2023.08.24 見世物小屋の嘘夢 | 夢の島思念公園

夢の島思念公園

2005年から書き続けている夢日記

私は私ではなくある見世物小屋のような街を転々とする一団で暮らす少女だった。


私には父がいて母がいて、父は団長で、母はとても美しく気丈な人だった。

父はいつも紺地のカスリの着物を着ており、母はモノクロで、あまつさえアウトラインというか、線画で表示されていたがそこらの花魁より派手な顔立ちで清楚な着物は見る人をハッとさせる魅力があった。

父は母をとてもとても愛していたけど、いかんせん母はクールなタイプで父は愛情表現が不器用だった。


父は母のためか、ただの得意料理なのか、小麦と水と油を練ったものを楕円形に焼き、その中に蒸したさつまいもを潰したものを入れて半分に折ってまた少し焼く、スイートポテトパイのようなものをよく作っては私や母や団員を喜ばせた。

その料理に名前があったが、思い出せない。


私はその料理をいつでも作れるように、さつまいもを切らしてはいけないと父が独りごちているのを聞いたことがあったので、私は暇があれば民家の畑でしれっと1本失敬したり、滝の上に誰かがひっそり暮らし、ひっそりと死に、そこに植えた芋が自生したようなものを掘ったりして、旅団にさつまいもを蓄えて居た。


旅団に新参者の少女が居た。

私たちは各地を周る間、その地の芸人とその家族を一時的に団の一員として面倒を見たりする事がある。

少女は名乗ったが忘れた。

毛量の多いおかっぱで、私は彼女に何年も前に一度会った事がある気がした。

私たちはすぐに仲良くなって、私が「芋を掘りに行かなくちゃ、優しく芋を掘れる道具はどれだろう」とホームセンターで右往左往していると、スコップ?シャベル?とにかく砂場で使うやつっぽいやつの売り場に連れて行ってくれた。


その日、私は自分のやり方で父のポテトパイのようなものを作っておかっぱちゃんに振る舞った。

とても喜んでくれて、もっと食べたいと言ってくれたので私の芋掘り意欲はますます高まった。

「今度父が作ったのを食べてみてね、私のよりずっとずっと美味しいから」と言って眠った。


次の日私たちは金の稲穂がどこまでも続く田んぼの端を歩いていた。

田んぼ、私たちが歩いてる道を挟んで山、という立地で、無限田んぼより山の方が面白そうだったので山に入るとすぐに小さな滝があった。

滝の上まで行って、崖に腰を下ろして色々なことを話した。


学校のこと、旅団のこと、好きな男の子のこと、いじめのこと、お母さんが居ないことなんかを聞いた。

そして、私の父が母以外の他の女と寝ているところで終わる読み物がある事を教えてくれた。

それを読んだけど難しくてあまりよく分からず、最後までペラペラと飛ばして件の文に辿り着いた。

全く知らない見たことも聞いたこともない若くて頭の悪そうな女と父が床に入るところでその本は終わって居た。

私はさほどショックは受けなかったが、この本が母の目についたらと思うと少し背中に冷風が当たったような感じがした。


少女に「お父さんはどんな芸をするの?」と聞いたら、とても悲しそうな顔をした。

「無一輪」という、とても美しいが存在しない一輪の花がそこにある、という不思議な芸があり、それが団員のみんなに馬鹿にされているような感じだった。

「お父さんは、存在が曖昧なの。」

と言っていた。

そのあと、私を数十秒間黙って抱きしめてそろそろ降りよう、と言った。


団に戻ると母はノーモーションで最初から居なかったかのように消えていた。

父は母が居なくなった事に明らかにショックを受けていたが、どこかで元気にやっているさ、というような感じに振る舞っていた。


スマホにazuma君からメッセージが届いていた。

何のサービスを介していたか分からないけど、多分Twitterとか。

10年、いや20年ぶりの連絡だった。

今興行に来ている街に住んでいるのだと言う。

私は驚いて嬉しくて、早速会う約束をした。

バカの一つ覚えのようにazuma君にもポテトパイを振る舞うため、またホームセンターで待ち合わせた。

道具を買い足す時に、何か皮肉を言われたけど、元彼の中村屋と重なって嫌な気持ちになった。


azuma君との再会がそんなに嬉しく無くなっちゃった私は、どうせポテトパイを作るならおかっぱちゃんにも食べさせたいと思って彼女を探すと、金の田んぼの中に1人で立っていた。


話しかけると「私は勉強する。受験して、更に勉強する。

知りたいという好奇心を持ち続けなさいと前世から託されたわけじゃない、

ただ、私はもっともっと学ばなければならない、本当の事とそうでない事を分別できるようにならなくてはいけない」

と言って、「そこをどいて、参考書を買いに行かなきゃ」と言ってそれっきり彼女と会うことは2度と無かった。

存在が曖昧な父、私の父のゴシップ記事、それくらいしか彼女を突き動かす原因を私は知らないが、もっと根深く怒りのような原因が本当はあるのだろうと思った。


私ははじめから、この世界は平山夢明が書いた小説のひとつを元に生成された夢の世界だと思い込んでいたけど、どうも思い当たる話が出てこないので、それも夢の一部だったんだと思う。