戦敗国を裁く不条理さと、米国市民でありながら
薩摩っぽの心情を持つ彼は、長い裁判の間に心身ともに
疲弊し、心の平安を乱していく。


唯一のより所である梛子を原爆症で失い、所属する陸軍から
も国への忠誠に疑惑をかけられ死を決意する。


はからずも終戦記念日に近いこの時期に手に取った本書。


敵と味方という簡単な図式では表せない複雑な境遇、処遇
を味わった日系人たちの苦悩はいかばかりか。


戦争=悪ではあるのだが、その手段を取るに到った過程を
東京裁判のモニターという賢治の視点から、いわゆるA級
先般たちの証言を元に詳細に再現している。


このあたりは、本書のストーリー性からは浮いた部分なの
でついつい読み飛ばしてしまいたくなるものの、歴史的見
地からは興味深いところ。


登場人物たちも個性的。ただ、賢治の妻エミーだけは薄っ
ぺらく、変化に乏しい描写で残念。


彼女の人物像をより厚くした方が作品全体の深みと賢治の
ヒューマニティがより実感あるものになったに違いない。


とはいうものの、全体としては複雑なテーマを分かりやす
いエピソードでまとめきり、長編大作として昇華させた
氏の力量に感服。

失われた町/三崎 亜記
¥1,680
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勝手に採点 ☆☆☆


町に住む住人が忽然と姿を消してしまう消失現象。


数十年に一度訪れるこのカタストロフに立ち向かうべく
管理局なる秘密組織が活動し、失われた町に関する
あらゆる情報を収集、廃棄していた。


さらにその悲劇を阻止するため様々な試みが験され奏功し、
新たな消失町が特定され住人が避難を完了する。


この先どんな事態が発生するのか!?


半世紀近いタイムスパンの話が時系列的に並んでいない
ので全容を把握しずらい。


結局、あれ、これだれだっけ?と前に戻ること請け合い。


さらに、登場人物も多く感情移入できないまま、次章に
進んでしまい消化不良感も残る。


もうひとつ分かりにくいのが、架空の時代、地域設定。

ここまで複雑にする必要もないと思うのだが、筆者は
色々詰め込みたかったらしい。


「ドリームバスター」や「屍鬼」の雰囲気にも似た独特
の世界観が特徴の新しい試み。


個人的には好みではないが万人に受け入れられるものだろうか。

まほろ駅前多田便利軒/三浦 しをん
¥1,680
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勝手に採点 ☆☆☆☆


まほろ市で便利屋を営む多田とひょんなことから
居候する事になった高校時代のクラスメート行天。


気の合わないコンビのささやかな活躍と友情を描く。


アイデアと巧みな文章次第で面白い作品を作れる典型。


殺人事件やびっくりするような事件なしでここまで
楽しませる筆者の力量はかなりのもの。


主人公の二人もお互いバツイチで全くさえないものの、
便利屋という商売を通じて、人と出会い交流し幸せの
意味を見出していく。とてもささやかだが。


挿絵の二人はレディースコミックに登場するような
かなりの美形だが作中は全く印象が異なる。


年齢設定は分かりにくく微妙。20代後半か。


特に好感の持てる登場人物は娼婦のルルたち。

身体は売っても心までは売らない典型。


チワワもさぞかし幸せに過ごしていることだろう。

それにしてもタバコを吸うシーンが多い。


ドラマ化すれば真っ先にJTがスポンサーに名乗りを
あげるだろう。ただし、肺ガンにはご用心。

スパイ大作戦/室積 光
¥1,680
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スパイ大作戦

勝手に採点 ☆☆


時代は高度成長期。陸軍中野学校でスパイ教育を受けた主人公が
アメリカとソ連の間で活躍するドタバタ小説。


筆者は『都立水商!』『ドスコイ警備保障』以来、すっかり精彩を
欠いている。


登場人物のキャラも薄っぺらで全く中身がないし、ストーリーも
ハチャメチャ。まるでギャグ漫画の世界。


もう彼の小説を読むのは時間の無駄!?

ハリー・ポッターと謎のプリンス ハリー・ポッターシリーズ第六巻 上下巻2冊セット (6)/J. K. ローリング
¥3,990
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勝手に採点 ☆☆☆☆


ご存じ人気シリーズ第五弾。


ダンブルドアはヴォルデモートの謎を解くべく最上級生となった
ハリーに対して直接授業を行うことに。


記憶術によって除々に明かされるヴォルデモートの誕生秘話。
そして彼を倒すための重要な秘密を彼等は握る。


親友ロンとハーマイオニー、ハリーとジニーとの恋愛模様や
マルフォイ、スネイプの裏切りなど盛り沢山な内容で最終章へ向け
つき進む。


終始いらだっていた前作と異なり、ハリーもだいぶ大人に。
ダンブルドアとの個人授業によって、ヴォルデモートを倒す
「選ばれし者」として急速に自立していく。


魔法学校の授業風景やクディッチの試合、ハグリットとのかけ合い
など楽しげな描写は極端に少なくなり、最終章での対決に向け、
ヴォルデモートの魔の手が魔法学校の至るところに現れる。


何といっても最大のクライマックスは、スネイプの裏切りによる
ヴォルデモートの死。


どうもこうあっさりと片付いてしまうと何か裏がありそう。


最終章ではハリーの死も予想されるだけに、一段の期待と一抹の
不安を覚えながら最終章を待ちたい。

うたかた (下)/渡辺 淳一
¥550
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勝手に採点 ☆☆


中年作家と着物デザイナーの人妻の不倫劇。

果たしてその結末は。

どうもこの人の文章はお爺ちゃん臭さが抜けない。


いまどき着物を着るのが好きな50代っているかいな。


どんな文章を書く作家か知らないが、暇も金もあって

不倫相手と旅行&食事三昧とは羨ましい限り。


その上、家族はそんな父親には関心なさげ。


一方、人妻の方は小さな子供がいながら、母親に

預けて仕事&不倫三昧。


旦那からは暴力や嫌がらせを受けているようだが、

どうも生活感に乏しい。


二人で熱海、京都、北海道と旅行して夜はハッスル。

なんと我がままジジイの気まぐれで剃毛プレイまでも。


お爺ちゃんの「こんな不倫してみたいな~」的妄想小説

をなんでマスコミはこぞって取りあげるのだろう。


どこに文学的価値があるの?と首を傾げざるを得ない。


よっぽどフランス書院の作品群の方がいろいろなシチュ

エーションがあるはず。