私は幼稚園の先生をやっていた。
子供達は知ってる子も知らない子も居た。
穴の空いた積み木に木の杭を打ち込んで柵を作ったり、直径7センチほど、高さ1mほどの木の棒とエナメルとラバーの中間みたいな素材の色とりどりの(でも白が多め)の屋根のテントを張ったり、幼稚園児の遊びにしては少し高度な事をやっていた。
休憩の時間に、絵本の読み聞かせの代わりに、何故か私の生い立ちをお話しする事になった。
「私は一本の桃の木が真ん中に生えたちいさな島のある泉で生まれたの。
私は桃と泉の水を飲んで育って、時々泉に遊びに来る白い水鳥たちに色々な事を教わったわ。
数字、天気、酸素と二酸化炭素、愛、死、とにかく生きるのに必要な事は大体水鳥たちに教えてもらったわ。
ある日泉の水を汲んでいると、大きな昔の戦車(今で言う4頭引きの馬車)に乗った金とも銅とも言えない謎の金属で出来た甲冑を着た戦士が泉にやってきて、王子様が私を呼んでいるから来てください、と言うので、私は外の世界見たさに戦車に乗って天界に行ったの。
天界は暖かくてさらさらしていて、あらゆるものが上質で、どんぐりが通貨になっていたわ。
そう、つまりこの世界に来たってこと。
私は王様の居るお城で、「お酌」といって、グラスにお酒を注ぐだけの仕事をしていたの。
でも退屈しちゃって、こっそり抜け出して、逃げているところをノアちゃん(お絵描きが好きな女の子)に助けてもらって、オオハシ先生が私を雇ってくれたの。
そしてこうしてみんなにお話をしたり、お歌を歌ったり、一緒に遊んだりできるようになったのよ。」
と締めくくると、ほとんどの子供はポカンとしていた。
人間界へ降りて人間と結婚する神は居ても、人間界から天界に連れて来られる人間はあまり多くはないのでどうゆう事かわからないのも仕方ないと思った。
子供達が帰る時間になり、保護者が迎えに来た。
私と子供と母親の3人で写真を撮っていく人も居れば、遠くから無許可でシャッターを押すモサめの太った母親も居た。
私が金髪なので、園長が私を奥に隠した。
クレーム対応乙と思った。
残った子供は延長保育、預かり保育、という名目で18か19時頃まで預かっていた。
その子供達と遊ぶのが私のメインの仕事だった。
日中は出来ない、空中にパチパチ光る熱や電気を持たないプラズマのようなものをたくさん浮かべて、それに当たらないようにスタートからゴールまで行く遊びや、パズルのピースが時間や何かの条件で変形する高難易度すぎるパズルをしたり、水彩でセルアニメ(手塚治虫のベラドンナみたいなやつ)を作ったりした。
外は真っ暗で夜の神様達が闇の中を行ったり来たりしていて、その巨大さと光を必要とせず真っ暗闇で俊敏に動き回る様子が私は少し怖いというか、畏れ、尊敬と勝てねー感と逆らっちゃいけない感でちょっとビビり、子供達が怖がらないように外の見える窓のカーテンを閉めた。
園の照明は光度がかなり高くあたたかい色をしていて、とても安心できた。
次々に子供の保護者が迎えに来て、誰も居なくなると、私は園庭のサッカーゴールの周りを掃除した。
園舎と園長先生が住む家が同じ敷地内にあるんだけど、その二つの建物の間には人が1人通れる空間があって、なぜかその細い道を出たところに目立つようにゴミ袋がひとつ置いてあった。
やたらまんまるい形をしていて、中には黒い濡れた物体が入っているようだった。
なんだかそれと悪戦苦闘した記憶があるけど詳細は忘れた。
私は13日に34歳になる。
天界に来たはいいけど私はいつか歳をとって死ぬのだろうか、それとも天界にいる時点で永遠の命を授かっているのだろうか、その辺の大事な説明受けてないんですけどと思うと同時に、天界で老化が止まるとしたら、子供達は永遠に成長しないのかと思ってなんか疲れた。
帰って眠りたかった。
でも私の家ってどこだっけ…って途方に暮れてしまった。