「雨の山吹」

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雨の山吹 (新潮文庫)/山本 周五郎
¥580
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勝手に採点 ☆☆☆☆


表題を含む10篇の短編集。


無名の武士たちの絶妙な悲哀を描き、心に残る名作たち。


「雨の山吹」

家族を裏切り失踪した妹を斬るため、探索の旅に出た兄が
慎ましくもひたむきに生きる彼女の生き様に触れ、心を打
たれ成敗を断念する。


「喧嘩主従」

殿様のけんか相手と自負して来た家来が、勇み足でしでか
した始末。いつものことかと誰も気にとめなかったものの、
彼の婚約者が聞き及び、家来としてあるまじき振る舞いと
非難し一方的に離縁を宣言する。


その家来はそれから数年姿を消し、殿様の国替えに伴い帰
国したところ・・・。


時代小説にありがちな、武士道や男臭さだけでなく女性の
役割、気心にも焦点を当て、人と人との微妙なつながりを
描く手法には好感が持てる。

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二つの祖国〈上〉/山崎 豊子
¥780
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勝手に採点 ☆☆☆☆


太平洋戦争の勃発により日米二つの祖国の間で揺れ動
いた日系人たち。米国に居住していた者は強制的に収
容所に送られ、


また、日本に戻った者も、蔑視や偏見に晒され経済的
にも苦しい生活を強いられた。


そんな悲劇を鹿児島出身の日系人・天羽家の長男賢治
をメインに彼らが味わった苦悩や時代に翻弄された生涯
を描く大河小説。


主人公の賢治は、大学途中まで日本で教育を受け、それ
から渡米した日系人。


彼が新聞社の職を奪われ、収容所暮らしを経て米軍の日
本語教官となり、弟忠とフィリピンの戦場で出会う悲劇
はあまりにもドラマティック。


その後実の兄に心を閉ざしてしまう心情も理解できる。


その後、賢治は戦後の混乱期に日本へ駐屯し、東京裁判の
モニターを勤める。


戦勝国が戦敗国を裁く不条理さと、米国市民でありながら
薩摩っぽの心情を持つ彼は、長い裁判の間に心身ともに
疲弊し、心の平安を乱していく。


唯一のより所である梛子を原爆症で失い、所属する陸軍から
も国への忠誠に疑惑をかけられ死を決意する。


はからずも終戦記念日に近いこの時期に手に取った本書。


敵と味方という簡単な図式では表せない複雑な境遇、処遇
を味わった日系人たちの苦悩はいかばかりか。


戦争=悪ではあるのだが、その手段を取るに到った過程を
東京裁判のモニターという賢治の視点から、いわゆるA級
先般たちの証言を元に詳細に再現している。


このあたりは、本書のストーリー性からは浮いた部分なの
でついつい読み飛ばしてしまいたくなるものの、歴史的見
地からは興味深いところ。


登場人物たちも個性的。ただ、賢治の妻エミーだけは薄っ
ぺらく、変化に乏しい描写で残念。


彼女の人物像をより厚くした方が作品全体の深みと賢治の
ヒューマニティがより実感あるものになったに違いない。


とはいうものの、全体としては複雑なテーマを分かりやす
いエピソードでまとめきり、長編大作として昇華させた
氏の力量に感服。

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隠し剣秋風抄/藤沢 周平
¥620
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勝手に採点 ☆☆☆☆


ヒト癖ある無名の剣客たちを主人公に彼らの生き様を
描く時代小説。


内容的には「たそがれ清兵衛」の続編と言ったところ。
短編なので割り切って読みやすい。


こうした地味な下級武士の心情や活躍を描かせたら右に
でるものはいないだろう。


苦しい生活ぶりや過酷な状況に陥っても決して湿っぽく
ならず、彼らのしなやかさがからりとした文章で綴られる。


特に印象深かったのは、役目で視力を失った武士の復讐劇。

彼の苦悩の深さと潔さ、妻の献身さに心を打たれる。


読んでいて次の物語が楽しみなこと請け合い。

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赤ひげ診療譚 (新潮文庫)/山本 周五郎
¥580
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勝手に採点 ☆☆☆☆


江戸の公儀診療所小石川療養所を取り仕切る「赤ひげ」こと

新出去定。


腕っ節が強く、話し方も一見乱暴だが、腕はぴか一で
幕府・各藩の要人にも多大な信頼を寄せられている。


一方で貧民のために無料出張診療を自主的に行い、金がなく

医療の施しが受けられない町人を日夜助けている。


一方、長崎から遊学から帰国した医者見習いの保本登は、出世

意欲満々で幕府の御典医になる目論みをもっていたところ、


はからずも小石川へ送られ、不本意ながら働くことになるが・・・。


古臭さを全く感じさせず現代にも通用する内容。


赤ひげの助けを借りながら様々な患者に出会い治療していくことで、
保本が人間的に成長を遂げる様が見事に描かれている。


エリート意識丸出しであからさまに相手を見下す態度は「県庁の星」
の主人公そっくり。


しかし、私生活では婚約中の彼女に逃げられ、仕事面でも不本意な扱
いを受け挫折を味わいながらも、赤ひげの厳しく温かい指導により
第二の赤ひげを目指すことになる。


ラストのすっきりとしたまとめ方、保本の潔さが爽やかな感動を呼び
起こす。

法月綸太郎の新冒険 (講談社文庫)/法月 綸太郎
¥700
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勝手に採点 ☆☆☆


ミステリー作家の法月倫太郎が、父の法月警視が捜査
の指揮を取る難事件を名推理で解決に導く本格推理小説。


短編なのでダラダラ続かずコンパクトにまとまった印象
で好感が持てる。


文中で倫太郎がいっている通り、こういったミステリーは
理屈を虚構として捉える精神のスポーツとして、知的パズル
を解く感覚で楽しむべきだろう。


そういう意味では、職務上の守秘義務をベラベラ息子にしゃべり、
その息子が捜査の手助けをするというありえない設定もご愛嬌。


推理小説のお約束である、必ず事前に登場する一番臭くない人物
が犯人であるという定説を頑なに守るオーソドックスな作り。


東西の推理小説をモチーフに筆者のアイデアを昇華させたなかなか
の作品群。ただ、金田一耕介やコロンボ的なこじ付け的発想、執拗
な食い下がりが苦手なヒトにはお奨めできない。