フィル・コリンズ ~ 夜の囁き | あれも聴きたいこれも聴きたい

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 イギリスに住んでみて初めて分かったことは、フィル・コリンズこそが典型的なイギリス親父の顔立ちだということでした。郊外のスーパーに行くと、あちらこちらでジャージを着たフィル・コリンズ似のおじさんがカートを押している光景を必ず見かけたものです。

 そんな親しみやすさも味方したのだと思います。元々目立たない役割を引き受けていたはずのフィルがジェネシスのフロントマンとなり、さらにソロ活動を始めると、これが大ヒットを記録し、英国の国民的歌手となっていきました。

 本作はフィルのソロ・デビュー作にして、英国では5年間もチャート入りしていたというメガ・ヒットとなった作品です。米国でもトップ10ヒットを記録しており、全世界では700万枚を軽く超える大ヒットになりました。すわ、ジェネシス脱退かと噂されたものです。

 このアルバムを語る際には、必ずといっていいほどフィルの最初の結婚の破綻が引き合いに出されます。その強烈な感情がアルバムに込められているという解釈です。初のソロ作が予想を超えるヒットになったために、そう解釈することで安心を得られるというものです。

 アルバムの原題は「フェイス・バリュー」です。フィル・コリンズの顔のドアップをジャケットにもって来て「フェイス・バリュー」。英国人の典型的な顔の一つだということを考えあわせれば、英国らしい洒落の効いたタイトルだと思います。

 しかし、リマスター盤を買ってみて驚きました。ジャケットの顔は2016年のフィル・コリンズです。オリジナルと同じ構図で年齢だけいっちゃいました。裏ジャケットもご丁寧に同じです。昔は長髪でしたが、短く刈り揃えた後頭部になっています。

 そんなお茶目な仕掛けがあるので、婚姻生活の破綻と言われてもピンとこないのですが、邦題にもなったシングル・ヒット曲「夜の囁き」を聴けば納得です。スローなバラードが次第に盛り上がり、力強いドラムが立ち現われるところで鳥肌が立つシリアスな名曲です。

 本作でフィルは本職のドラムとボーカルの他に、ピアノやシンセを演奏しています。初のソロ・アルバムということで、バンドではできないことをいろいろと試してみたのでしょう、各楽曲のスタイルはそれこそまちまちです。ジェネシスの曲もカバーされていますし。

 ビートルズの問題作「トゥモロー・ネバー・ノウズ」を比較的オリジナルに沿ったアレンジで収録していますし、シングル・ヒットした甘い「甘い囁き」、バイオリンのシャンカルのボイパを使った「ドローンド」など多彩な楽曲がてんこ盛りです。

 ミュージシャンはジェネシスのツアー・メンバーやフィルの課外活動であったブランドXのメンバーなどフィル周辺から選ばれています。しかし、最も驚かされるのはアース・ウィンド&ファイヤーのホーン部隊の参加です。このソウル全開ホーンがフィルのドラムにぴったりです。

 エリック・クラプトンもゲスト参加していますが、ここはやはりフィル・コリンズの独壇場です。私生活のごたごたはこうして音楽に昇華されました。ヒュー・パジャムとともに80年代を代表する作品を作り上げたと評価される素敵なアルバムです。

Face Value / Phil Collins (1981 Virgin)