著者: 横山 秀夫
タイトル: 深追い

勝手に採点 ☆☆☆

某県警三ッ鐘警察署に勤務する警察官に巻き起こる様々な事件。

それらの出来事を通じて、家庭生活や恋愛の苦悩、階層社会に

生きる厳しさをリアルに描く短編集。

最も気に入ったのは表題にもなっている「深追い」

交通事故で死んだ男のポケベルを拾った交通係が、その妻に遺品

を返そうと会いに行くとそれは昔の恋人。


ついつい返しそびれたポケベルには、なぜか彼女から夕食の内容を

伝えるメッセージが送信される・・・。

人は噂や見かけでは判断できない典型例。やはり子供ネタには弱く、

虐待を受けていた事実とそれが妻の悲しい過去に起因する現実が

あまりに切ない。

逆に明るい気分にさせてくれるのは「又聞き」

小さいころに溺れて死に掛け、救助してくれた大学生が死亡すると

いう辛い過去を背負う新米警官。


当時の関係者を訪ね、話を聞くことで隠された「ある事実」を知り、

ようやく過去の呪縛から開放される。

いつもの唸らせるようなストーリーの意外性や緊迫感、男臭さ、

スピード感に欠け、どちらかというとほのぼの系に走っているのは

好みの分かれるところ。

これはこれでよく出来ているが、印象としては想定の範囲内に

収まっているようで物足りない気が。

それでも、警察の内部事情に通暁している氏ならではのネタが

散りばめられているのはいつもながら感心。

これだけ上層部の締め付けきつく、足の引っ張り合いやプライド

の激突が多いあまりに劣悪な職場環境に同情する。


いまどきの警官は楽じゃない!