時代は移りました。UKソウルの新しい歌姫ということで、このジャケット。私などはどうしてもシャーデーを連想するわけですが、そういう意見はまるで少数で、過去の大物との比較でいくと大多数はエイミー・ワインハウスです。エイミーが亡くなってからでももう7年。

 ジョルジャ・スミスは1997年生まれです。もはや21世紀生まれのアーティストが出てきそうになってきました。英国中西部ウォルソール出身の彼女はスタバで働きながら音楽活動を続け、サウンドクラウドにアップした曲「ブルー・ライツ」が注目を集めてのデビューです。

 このあたりの事情も21世紀的です。「ブルー・ライツ」はグライム界の巨人ストームジーなどがSNSに取り上げて絶賛、さらにドレイクやスクリレックスなどの大物を虜にします。同曲はBBCのミュージック・サウンド・オブ2017で4位にランクインするという注目ぶりとなります。

 ドレイクはしっかり褒めた責任を果たします。ジョルジャはドレイクのUKツアーのサポートを務め、さらにアルバムにも参加します。こうなるともう勢いは止まらない。お世話になっているVEVOは彼女のMV制作に出資しますが、これはVEVO初の出資なのだそうです。

 2017年暮れには過去にアデルやサム・スミスが受賞したことで知られる、ブリット・アウォードのクリティック・チョイス・アウォード賞を受賞します。これは有力新人を投票によって選出するもので、いかに彼女が期待されているかがよく分かります。

 今や飛ぶ鳥を落とす勢いのケンドリック・ラマーがプロデュースしたサントラでもボーカルを披露して、もはや期待は爆発寸前、そこに投入されたのがこのデビュー・アルバム「ロスト・アンド・ファウンド」です。期待通りの素晴らしい出来です。

 最初のアルバムということで、彼女の運命を変えた「ブルー・ライツ」や、その後のシングル「ホエア・ディド・アイ・ゴー」、「ティーネイジ・ファンタジー」を収録して、これまでの彼女のキャリアを俯瞰することができる作品です。

 クレジットがあるだけでも10人以上のプロデューサーを迎えて制作されています。作曲クレジットもそれぞれのプロデューサーと共同となっていますが、しっかりとジョルジャの名前は刻印されていますし、ジョルジャが運転席に座っていることははっきりと分かります。

 プロデューサー陣はこぞってジョルジャの歌の魅力を最大限に発揮することだけを頭に置いて作業をしているように思います。時にアコースティックにためを効かせ、時にアグレッシブに追い立てるように、しかし決して出過ぎることはない。見事な伴走ぶりです。

 ジョルジャはハスキーな滋味深い声の持ち主で、その歌声はしばしばアデルに比べられます。実際、ジョルジャはアデルやエイミー・ワインハウス、ローリン・ヒルに影響を受けたと素直に語っています。彼女の名前がそうした大名跡に並ぶ日も期待されます。

 R&Bの王道を歩みながらも、ここではフリースタイルにも挑戦していますし、クラブ・ミュージックの成果も十分に取り入れた現代的なサウンドが展開されています。若々しさが深みを倍増させる歌声はすべてを吸収しながら輝きに変えていきます。長く活動してほしい。

Lost & Found / Jorja Smith (2018 FAMM)